“オレはアレだ"『ボヘミアン・ラプソディ』


映画『ボヘミアン・ラプソディ』日本オリジナル予告編解禁!

 フレディ・マーキュリー伝記映画!

 二十世紀最高のチャリティコンサートとして知られるライブ・エイドのステージに立つ、「クイーン」のメンバーたちとフレディ・マーキュリー。彼らの出会い、数々の名曲の誕生、愛と確執……全てはステージ上で結実する。

 自分はまったく洋楽に無知で、クイーンとフレディの名前と、いくつかのめっちゃ有名な曲は聞いたことがあるかな、という程度。あ、吉良吉影のキラー・クイーンの元ネタだってのは知ってますよ。
 まあそんな感じだったのだが、ブライアン・シンガーの遺作(死んでないけど、まあ今後メジャーでは撮れないかもだし)ということで行って参りました。
 FOXのファンファーレで遊ぶのはシンガーらしいよなあ、と思いつつ、フレディの後ろ姿から始まるオープニング。

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 登場した瞬間からすでに歌の上手いフレディの、ブライアンとロジャーとの出会い。ボーカルに逃げられて意気消沈してる二人の前でフレディが歌って見せて……えっ、なに、もう泣けてきたんですけど……。
 ブライアン・シンガー男児への性的虐待で訴えられてるし、現場じゃ腐れパワハラ野郎であるという噂も絶えない男なのだが、どうして撮る映画は毎回こうも優しいんだろうな。この後も三回ぐらい泣けてしまったが、役者の表情、クローズアップの切り取り方が抜群によくて、何とも言えず染みるのである。

 ゲイとしても知られる監督シンガーがフレディ・マーキュリーを撮るということで、ちょっとは歴史的な文脈を押さえておかないと楽しめないだろうか、と思ったが全くの杞憂。音楽でつながったメンバーの関係と、破天荒ながら裏にマイノリティとしての寂しさを抱えたフレディのキャラクターを中心に、ライブエイドに始まりライブエイドに終わる構成で一気に駆け抜ける。確執やすれ違いはありつつも、クイーンの音楽だけは不変で、反目していた家族さえもいつしか認めあうことになる。揉めることもあるが、「音楽性の違い」では争わない。実に清々しい。

 ただこの洋楽音痴のノンケ男であるオレからしてみても、実話、実在の人物ベースの伝記としてはあまりにも「引っかかる」部分がなくて、もうちょっと破綻したところもあったんじゃないの? そういうところも含めてフレディの魅力だったんじゃないの?とも思ったところ。乱脈な暮らしぶりや金遣いの荒さなどはさらっと流される程度で、性関係なども悪い男といい男が妙にわかりやすく出てきて、あまりに図式的と言うか……。「映画」でありすぎていて、現実はこんなにわかりやすくフラグを回収しないからこその実話なんじゃないの。
 シンプルにソフィスティケートされた「マンガ・世界の偉大なミュージシャン フレディ・マーキュリー編」を読んでるみたいな感覚で、『博士と彼女のセオリー』や『サンローラン』のような、実在の人物が物語的なお約束を逸脱し始めるような迫力には乏しい。

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 ただまあ、結局これはブライアンら残ったメンバー他、現存する関係者が関わり許諾して作ったものなので、史実と違ったとしても、彼らが酒でも飲みつつ「フレディはなあ、ほんとにいいやつだったんだよ。寂しがりやでな……。俺たちはいつも音楽で通じ合ってた家族だった。あいつがエイズを告白した時に、俺はな……」とか何とか語るなら、それはウンウンと聞いたらそれでいいんじゃないかな。またそのうち別のクイーンの映画も作られるかもしれないし、史実に忠実なのはその時でも……。

 楽曲は本当に最高で強くて、安直に使った『スーサイド・スクワッド』の予告がバカみたいに思えてくるな。今回は歌詞もほとんど対訳がついてて、コアファンでもなく語学力もない身には非常にありがたかった。なんだかんだで好きな映画で、爆音映画祭ででももう一回見たいし、UHD買って家でも大音量でかけたいところだな。
 ライブエイドでは別に泣かなかったのだが、職場の映写窓から見たら袖や舞台下にいるスタッフ気分で見られて楽しかった。あとはあの病院の医者や患者もテレビで見ていっしょに「エ〜オッ!」やってれば良かったのになあ。

ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)

ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)

“これが地獄の業火だ”『テルマ』(ネタバレ)


【公式】『テルマ』10.20公開/本予告

 トリアー甥ことヨアキム・トリアー監督作。

 ノルウェーの田舎町で両親と暮らしてきたテルマは、大学に行くためオスロで一人暮らすことになる。だが、両親の抑圧と監視は離れても続いていた。同級生アンニャとの出会いと恋が、両親の異常な監視とテルマの秘められた力をやがて浮き彫りにする……。

 あの無表情でいるだけで笑えてくるイザベル・ユペールさん出演『母の残像』が監督一作目で、二作目はこちら。アメリカ映画ではないのでキャストは共通せず。前作は『メランコリア』ばりの野ションベンシーンが印象的だったが、今作でも発作を起こした主人公がいきなり失禁し、オシッコへのこだわりを見せつける。どうしても入れたいけど重要なところでは使えないから最初に入れた、という趣の、性癖を感じさせるシーンだったなあ。

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 主人公は超能力の持ち主らしく、発作を起こすと同時に怪現象が起きる。最初は念動力っぽいのだが、生き物を操って呼び寄せるようでもあり、瞬間移動まで起きて、これはちょっと相当凄まじい能力なんじゃないか、という気がしてくる。消えた人が再び出てくるまで時間があったりして、もはやテレポートですらない。

 彼女が子供の頃、父親は一度彼女を殺そうとしたという鮮烈なシーンがオープニングにあり、過去に何かしらあったことが示唆される。成長して以降続いているのは執拗な監視だ。母親からの毎日の電話、フェイスブックによる交友関係のチェック……。そして原理主義的なキリスト教の価値観の押しつけ……頻繁に挿入されるのは魔女狩りのイメージで、なかなか露骨だな……。医者の癖に天動説やら神は七日間で世界を作った的なことを言い出すあたりも最悪なのだが、娘の手にロウソクの火を押し付けて「地獄の業火は決して消えない」と教えるあたりなど、正味、頭がおかしい。
 で、そのことを初めて「おかしい」とはっきり言ってくれた女の子を好きになってしまうのだが、能力は彼女の意思さえコントロールし始める。女の子のそれ以降の行動はすべて力によって操られたものと言えるのだろう。あの言葉だけはきっと本物だったのだろうが……。

 父親には発現していないが、どうも祖母も過去に同じような現象を起こしたらしく、薬漬けで老人ホームに入っていることが明らかに……。
 制御が効かないという点でのみ見ると、作中の発作で表現される癲癇とその患者を隠喩しているとも取れる。悲劇として語られる赤ん坊であった弟の死に関しては意見が別れるところで、病ゆえの事故とも取れるし、欲望を実現化する能力の悪しき側面とも思える。
だからと言って、母親や娘を薬物によって自由を奪い葬り去るのか、という話でもある。この父親の抱く「使命感」そのものが、まさに「魔女狩り」の元凶だったのではないかな。
 母親は息子を亡くしたことでショックで投身自殺を図り、両脚が動かなくなって車椅子生活をしている。それゆえに夫に依存する状態になっているのだが、夫が自分のやっている事に迷い傷ついている時に「あなたは悪くないのよ」と言ってあげる姿は、『ミスティック・リバー』でショーン・ペンの妻を演じたローラ・リニーの役回りに似ているな。これは過ちなのではないかと怯える夫を、正しいことにしておかねば都合が悪くなるという立場からの「永遠の嘘」で補強してあげて、それによって自らの立場をも守ると言うか……。

 そんな父親を「神」として「地獄の業火」で裁き、母親の脚を「キリスト」として癒してみせる姿は実に痛烈な皮肉になっていて、そんなものはそもそもいないのだと突きつけているかのようだ。作中の台詞でもあるが、「神=悪魔」であり「魔女=キリスト」であると言い切るような展開はなかなか大胆で、他の何者でもない「テルマ」なのだ、というタイトルにもつながってくる。

 冒頭とラストのドローン撮影がなかなか鮮烈で、まさに「神の視点」のようにも見える。『フォーガットン』ではまさしく空から見ている者の目線だったわけだが、話の内容では「神も悪魔もおらんわ、ボケ!」と言っているようで、やっぱり見ているものはいるのかな、とも思わせる。
 ラストで戻ってきた女の子も、絵面だけ見たらハッピーエンドと取れるものの、どこかしらイマジナリーフレンドのようにも見えるし、もしかしたら改めて「創造」されたものなんじゃないの、という気さえする。神かよ!
 力があろうがなかろうが、病だろうがそうでなかろうが、結局、自分は自分として生きるのだ、そうあるべきなのだ、というメッセージを親殺しと共にお届けする快作だが、そこには単に痛快なだけではなく、弟殺しも含めて絶大な力と共にその業を引き受けるか否か、という問いかけも含まれている。自由とはかくも厳しいのだ……。

フォーガットン [DVD]

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”これが俺のスタイルだ”『負け犬の美学』


映画『負け犬の美学』予告編

 マチュー・カソヴィッツ主演作!

 中年ボクサーのスティーブはわずかなファイトマネーで戦い続けているが引退も間近。ピアノを志す娘のために、学費とピアノ代を稼ぐために、妻の反対を押し切ってチャンピオンのスパーリングパートナーになることに。強打のチャンプに対し向かっていくのだが……。

 40代半ばになったロートルボクサーが主人公。さすがに引退を考えているが、節目の50戦まではまだ試合を続けていたい。ボクシングが好きなんだ……しかし13勝35敗という戦績でなかなか試合も組まれず、金も一向に稼げない。本業?はレストランの厨房で、奥さんは美容師。娘がピアノをやっているので、家にも練習用のピアノを買ってやりたい。

 そんな彼に訪れたチャンスは、復帰戦を間近に控えた元チャンプのスパーリングパートナーになること。ただまあロートルなので、奥さんは「ボコボコにされて使い捨てられるよ!」と大反対。

 果たしてスパー初日から打ち込まれ、「老いぼれじゃん! 全然相手にならねえ!」と失格の烙印を押される……。が、ここからロートルの意地、負け続けてきた者として、王座陥落したチャンピオンが現在陥っているメンタル面の陥穽を指摘することで、信用を得る。トレーナーを差し置いて作戦を提言したり、そこかしこで存在感を見せることに。

 これがさらなるサクセスにつながって、コーチ業の夢が開けたりしないところが、実におフランス映画らしく地味でシビアで、だがそれがいいんだな。チャンピオンとも通じ合う部分を見出すんだけど、別に親友になったりするわけじゃなく、スパーリングパートナーはスパーリングパートナー、チャンピオンはチャンピオンで交わらない。互いのスタイルを真似して見せるところで、大きな違いがあることを実感する。

 ただ、人にはそれぞれの生き方があり、負け犬には負け犬の生き方があるし、自分なりの人生や幸せがあるのだ。ボクシングもそれと同じで、チャンピオンが急遽ブッキングしてくれた最後の試合で、初めて脚とテクニックを駆使したファイトを見せる。ちょっとチャンピオンのファイトスタイルと通じるところもあり、ここが彼とのシンパシーの部分だったのかな。

 娘ちゃんがいい味を出していて、最初は家でピアノを弾けなくて、好きは好きなはずなんだが練習不足でド下手なのな。父はスパーのギャラでピアノを買ってやり、やっと練習できるようになる。父親の試合を見たいと言ってたのに、滅多打ちにされる公開スパーを見せて以降はもう見たくないというようになってしまって悲しい! で、花道となる最後の試合は見に来るのかというとこないのであった。ここら辺のお約束の外しっぷりもフランスだなあ。
 お父さんはこの子が「持ってるか?」とピアノの先生に聞く。ギフト、と言うか、天から与えられた才能が果たしてこの子にあるのか。自分はボクシングの才能を持っていなかったが……。
 ラストは、この娘ちゃんのピアノの発表会で締め。正直、上手いとは言えないけど、最初に比べればめちゃめちゃ上達しているし、いい演奏になっていた。好きで続けていても報われるとは限らないが、何かしらやり切ることが重要なんじゃないかな……。

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今日の買い物

『七小福』BD

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 懐かしの大毎地下で見た傑作! ジャッキー、サモハン、ユン・ピョウのルーツ。


『ぼくとアールと彼女のさよなら』iTunes

ぼくとアールと彼女のさよなら (字幕/吹替)

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  • アルフォンソ・ゴメス=レホン
  • ドラマ
  • ¥1000

 500円だったので購入。これは泣けるやつかな……。


モーガン プロトタイプL-9』iTunes

モーガン プロトタイプ L-9 (字幕/吹替)

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  • ルーク・スコット
  • SF/ファンタジー
  • ¥1000

 アニャ・テイラー・ジョイちゃんが出ている。これも500円。

“猛毒、再び”『ヴェノム』


ヴェノム - 映画予告編

 スパイダーユニバース?

 違法な人体実験で死者を出しているという噂のライフ社に取材を敢行したジャーナリストのエディ・ブロック。しかし挑発的な言動が怒りを買い、業界を干されることに。ついに潜入捜査を決行した彼は、知り合いのホームレスが異形の生き物に取り憑かれたさまを目撃する……。

 『スパイダーマン3』で悪役として登場したヴェノムが初の単独主演。監督は『ゾンビランド』しか面白い映画のないルーベン・フライシャーということで、結構不安視していたのだが……。

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 冒頭の宇宙船墜落、サンプル逃走のくだりの絵面が『ライフ』『ランペイジ』『ザ・プレデター』の同シークエンスとそっくりで、まあすごい既視感。で、4体いる宇宙生物の3体は捕まってアメリカに運ばれるが、残り1体は人間に取り憑いて逃げ出してしまう。ここらへん『ヒドゥン』みたいで、取り憑かれてる無名役者の演技が面白い。
 しかし、結局ここで逃れた一体も、身体を乗り継いでわざわざアメリカにまでやってくるのだよな……なんでこんな展開にしたんだろう。アメリカに着いてから逃げたことにしても良かったんでは……。

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 主演は我らがトム・ハーディ、正義感と強引な取材手法、歯に絹着せぬ物言いでうとまれる名物記者……だが、恋人ミシェル・ウィリアムズ弁護士の秘密の資料を盗み見て取材したことで、彼女を失業させてしまい、捨てられてしまう。仕事もなく食うにも困っていた彼だが、乾坤一擲、人体実験の現場に潜り込んだところ、謎の生物に取り憑かれる……。
 増殖、伸縮し、宿主と一体になる寄生生物シンビオート、その一人である「ヴェノム」! 妙に食欲は湧くし身体は暑いし……ということで、レストランに乱入したトムハ渾身の身体を張ったギャグ、最高ですね。しかしまあ、笑ってられるのも最初だけで、段々とシャレにならない事態になるのでは……と思ったが別にならない! あれ、このヴェノムさん、実はいい人なんじゃない……日本の宣伝では猛烈に「残虐」推しだが、これは『キン肉マン』における残虐超人ぐらいの意味合いなんじゃないの。根は悪い人ではなく、めっちゃ話が通じるし、あっちの世界でははぐれ者っぽい扱いを受けているらしく、そんなところにもシンパシーを感じてくれて……。

 展開はどうも雑だし、シンビオートに適応できるのは限られた人間のはずが、ヒロインやら悪役やらは都合よく大丈夫だったり、MCU以降の練られた設定を考えたらうーんと首をひねってしまう。出来がいいかというとひどい映画だと言うしかない。
 が、キャラクターとギャグは面白いので憎めない、嫌いにはなれない映画である。これが監督の個性なんだろうな……。まあプラマイで言うとややプラスぐらいの満足感はあったかな……と思ったが、ここでまさかのエンドロール16分! しかもその間に、本編と一ミリも関係ないつまんなさそうなスパイダーマンアニメの予告を延々と見せられて辟易! 俺の嫌いなCGアニメを、この後も何か映像あるかも、という期待感を人質に見せられ吐きそうになった。減点! マイナス!

“黒い修道女”『死霊館のシスター』


映画『死霊館のシスター』予告編

 スピンオフシリーズ第二弾!

 1952年、ルーマニアで起きた不可解なシスターの自殺を調査すべく、教会はバーク神父とシスター見習いのアイリーンを派遣した。だが、現場の修道院は死体が放置された異様な雰囲気で……。二人は泊まり込みで調査を進めようとするのだが、修道院に巣食う謎の存在が襲いかかる。

 『エンフィールド事件』に登場したマンソン、じゃなくて淵さん、でもなくて恐怖のシスターの成り立ちを掘り下げた映画。しかし、もはや元ネタさえ存在しないお話なのね。

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 『アナベル』が全く面白くなくて二作目もスルーしたんだけど、今作も正直全く面白くなかったな……。
 とりあえず、問題の修道院に来たら登場する人する人みんな怪しげなのな。実はすでに全員死亡していて、そこが驚かせどころのはずなのだが、序盤から思わせぶりすぎて、常軌を逸しているレベルでおかしい。こうなると、それに対して何もしない主人公チームが馬鹿みたいに見えてくるのである。

 修道院自体がずーっと暗い廃墟に見えて、こんなとこに寝泊まりとか正気の沙汰じゃないっしょという感じで、ずーっとおどろおどろしげな演出をやりっぱなしなものだから、あとはでかい音で脅かすぐらいしかプラスアルファの演出を打てないのも問題。この緩急のなさはすごい。これは1ミリも怖くない。

 『死霊館』シリーズ自体、面白いんだがキリスト教ジャンルから一歩も外れないよく出来たお化け屋敷という印象で、見ていてハラハラドキドキはするんだが、価値観を揺さぶられたり本当に嫌なものを見たという感じはまったく受けないんだよね。今作は単に下手なお化け屋敷という感じで、またひたすらにつまらなかった……。

 タイッサ・ファーミガはますますヴェラ・ファーミガに似てきたので、こんな役で消費するんじゃなくて、あの夫人の若い頃の話とか撮って欲しかったなあ。女子高生時代の能力の目覚めとか描いたら割と面白かったんじゃなかろうか。そんなエピソードがあるのかは知らないが……。

ザ・ゴールデン・エイジ・オブ・グロテスク

ザ・ゴールデン・エイジ・オブ・グロテスク

”ファーストクラスは落ち着かない?”『クレイジー・リッチ』


映画『クレイジー・リッチ!』予告編

 アジアの大金持ち映画!

 ニューヨークで生まれ育ったレイチェルは、彼氏のニックが友人の結婚式に出席するのについていくことに。初めて彼の生家のあるシンガポールを訪ねるのだが、なぜかファーストクラスに乗せられ、彼が生まれについて言葉を濁し続けていたことに気づく……。実はニックは大富豪の一人息子だったのだ!

 中国系アメリカ人から見たシンガポールのど金持ちを描いたロマコメ。大学で教鞭を取る主人公と、絵に描いたようなイケメンの彼。その彼に家族に紹介したいと言われ、結婚を意識しつつシンガポールへ……しかしなぜか人生初のファーストクラスに案内され、逆に不安に……えっ、この人って実は金持ちだったの?

 『星の王子ニューヨークへ行く』というエディ・マーフィのコメディがありましたが、あのファンタジーでしかなかった映画が、逆にリアリティライン上がって来てるような印象さえ受ける。東南アジアの旧家の金持ちが経済発展によって、その由緒正しき家柄はそのままにとてつもない富豪になっているのだな。十数年まえからすでにホテル一個ポンと買うような金持ちで、その感覚がすげえ! で、庶民感覚全開の主人公はそれにまったくついていけない。
 当然、見ているこっちも庶民なわけだから、いいなあと思いつつ圧倒されるようなついていけないような、うらやましいような居心地悪いようななんとも言えない気持ちを味わい続けることに。

 彼氏は人間的にはなかなかいい奴なのは間違いないのだが、男って家族のことには気を回さないのだよな。友達や従姉妹が面倒見てくれるからって、ヒロインを放置する局面が長いのも困り者。まあ甘やかされている長男であるがゆえか……。
 バチェラーパーティのクズっぷりも、金持ちであるがゆえに際立ってて、ヒロインはそこでベッドに生魚を放り込まれるという嫌がらせを受けて悶絶。彼氏は親友と共に静かなビーチにヘリで(……)エスケープしてなんとか面目を保ったか。

 彼氏のお母さん役はミシェル・ヨーということで、さすがの貫禄。完全にこの家の流儀そのものとなりつつも、ふと外から来た者の苦労を垣間見せる内面描写も素晴らしいですね。で、こっちのお母さんが最初は厳しくて、祖母の方がまだ大らかなのかと思いきや、主人公の出生を知った途端にババアが手のひら返したぞ! FUCK!

 彼氏はボンボンだけどそれほど骨のない奴ではなく、家を捨てると言うのだけれど、いやいやちょっと待ちなさい、ということに。
 ミシェル・ヨーお母さんも「嫁」だからそもそも外の人なのに、今やすっかり「家」の理屈を内面化していてそこに縛られているのが悲しく、本人も馬鹿じゃないんで薄々それに気づいているのだけれど、そういう役割を演じるしかないと思い込んでいる。クライマックスは主人公との意見の対立を麻雀に託して表現するのだが、この互いの矜持がぶつかるところはしびれましたね。

 人生におけるパートナーを選ぶ問題と、それぞれの家族の問題は、本来別の話なのに密接に絡まり合ってしまう。それまでの人生とこれからの人生を対比させ、時に変えることを要求してくる。パートナーを選ぶことと家族の流儀を受け入れることは一緒にはならないのだが、「家」を価値観とする人はそこを簡単に混同してくる。まあブッチすりゃあいいんだけど、婚約者ともミシェル・ヨーとも腹を割って話すところで問題の解決を図るあたりが、非常に現実的ですね。
 エコノミー席での飛行機プロポーズもびっくりするぐらい感動的で、オレも妻に先日指輪をあげましたが、ちょっと影響されてるところもあったりなかったり……。

 ところで、母親はこれでよかったとしても、ババアが一切納得してないと思うんだが……。まだ原作は続編があるらしいし、問題はまだまだ温存されているような気がするよ。これは前途多難だな……。まあ親友オークアフィーナさんが支えてくれるだろう!
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クレイジー・リッチ・アジアンズ 上

クレイジー・リッチ・アジアンズ 上

クレイジー・リッチ・アジアンズ 下

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