“これが地獄の業火だ”『テルマ』(ネタバレ)
トリアー甥ことヨアキム・トリアー監督作。
ノルウェーの田舎町で両親と暮らしてきたテルマは、大学に行くためオスロで一人暮らすことになる。だが、両親の抑圧と監視は離れても続いていた。同級生アンニャとの出会いと恋が、両親の異常な監視とテルマの秘められた力をやがて浮き彫りにする……。
あの無表情でいるだけで笑えてくるイザベル・ユペールさん出演『母の残像』が監督一作目で、二作目はこちら。アメリカ映画ではないのでキャストは共通せず。前作は『メランコリア』ばりの野ションベンシーンが印象的だったが、今作でも発作を起こした主人公がいきなり失禁し、オシッコへのこだわりを見せつける。どうしても入れたいけど重要なところでは使えないから最初に入れた、という趣の、性癖を感じさせるシーンだったなあ。
chateaudif.hatenadiary.com
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主人公は超能力の持ち主らしく、発作を起こすと同時に怪現象が起きる。最初は念動力っぽいのだが、生き物を操って呼び寄せるようでもあり、瞬間移動まで起きて、これはちょっと相当凄まじい能力なんじゃないか、という気がしてくる。消えた人が再び出てくるまで時間があったりして、もはやテレポートですらない。
彼女が子供の頃、父親は一度彼女を殺そうとしたという鮮烈なシーンがオープニングにあり、過去に何かしらあったことが示唆される。成長して以降続いているのは執拗な監視だ。母親からの毎日の電話、フェイスブックによる交友関係のチェック……。そして原理主義的なキリスト教の価値観の押しつけ……頻繁に挿入されるのは魔女狩りのイメージで、なかなか露骨だな……。医者の癖に天動説やら神は七日間で世界を作った的なことを言い出すあたりも最悪なのだが、娘の手にロウソクの火を押し付けて「地獄の業火は決して消えない」と教えるあたりなど、正味、頭がおかしい。
で、そのことを初めて「おかしい」とはっきり言ってくれた女の子を好きになってしまうのだが、能力は彼女の意思さえコントロールし始める。女の子のそれ以降の行動はすべて力によって操られたものと言えるのだろう。あの言葉だけはきっと本物だったのだろうが……。
父親には発現していないが、どうも祖母も過去に同じような現象を起こしたらしく、薬漬けで老人ホームに入っていることが明らかに……。
制御が効かないという点でのみ見ると、作中の発作で表現される癲癇とその患者を隠喩しているとも取れる。悲劇として語られる赤ん坊であった弟の死に関しては意見が別れるところで、病ゆえの事故とも取れるし、欲望を実現化する能力の悪しき側面とも思える。
だからと言って、母親や娘を薬物によって自由を奪い葬り去るのか、という話でもある。この父親の抱く「使命感」そのものが、まさに「魔女狩り」の元凶だったのではないかな。
母親は息子を亡くしたことでショックで投身自殺を図り、両脚が動かなくなって車椅子生活をしている。それゆえに夫に依存する状態になっているのだが、夫が自分のやっている事に迷い傷ついている時に「あなたは悪くないのよ」と言ってあげる姿は、『ミスティック・リバー』でショーン・ペンの妻を演じたローラ・リニーの役回りに似ているな。これは過ちなのではないかと怯える夫を、正しいことにしておかねば都合が悪くなるという立場からの「永遠の嘘」で補強してあげて、それによって自らの立場をも守ると言うか……。
そんな父親を「神」として「地獄の業火」で裁き、母親の脚を「キリスト」として癒してみせる姿は実に痛烈な皮肉になっていて、そんなものはそもそもいないのだと突きつけているかのようだ。作中の台詞でもあるが、「神=悪魔」であり「魔女=キリスト」であると言い切るような展開はなかなか大胆で、他の何者でもない「テルマ」なのだ、というタイトルにもつながってくる。
冒頭とラストのドローン撮影がなかなか鮮烈で、まさに「神の視点」のようにも見える。『フォーガットン』ではまさしく空から見ている者の目線だったわけだが、話の内容では「神も悪魔もおらんわ、ボケ!」と言っているようで、やっぱり見ているものはいるのかな、とも思わせる。
ラストで戻ってきた女の子も、絵面だけ見たらハッピーエンドと取れるものの、どこかしらイマジナリーフレンドのようにも見えるし、もしかしたら改めて「創造」されたものなんじゃないの、という気さえする。神かよ!
力があろうがなかろうが、病だろうがそうでなかろうが、結局、自分は自分として生きるのだ、そうあるべきなのだ、というメッセージを親殺しと共にお届けする快作だが、そこには単に痛快なだけではなく、弟殺しも含めて絶大な力と共にその業を引き受けるか否か、という問いかけも含まれている。自由とはかくも厳しいのだ……。
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