”これが俺のスタイルだ”『負け犬の美学』


映画『負け犬の美学』予告編

 マチュー・カソヴィッツ主演作!

 中年ボクサーのスティーブはわずかなファイトマネーで戦い続けているが引退も間近。ピアノを志す娘のために、学費とピアノ代を稼ぐために、妻の反対を押し切ってチャンピオンのスパーリングパートナーになることに。強打のチャンプに対し向かっていくのだが……。

 40代半ばになったロートルボクサーが主人公。さすがに引退を考えているが、節目の50戦まではまだ試合を続けていたい。ボクシングが好きなんだ……しかし13勝35敗という戦績でなかなか試合も組まれず、金も一向に稼げない。本業?はレストランの厨房で、奥さんは美容師。娘がピアノをやっているので、家にも練習用のピアノを買ってやりたい。

 そんな彼に訪れたチャンスは、復帰戦を間近に控えた元チャンプのスパーリングパートナーになること。ただまあロートルなので、奥さんは「ボコボコにされて使い捨てられるよ!」と大反対。

 果たしてスパー初日から打ち込まれ、「老いぼれじゃん! 全然相手にならねえ!」と失格の烙印を押される……。が、ここからロートルの意地、負け続けてきた者として、王座陥落したチャンピオンが現在陥っているメンタル面の陥穽を指摘することで、信用を得る。トレーナーを差し置いて作戦を提言したり、そこかしこで存在感を見せることに。

 これがさらなるサクセスにつながって、コーチ業の夢が開けたりしないところが、実におフランス映画らしく地味でシビアで、だがそれがいいんだな。チャンピオンとも通じ合う部分を見出すんだけど、別に親友になったりするわけじゃなく、スパーリングパートナーはスパーリングパートナー、チャンピオンはチャンピオンで交わらない。互いのスタイルを真似して見せるところで、大きな違いがあることを実感する。

 ただ、人にはそれぞれの生き方があり、負け犬には負け犬の生き方があるし、自分なりの人生や幸せがあるのだ。ボクシングもそれと同じで、チャンピオンが急遽ブッキングしてくれた最後の試合で、初めて脚とテクニックを駆使したファイトを見せる。ちょっとチャンピオンのファイトスタイルと通じるところもあり、ここが彼とのシンパシーの部分だったのかな。

 娘ちゃんがいい味を出していて、最初は家でピアノを弾けなくて、好きは好きなはずなんだが練習不足でド下手なのな。父はスパーのギャラでピアノを買ってやり、やっと練習できるようになる。父親の試合を見たいと言ってたのに、滅多打ちにされる公開スパーを見せて以降はもう見たくないというようになってしまって悲しい! で、花道となる最後の試合は見に来るのかというとこないのであった。ここら辺のお約束の外しっぷりもフランスだなあ。
 お父さんはこの子が「持ってるか?」とピアノの先生に聞く。ギフト、と言うか、天から与えられた才能が果たしてこの子にあるのか。自分はボクシングの才能を持っていなかったが……。
 ラストは、この娘ちゃんのピアノの発表会で締め。正直、上手いとは言えないけど、最初に比べればめちゃめちゃ上達しているし、いい演奏になっていた。好きで続けていても報われるとは限らないが、何かしらやり切ることが重要なんじゃないかな……。

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