”またも蜘蛛が”『ルイの9番目の人生』(ネタバレ)
アレクサンドル・アジャ最新作!
0歳で全身骨折したのを皮切りに、感電や食中毒などで毎年生死の境をさまよってきたルイ少年。辛くも生き残ってきた彼だが、9歳の誕生日、両親とピクニック中に崖から転落してついに昏睡状態に。警察が行方不明の父親を追う中、担当医となったパスカルはルイの治療に当たると共に、母親のナタリーを支えるのだが……。
『ホーンズ』から、ひさしぶりにアジャがやってきましたよ。今回はミステリ小説を原作に。
崖から転落した少年、その時何が起こったか……。というのが「事件」なのだが、子供は落ちて、父親は行方不明、母親は父親が突き落としたと証言という構図になる。これ、犯人当てをしようとするなら、当然両親のどっちかしか容疑者がいないのだな。
昏睡状態になったルイ少年の治療に当たることになった専門医は、涙にくれる母親に同情するようになるのだが……いやいや、怪しいでしょ、この女!
サラ・ガドンと言えば『複製された男』の妊婦役だが、すごい美人だけど何か不穏さが見え隠れして、妊娠してても子供がいても母性溢れるキャラには見えない、という演出をされてるのな。が、自分が妻とうまく行ってないから、ついついグラグラきてしまうお医者様。
警察の女刑事が「あの女はやめといたほうが……」と、割とあからさまに忠告するのだが、何を言うんだ、可哀想な女なのに!といまいち聞く耳を持たない。
警察にしてみれば、正直言って、親子関係がどうで子供が何をどう考えてて、みたいなことにはまったく興味がないのだな。第一容疑者は行方不明だから父親だけど、当然、この女も怪しいぜ!としか思っていない。で、後に父親の死体が上がったら、
「はい、決まり〜! この女が犯人で決まり〜! あとは裏取るか自白させるだけ〜!」
で、医者の方が「そんなはずはない! 俺が真相を突き止める!」と思うかと言うと、実はそんなモチベーションが全くない。そもそも、彼は子供の治療に来ているが、まあ大体のケースでは昏睡から覚めないものだし、母親に対してハマる(ハメる……)に連れて、逆に真実を知りたくない気持ちが膨らんでいく。だいたいめちゃ不倫だし、子供いる病院でファックしてて後ろめたい気持ちもありあり。バスタオル一丁で病院内を歩くサラ・ガドンに仰天。うちの近所の病院だったら大騒ぎだよ! そして中丸見えの仮眠室でセックスする二人……アホかっ!
本当の意味で、昏睡状態の少年に共感して代わりに動く人物がいないので、物語は主人公不在の様相を呈する。昏睡中の少年のモノローグもちょいちょい出てくるが、これは転落事件よりも以前の八回死にかけた話が中心。で、これも怪しいのは?というと……。
アーロン・ポール演ずる父親も、酒好きで甲斐性なしっぽく語られるのだが、結婚の経緯が明らかになり、彼の母親がやってきてサラ・ガドンのことを「澄まし顔で嘘つきのビッチ」呼ばわり。警察もだいたい同じようなことを考えている。明かされる真相に対し、その評価は必ずしも正確ではないのだが、単に犯人当てだけするならズバリであるという……。
ほんの少し女性不信的な物の見方をするだけで、医者がサラ・ガドンに入れ込むあたりに全く共感できなくなるのだな。自分のこと可愛いと思ってる女には要注意! メンヘラ女には関わらないのが鉄則! さもなければ身を滅ぼしますよ……というのは、コウモリの寓話で語られるまでもなく、割合ベタな教訓だと思うんだが、夫と医者のたどるルートがそっくりそのままなので、あ〜あ、としか思わない。
虐待を受けつつもそれでも母を愛したい少年の心理を主眼にした方が、まだ悲劇的だったと思うんだが……。
母親が病気で、父親はいい人間、という片親だけ悪者にするオチも、作劇としては出来が良くないし、どうにもミソジニックでありますね。ミュンヒハウゼン症候群だったというのが真相だが、ホワイダニットとしてもパンチに欠けるし、ネタを膨らませ切れなかった印象。
アジャ演出も死体と怪物は頑張っていたが、ちょっとこのネタではどうにもならなかったのではないか、と思う。
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