”誰もがしゃべり出す”『ホーンズ 容疑者と告白の角』


 アレクサンドル・アジャ監督作!


 幼なじみで恋人のメリンを惨殺され、その殺人容疑をかけられたイグ。メリンと同じく幼なじみで弁護士になっているリーの尽力で保釈されたが、街の住人からの非難が止まることはない。そんなある日、彼の頭から謎の角が生えてきて……。


 「劇場にハリー・アップ!」とかチラシに書かれていたが、主演はハリー・ポッターことダニエル・ラドクリフ君です。原作はスティーブン・キングの息子、ジョー・ヒル。恋人を殺され、その容疑者とされている男ラドクリフの頭に、突然角が生えてきた! サブタイトルは「容疑者と告白の角」で、なんだか説明的であるな、と思っちょったが、そのものズバリだったな……。その角を見た者は、なんだか知らないが内心の全てを告白してしまうのだ!
 幼馴染の女と酒の勢いで寝た後、彼女が朝に突然言い出す。
 

「ああ……わたし……ドーナツ食べたい……!」


 なんだ、この脈絡のない台詞と展開は……?と頭が「?……?……?……」となったのだが、その後の病院のシーンでは、幼女の母親、受付の女、医者、看護婦の本音が爆発! ラドクリフ君が「ああ……頭に角生えてきた……どうにかして……もう死にたい……」と思ってるのに、周囲の人は自分のことばかり。他人の本音を聞けるというのは余裕があれば面白いのだが、それはつまり自分に対しての配慮や気遣いも消し飛んでしまっているということなのだな。果たして、自分を心配してくれてたはずの両親も「どっか行ってくれたらいいのに」「兄は育てやすかった」など、聞きたくなかった本音を爆発させる!


 よくよく振り返れば「ドーナツ食べたい」と「あんたにフェラしてあげたい」と「本音」を吐き出す幼馴染の女がものすごくいい奴であることがわかってくるのだが、ラドクリフ君には他にもっと気になることがある。死の直前、恋人はなぜ自分に別れを切り出したのか……? あらゆる人が本音を吐く中で、唯一死者だけは何も語らないのだ。


 舞台が小さな町で、登場人物もかなり限定されているので、ミステリ的には、まあこいつかこいつが真犯人だろう、とだいたい想像がつく。が、全員が本音を吐くという前提の下で謎解きが進行していく作劇はユニークだし、そこにアジャ監督の「恐怖と笑いは紙一重」な演出が重なり、ラドクリフの深刻げな面も加味されて、かつてない笑いを生み出すのである。
 原作はジョー・ヒルだからか、お父さん譲りのキャッスルロック的な小さな町を舞台に、『IT』的な過去の少年時代と現在が絡む展開を見せる。が、それは半ば意図的にパロディ的にやっているのだろうな、というのは、真相部分の展開や動機にまつわる一捻りに感じたところでもありましたね。
 主人公に宿る力を悪魔由来のものにし、蛇ともお話してしまうあたり、これまたキリスト教的な設定を茶化すものを感じるところ。一方で登場人物の心理は細かく描き、いわゆる「寝取られ」の感覚をすくい取ったあたりは上手いし、王道のストーリーテリングでもある。


 終盤にある強烈なグロシーンがカットされていたのが残念極まりないが、そこを差し引いても一見の価値はある映画で、腹を抱えて笑いました。

ホーンズ 角 (小学館文庫)

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