”またも蜘蛛が”『ルイの9番目の人生』(ネタバレ)


映画『ルイの9番目の人生』予告編

 アレクサンドル・アジャ最新作!

 0歳で全身骨折したのを皮切りに、感電や食中毒などで毎年生死の境をさまよってきたルイ少年。辛くも生き残ってきた彼だが、9歳の誕生日、両親とピクニック中に崖から転落してついに昏睡状態に。警察が行方不明の父親を追う中、担当医となったパスカルはルイの治療に当たると共に、母親のナタリーを支えるのだが……。

 『ホーンズ』から、ひさしぶりにアジャがやってきましたよ。今回はミステリ小説を原作に。

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 崖から転落した少年、その時何が起こったか……。というのが「事件」なのだが、子供は落ちて、父親は行方不明、母親は父親が突き落としたと証言という構図になる。これ、犯人当てをしようとするなら、当然両親のどっちかしか容疑者がいないのだな。
 昏睡状態になったルイ少年の治療に当たることになった専門医は、涙にくれる母親に同情するようになるのだが……いやいや、怪しいでしょ、この女!

 サラ・ガドンと言えば『複製された男』の妊婦役だが、すごい美人だけど何か不穏さが見え隠れして、妊娠してても子供がいても母性溢れるキャラには見えない、という演出をされてるのな。が、自分が妻とうまく行ってないから、ついついグラグラきてしまうお医者様。

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 警察の女刑事が「あの女はやめといたほうが……」と、割とあからさまに忠告するのだが、何を言うんだ、可哀想な女なのに!といまいち聞く耳を持たない。
 警察にしてみれば、正直言って、親子関係がどうで子供が何をどう考えてて、みたいなことにはまったく興味がないのだな。第一容疑者は行方不明だから父親だけど、当然、この女も怪しいぜ!としか思っていない。で、後に父親の死体が上がったら、

「はい、決まり〜! この女が犯人で決まり〜! あとは裏取るか自白させるだけ〜!」

 で、医者の方が「そんなはずはない! 俺が真相を突き止める!」と思うかと言うと、実はそんなモチベーションが全くない。そもそも、彼は子供の治療に来ているが、まあ大体のケースでは昏睡から覚めないものだし、母親に対してハマる(ハメる……)に連れて、逆に真実を知りたくない気持ちが膨らんでいく。だいたいめちゃ不倫だし、子供いる病院でファックしてて後ろめたい気持ちもありあり。バスタオル一丁で病院内を歩くサラ・ガドンに仰天。うちの近所の病院だったら大騒ぎだよ! そして中丸見えの仮眠室でセックスする二人……アホかっ!

 本当の意味で、昏睡状態の少年に共感して代わりに動く人物がいないので、物語は主人公不在の様相を呈する。昏睡中の少年のモノローグもちょいちょい出てくるが、これは転落事件よりも以前の八回死にかけた話が中心。で、これも怪しいのは?というと……。

 アーロン・ポール演ずる父親も、酒好きで甲斐性なしっぽく語られるのだが、結婚の経緯が明らかになり、彼の母親がやってきてサラ・ガドンのことを「澄まし顔で嘘つきのビッチ」呼ばわり。警察もだいたい同じようなことを考えている。明かされる真相に対し、その評価は必ずしも正確ではないのだが、単に犯人当てだけするならズバリであるという……。

 ほんの少し女性不信的な物の見方をするだけで、医者がサラ・ガドンに入れ込むあたりに全く共感できなくなるのだな。自分のこと可愛いと思ってる女には要注意! メンヘラ女には関わらないのが鉄則! さもなければ身を滅ぼしますよ……というのは、コウモリの寓話で語られるまでもなく、割合ベタな教訓だと思うんだが、夫と医者のたどるルートがそっくりそのままなので、あ〜あ、としか思わない。
 虐待を受けつつもそれでも母を愛したい少年の心理を主眼にした方が、まだ悲劇的だったと思うんだが……。
 母親が病気で、父親はいい人間、という片親だけ悪者にするオチも、作劇としては出来が良くないし、どうにもミソジニックでありますね。ミュンヒハウゼン症候群だったというのが真相だが、ホワイダニットとしてもパンチに欠けるし、ネタを膨らませ切れなかった印象。

 アジャ演出も死体と怪物は頑張っていたが、ちょっとこのネタではどうにもならなかったのではないか、と思う。

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”戦闘機械獣”『キングスマン ゴールデンサークル』(ネタバレ)


映画「キングスマン:ゴールデン・サークル」予告B

 シリーズ第二作!

 エグジーとキングスマンに迫る新たな敵……。侵入を受けたキングスマン本部は、謎の組織ゴールデンサークルに爆撃され、エグジーとマーリン以外のメンバーを失ってしまう。同盟を結ぶスパイ組織ステイツマンを頼り、二人はアメリカに向かうのだが、そこでは思いがけない再会が待っていた……。

 一作目は面白くなりそうでならなくてもどかしい映画だったな、という印象。この続編もまあ同じ感じで、キャラクター性とかストーリー的な盛り上げにあまり興味がないのだろうな……。

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 ガラハッドを襲名して活動に励むエグジーを、元キングスマン候補生が襲い、そいつの手引きによって、新生キングスマンはいきなり壊滅させられることに。新アーサーや、前作から引き続き出ていたランスロットもあっさり殺され、犬や友達まで失ったエグジーは、マーリンと共に「ステイツマン」と呼ばれるアメリカのスパイ組織を頼ることに。
 まあ一応、泣いたり神妙な顔をしたりするエグジーだが、仲間が死んだからと言って映画自体のトーンは一ミリも変わらないから、ああ脇役を殺して話を転がしたのね、という気がどうしてもしてしまう。すぐにステイツマンの面々が登場し、また新しい仲間に囲まれることになるので喪失感や孤立感は何もないし、コリン・ファース復活で吹っ飛んでしまう。

 今回はこのステイツマンの面々が、ジェフ・ブリッジスチャニング・テイタムハル・ベリーなど。悪役のジュリアン・ムーアと合わせて、超豪華キャストだ! いったいどうなるんだ、と思いきや、実はチャニング・テイタムは中盤で離脱、ジェフ・ブリッジスは座ってるだけなど、実質的に単なるゲスト出演だったのだ……。ジュリアン・ムーアも同じセットから一歩も出ないし……。代わりに『グレートウォール』のマット・デイモンの相方が活躍するのだが、まさかラスボスまで彼とは思わなかった。人間をハンバーガーにして食っていたジュリアン・ムーアでなく、この彼がミンチにされるんだが、これも妙にお約束を外すシリーズらしいな……。ここはジュリアン・ムーアをミンチにしないとだめだろう。

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 終盤には、念願叶って現場に出た途端にマーリンが死んでしまうという展開があるのだが、そこまで人の死があまりに軽いので、全然緊張感がないのだよな。一応、爆死した体になっていたが、続編で両脚義足で復活するんじゃないか。
 さらにその後、ステイツマンで後方支援担当だったハル・ベリーが、ついに現場進出します!という展開になって、それがまるでハッピーなことのように語られるんだが、マーリンの末路を考えたら不吉さしかないのだが……。

 アクションシーンや絵作りはさすがのセンスだし、長い割にそれほどテンポも悪くない。コリン・ファースも定番芸をやろうとしてずっこけるギャグも込みでさすがだな、という役者ぶり。
 しかしセンスとキャラに依存しすぎて、相変わらずお話がほったらかしで、今回はエグジーの成長ものでさえないから、余計に骨のない印象になってしまった。まあ今回は友達の仇を討ってヒロインを救う、ぐらいの話で、彼らはみんなヤク中だけど悪いやつじゃないので、みたいなゆるい話。だいたい職業がスパイで法の番人でもなんでもないんだから、ヤク中は犯罪者か、生かすべきか殺すべきかなんてことがジレンマにも何にもなってなくて、なんでこんな設定を持ち込んだのかな。

 二作目も相変わらずだった、という感じだが『パワーレンジャー』に続きゾイドが出たので、15点ぐらい加点はあるかな……。たぶん、三作目は見ない。
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”地獄まで追っていく”『ブリムストーン』


『ブリムストーン』予告編

 西部劇!

 言葉の話せない助産師リズは、夫と二人の子とともに暮らしていた。だが、彼女の過去を知る牧師が着任し、その平和な生活を打ち砕いていく。夫を殺されたリズは街を逃れるのだが……。

 イギリス発の西部劇。夫、息子、娘と四人で暮らすダコタ・ファニングの街に、新しい牧師がやってくるが、その顔を見て蒼ざめるダコタ。二人の過去には何が?という所から幕開け。
ナンバリングがされて1章から4章まであるのだが、時系列順に並べると、

3→2→1→4

 となっていて、段々と遡っていく構成になっている。ガイ・ピアース牧師との関係性が肝なのはわかるが、しかし今回のガイ・ピアースは、ガイ・ピアース史上最悪で、まさに害・ピアースでしたね。一章ごとに変態が上乗せされ、SM、ロリコン、近親相姦と変態が三乗になっていく。
 腹に触っただけで妊婦が産気づいたり、後々の不死身っぷり、神出鬼没さも合わせて、ちょっとばかり超自然的な怪物と化している印象さえあり。ひっくり返って語られる第1章では妻であるカリス・ファン・ハウテン(この人、実際にもガイ・ピアースのパートナーです)に、「妻の肉体は夫のものだ」と宣言して拒まれ、代わりに暴力を振るうというクズ夫ぶりを発揮。拒まれると、今度はまだ少女である娘を狙い始める……。ここで娘をかばってセックスを受け入れようとする妻だが、夫の標的はすっかり娘になっていたのであった……。演技とは言え、実際の二人の関係にヒビが入っちゃわないか心配になるストーリーだ。
 この時点では、クズはクズだが、ある意味平凡な生き物だったのが、妻に自殺され娘を犯し、逃げた彼女を追い始めた時点から狂気度が増してどんどん怪物化していく。
 逃げた娘は成長してダコタ・ファニングになり、娼婦になって身を隠していたが、そこに貸し切りパーティをするためにガイ・ピアースがやってきてしまうという悲劇を経て、物語は冒頭へとつながる……。

 ガイ・ピアースのキャラはこの時代の男性主義、父権、キリスト教の歪みの象徴として設定されていて、映画自体『ウィッチ』と似たテーマを孕んでいる。娘として妻として母として虐げられる役回りをダコタ・ファニングが引き受け、対立し逃亡していくという構図だ。ただ、マジに女性の尊厳などについて考えている映画なのかと言うとちょい疑問で、こういう題材でもってサディスティック描写をやりたいだけなのかも、と言う気はする。

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 羊殺しや、腸を首に巻きつけて殺される旦那ちゃん描写など、なかなか楽しんでいる感じでいいのだが、一番最高だったのは、子役時代のヒロインと『ポンペイ』の人が、死体を豚に食わせつつおしゃべりしてるシーンですね。殺した後、全然焦ってないからどうするのかと思ったが、豚がいれば、死体の始末には困らないのか……。

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 他の娼婦キャラが乳を出しているのに、「ミステリアスなロリキャラ」で通して乳も尻も出さないダコタだが、少女のようにも見え、安達祐実的に妙に老けたようにも見え、父親の遺伝子も継いで若干人外化した感もあったり、さすがは『トワイライト』シリーズ最強の吸血鬼役だけあるな、という印象。子役とは目の色ぐらいしか似てないが、意外とマッチングするのな。
 クライマックスの脱出展開のありそうでなかったアクションや、ラストの生死など、この主人公も父親の怪物的な不死身の遺伝子を継いでいるのかな、と言う気もしましたね。

 ストーリーは『ジェーン』にも似ているんだが、百倍嫌な感じで、男のロマンチシズムは入り込む余地なし。いや、息子とか一瞬頑張ったがね……。なかなか楽しめました。

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”狼は死ぬまで狼”『勝手にふるえてろ』(ネタバレ)


勝手にふるえてろ (2017) ロマンス映画予告編

 松岡茉優、初主演作!

 24歳のOLヨシカは絶滅動物をこよなく愛し、10年間中学時代の片思いの相手を忘れられない女。そんな彼女が、会社の別部門の男に告白されることに。舞い上がってはみたものの、理想とは程遠い相手にもやもやし、昔の片思いは募るばかり。そんな彼女が取った行動とは……?

 最近は『ちはやふる』でのライバル役が話題だったのかな。「6をひっくり返すと9になる」で、ちはやバスターを破ったシーンでは興奮したなあ(←観てない)。
 そんな彼女が綿矢りさ原作で初主演、こじらせた夢女子役。駅員や釣りしてるおじさん、コンビニの店員などと親しげに会話するシーンが幾度もあるのだが、すぐに気づくこととは言え全て想像の中の会話。唯一、隣家に住む片桐はいりとだけは言葉を交わしているかな……。仕事は経理部門のOLで、職場でも仲のいい同僚一人以外とはろくにコミュニケーションも取っていない。
 そんな彼女が会社の別部門の男、命名「ニ」に迫られ、中学時代の片思いの相手「イチ」との間で迷う……。いや、このイチとの関係は全くの妄想というか主人公ヨシカの思い込みでしかないのだが、平凡な日常は容赦なくのしかかり、現実と妄想のギャップに悶え苦しむことに。

 失恋というのは、「自分が何者でもない」と思い知る最大のイベントなのだな。自分にとって特別な誰かが、自分に対して同じように特別な価値を見出すとは限らない、という現実を知ることに。これはまた逆も有り得て、誰かが自分を特別視していても、その誰かを自分も特別に思えるとは限らない、というのもまた現実なのだな……。イチとニの狭間で、ヨシカはその両方を同時に経験することになる。
 さらに24歳という中途半端な年齢の今まで処女であることへのコンプレックスも手伝って、どちらに対しても思い切れないという事態に……。
 ニのアプローチが完全にモテない人のそれで、実に痛くて独善的で、釣りとか興味ねえよという感じでかなりしんどい。だが、こうして追い詰められることでヨシカもまた発奮し、同窓会を仕掛けてイチと再会しようと企てるあたり、意図せざるところでいい影響があったりするのが面白い。

 妄想に過ぎない、ダメに決まってるとわかっていても、実際にチャレンジして失敗して自分で納得しなければならない時ってのが、人生にはあるんじゃないかな、と思う。ヨシカもやっぱり失敗したが、イチと初めてまともにしゃべれて、結構いい線行ったんではないか。確かに名前は覚えられてなかったが、あの時、あの瞬間に彼女が感じたものは全くの無根拠ではなく、何がしかの縁もあったのではないか。単に妄想が過大だっただけで……。

 惨敗の後には、当然、敗戦処理が待っていて、辛いことを忘れて、打ち砕かれた自意識を拾って集め直す、無益な作業が待っている。だけど、またその散らばった欠片の一つ一つが尖っていて、組み立て直すのも一筋縄ではいかない。
 さあ、ここで心の隙間に入り込むのがニ……なわけだが、男性経験がないことが同僚のくるみによってばらされていて、また自意識を刺激してしまうのであった。
 まあくるみにしても親切心でアドバイスしているのだろうが、なかなか強烈だな……。スクールカーストを引きずった「普通の女」によって下に見られている感、というのもまたヨシカの自意識過剰なのだが、他人とのコミュニケーションは、全て「独りよがり」と「大きなお世話」スレスレのところで成り立ってるよね、と実感。それは確かに善意なのかもしれないが、どうしてもムカッ腹が立ってしまうこの気持ち、そして謝ってくるのにまだ許せない自分の心の狭さへの怒り、全てが言葉にならずに暴走していく……。
 ヨシカが実はちょっとバカにしている隣のオカリナの女こと片桐はいりにも恋人がいたりして、最終的にヨシカは自分の狭さを認め、新たな関係性を結ぶことを選択する。
 しかしニの独善的アプローチがつらすぎて、イチは最初からないとしても、こんな奴で妥協せんといかんのかという気になった。そのうちサンやヨンが現れるだろうし、焦らなくてもいいんではないか。それこそ、最初の相手としてはまあいいのかもしれないが……。それこそこのニのキャラクターが、「平凡」という無神経、「普通」という傲慢、「日常」という地獄を象徴しているようで、個人的にはオエーッとなってしまう。顔もタイプじゃないし、オレが女ならこんな奴とは絶対付き合わんがな……と、自分の中のヨシカが猛烈に叫び出すのである。

 ヨシカがイチに求めたものは幻想だったが、じゃあニと「恋愛」という儀式をこなすことが幸福なんですか、というともちろん違うし、今後のことは何もわからない。そして、平凡な男と付き合ったり「普通」の「日常」を営むことで、こういったこじらせがどうにかなるか、と言うとそれもまた大間違いである。皆が器用に生きられると思っているのか? 自意識の獣は飼い慣らせず、狼は死ぬまで狼で、決して犬にはならない。絶滅するかというと、もちろん絶滅するだろう。だが、ニホンオオカミは滅びたが、その最後の個体は死ぬまで牙を研ぎ、獲物の喉笛を喰い千切り続けたのだ。ヨシカもまた、そうなる。

勝手にふるえてろ (文春文庫)

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”伝説は死せず”『スター・ウォーズ EP8 最後のジェダイ』(ネタバレ)


「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」本予告

 エピソード8!

 レイア率いる反乱軍がファーストオーダーの追撃を受ける中、伝説のジェダイルーク・スカイウォーカーに助力を求めるレイ。だが、ルークはそれを拒絶し、カイロ・レンがダークサイドに落ちたのは自分の責任だと告げる。カイロ・レンとフォースを通じてコンタクトしたレイは、彼を救おうと単身スノークの前に赴くのだが……。

 新三部作の真ん中、ということで、まあ何も終わらないんだろうな、とは思っていたが、お話上は確かに全然進まないんだけど、割合思い切ったことを色々とやっていて面白かった。
 EP6が好きなんだが、結局、皇帝を倒してフォースのバランスを回復したのはアナキンで、実はルークは何もしてない疑惑、というのを抱えていたのだよね。この人、ほんとにすごいんだろうか? お父さんに助けられただけで、実はヘタレなんではなかろうか? 伝説の男扱いされてるけど実は大したことなくて、だから弟子育成にも失敗したんじゃないの? とガンガン疑惑が立ち込めてくるのである。

 そんな彼のもとに弟子入りに来たレイちゃんに対し、ライトセーバーをポイ捨てして逃げ回るルーク! 身体能力だけはすごいので魚を取って暮らしているという、まさに隠居した仙人状態。渋々指導することになっても、天然入ってるレイちゃんをからかうあたり、ヨーダみたいなジジイになっている……。
 弟子にしたカイロ・レンがダークサイドに堕ちちゃった責任を感じていて、もうジェダイの歴史も閉じるべきと思っていて、引いてはそれが全部自己否定になっているのだな。
 「ジェダイ」は神格化されているけど実は大したことなかった、というのはルークが「全盛期に滅ぼされた」と言う通り、EP2、3ですでに明らか。陰謀を見抜けず、結構簡単に撃たれて死ぬぐらいの存在。そして今、伝説と呼ばれている最後の生き残りも、お父さんに助けられたマンに過ぎないのだ……。

 そんなルークに対し、かつてレイアがオビ・ワンに助けを求めた映像を見せるR2-D2と、しれっと出てきて「まだ伝えることがある」と告げるヨーダジェダイは崇められるほど大したことないけど、でもやるんだよ! ヨーダみたいなジジイになったルークがそのヨーダに「ヤング・スカイウォーカー」と呼ばれて諭され、かつてのオビ・ワンの役割を果たしに戻る……。さあ、このおじいさんの真価とは……?

 一方、ファーストオーダー。ダース・ベイダーごっこをしているカイロ・レンをうまうまと利用しているのかと思っていたスノークさんだが、今回はちょっと方針転換。ハックスをこき下ろしてカイロ・レンを立てる人心掌握術を繰り出す。が、なんだかこの結果、カイロ・レンがかえってお調子に乗ってしまった感もあり。ヘルメットをけなされ、駄々っ子のごとく自らたたき壊したカイロ・レンは確かに一皮剥けたのかもしれない……が、逆に野心が限界突破。
 かつてのジェダイが終わっているのと同様、ダークサイドもまたすでに限界が来ていて、人の欲望や悪の心を利用すると言っても煽りすぎると結局それは自分を焼く炎になってしまう好例。レイちゃんをいたぶってる間に裏切られる、というのはEP6のオマージュだが、スノークさんも皇帝と同じ過ちを犯したことで、すっかり過去のものとされてしまった。

 そんなわけでカイロ・レンの手中に落ちたファースト・オーダー。いや、彼が気を失ってるところに駆けつけたハックス将軍が、「えっ、まさか今後はこいつに従うの……?」と思いっきり不安視してるところと、その後で首を絞められ「あ、あなたが最高指導者ですう」とあっさり降伏するところが最高ですね。
 カイロ・レンが正直あまり賢くないのを、ハックス将軍も知っていて内心バカにしているあたり、ジャイアンスネ夫の関係性に似ている。ジャイアンスネ夫を暴力で支配しているが、スネ夫も彼を財力で支えつつその暴力性を利用している。持ちつ持たれつですね。

 そして、反乱軍を追い詰めたファーストオーダーの前に、単身、伝説の男が姿を現わす。「全火力を集中しろ!」と吠えるカイロ・レンに、「えっ、お前は手を汚さないの……?」と突っ込んだが、この時点ですでに腰が引けているんだな。砲撃が集中し、半ば呆れ顔で「もうよろしいのでは……?」と突っ込むハックス将軍がここでも最高!
 が、もうもうと立ち込めた黒煙をかき分け、全くの無傷で姿を現わすルーク・スカイウォーカー! えーっと、こんなドラゴンボールみたいな描写を見られるとは思わなかった。ジェダイってバリヤー張れたんだっけ……?
 ようやく自ら降りていくカイロ・レン。しかし彼もここまでハン・ソロを殺しスノークを殺して、二回も「父殺し」をやってのけているにも関わらずまるで成長していない……。やっぱり物理的に何人殺してもダメなんだな……。
 ジャイアンと言えば、空き地で歌う時に自ら横断幕を作って「みわくのリタイサル」と書いていたのが印象深いが、それを「素晴らしい。すべて間違っている」と容赦なく否定しちゃうルーク!
 直接対決でもやっぱり腰の引けているカイロ・レンは、あえなく手玉に取られて終わることに……。いやはや、伝説の男の最後の勇姿が、まさかあんなハッタリに満ちたものになるとは思わなかったよ。砲撃の後で、肩の埃をパンパンと払うところが、実は渾身の芝居であり、若手をいたぶる老人の茶目っ気であったわけだ。
 今作はこのルーク絡みの描写だけでもうお腹いっぱいで、いやあいいものを見られたなあ、という気持ちになったよ。

 さて、ジェダイとダークサイドのオワコンぶりを印象づけた今作だが、割りを食ったのが反乱軍で、当然他のポンコツっぷりに合わせてこの庶民の集まりはもっとポンコツでなければならないということになる……。
 スノークさんがいた時点でもいまいち強そうに見えなかったファーストオーダーに追い詰められ、どうにも緊迫感のないチェイスを繰り広げる中盤から、フィンとローズの渾身の反撃作戦の空振り、ダメロンへの指導者心得の伝承、唯一賢そうな作戦をしてると思ったらハックス将軍に見破られてるローラ・ダーンなど、全然切れ味がない。とりあえず、全く勝ち目が見えないまま追い詰められていく展開を、ルーク復活からの奇跡の脱出につなげたかったのはわかったが、オワコンを解体することが前提で作劇がそれに添うてしまったがために、賢い人が誰も出てこないというのは問題だな……。
 スカイウォーカー家の『スター・ウォーズ』はこれで終わったと思うが、おかげで今三部作もだいたい終わったんじゃないか、という気がする。ファーストオーダーも仕切ってるのがジャイアンスネ夫では、もう先が見えすぎだろ……。次ではレイちゃんと子供ジェダイ軍団(あとイウォークな!)に完敗しそうだな……。

”これが銀河の陣だ”『パーティで女の子に話しかけるには』


映画『パーティで女の子に話しかけるには』予告編  12月1日(金)公開

 パンク映画!

 1977年ロンドン。パンク少年エンは、偶然潜り込んだパーティで美しい少女ザンと出会う。保護者に反抗的で、パンクの話を聞いてくれるザンに惹かれていくエン。だが、ザンはあと48時間でこの星を離れるという。彼女は宇宙人であり、さらに彼らには恐ろしいしきたりがあって……。

 エル・ファニングちゃんが主演! タイトルだけ見ると童貞がモジモジする話かと思うし、これがほぼ原題の直訳。ただ、ナンパとか口説くとかいう言葉をチョイスせず「女の子に話しかける」としたのは、非常に平熱な感じだし、まして『スーパーバッド 童貞ウォーズ』とかとは全く違うニュアンスなのがわかる。

 パンクに傾倒してファンジンを書くガチオタである主人公が、悪友二人とある家のパーティーに紛れ込んだが、実はそこは宇宙人の住処で、全身タイツの彼らと思いもかけずコンタクトすることになる。
 80年代頃、『スターマン』とか『花嫁はエイリアン』とか、見た目は地球人そのまんまだけど宇宙人と言い張るB級SFが色々あったが、それに久々に触れたような感覚を受けましたね。舞台は70年代後半で、最近はこの頃を回顧する映画が多いな……。

 エル・ファニングちゃんは宇宙人ということで、まあ「無垢」なわけで、そういう子だからこそ主人公のパンクも受け入れてくれる、という都合良いボーイ・ミーツ・ガールではある。しかし陳腐な話と低予算で安いビジュアルだから、安っぽくてつまらない……のかというと、まったくそうではないのである。
 妙な間と無表情が徹底された宇宙人たちの演技が、そこはかとない説得力を生んでいつしか作品世界をそういうものだと納得させてしまう。主人公たち三馬鹿のそこへののめり込み様、距離の縮まり方も絶妙で、エル・ファニングちゃんとお近づきになりたい気持ち、ニコール・キッドマンのキャラのいい加減さがそれを後押しする。

 宇宙人の住処に乱入したところ、身体で壁を作って遮られるんですが、これって『少林サッカー』のあの陣形じゃないの……?とちょっと思ってしまったよ。観てるのかな……。

 オチも割とベタなところに持ってくるんだけど、それもまた心地よしですね。主役の人は、高校生役よりもラストの方が実年齢に近いのな。