”ソウル発プサン行き特急列車”『新感染 ファイナル・エクスプレス』『ソウル・ステーション パンデミック』


『ソウル・ステーション/パンデミック』予告篇

「新感染 ファイナル・エクスプレス」予告編


 ソウル発、プサン行きのゾンビ映画

 ソウルで突如起きた感染爆発。プサンへと向かう超特急KTX内にも感染者が入り込み、走行中の中で乗員、乗客が次々と襲われ感染していく。娘を離婚間近の妻のもとに送り届けようとしていたファンドマネージャーのソグは、軍人である顧客に連絡し事態をつかもうとするのだが……。

 これはかなり前から楽しみにしていた映画。原題は『釜山行き』で、これはKTXという韓国を縦断する特急列車のこと。日本の新幹線とは細部が違いますね。
 主演は『トガニ』『サスペクト』以来のコン・ユさん。ちょっと年取ったかな。ファンドマネージャーだが、離婚寸前の妻のもとに娘を送るために、早朝から釜山行きKTXに乗ることに。映画は基本、この路線上から出ずに最後まで進行する。まだ夜明け前の暗い内に出発した列車が進むにつれて明るさは増すが、車内から見えるのは超特急をも追い越す感染爆発の恐怖だ。

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 事態の発端になっているオープニングが最高で、最初に出てくる鹿のゾンビを見ただけで傑作認定してしまいそうになったね。車に轢かれたにも関わらず立ち上がる鹿。出血をものともせず、目は白く濁り……。いやあ、演技上手い鹿だな。カラコン入れられてるのに大人しいものだね(多分、CGです)。

 発車寸前の列車に『サニー』のシム・ウンギョンが走り込み、かの映画のババアの亡霊演技をさらにパワーアップさせたゾンビ演技を披露。これから始まる地獄を端的に見せる。最初は念入りに見せておき、後は割と勢いで端折っても脳内補完してもらえる、という感じで、映画は列車と同様にどんどん加速して行くことに。

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 ふとましいマッチョことマ・ドンソクにも、ろくでもない仕事呼ばわりされてるファンドマネージャーのコン・ユさんだが、お婆さんに席を譲った娘を説教したり、自分だけ助かろうと裏から手を回したり、確かにろくでもない人として描かれる。KTXの系列会社であるバス会社の常務を車内最悪の人間とすると、最初は確実にそっち側にいる。車内の多くを占める中間層より上の富裕層二人が鼻持ちならないのだが、コン・ユさんはそういった価値観に与しない娘に諭されることによって変わっていくこととなる。
 マ・ドンソクは彼に「父の教え」を説く、粗野で豪快で生きる力に満ちた存在であり、対照的でありながらこの状況下における理想像となる。そしてそれゆえに散って行くわけだが……。今回はその鍛えられた肉体による活躍が素晴らしかったですね。ただ、ゾンビバージョンも見たかったな。最後に乗り換えて走り去るところで、先頭切って追いかけてくるぐらいの絵面があっても良かった。コン・ユさんが捻り潰されてしまいそうだが。
 主要登場人物も何人かはゾンビ化するのだが、後々にも話に絡んでくるケースは少なく、その点が物足りなかったところでもある。まあ複数のアイディアがある中での取捨選択の結果なのだろうが。
 サブキャラではお婆さん姉妹がお気に入りで、ナチュラルなお姉さんと、整形したのか妙に若作りな妹さんの対比がいいですね。全然性格も違うのだが、途中で別れ別れになり、再会した時には一方が……という展開。ここで婆さんが啖呵切ってからのカタストロフは今作の白眉という印象で、車内のドアのガラス越しのビジュアルも往年のホラー映画のポスターのようで最高! ただ、個人的にはここがピークだったかな、とも思う。

 いわゆる「走るゾンビ」ものなので、スピード感重視で感染の速度も早い。それなりに残酷なシーンもあるが、人体欠損の描写はそれほどなく、むしろ控えめで見やすく作ってある。ゾンビものらしく、資本主義の極みによって生み出された結果、という存在でもあるし、国内における格差が極まった姿とも受け取れる。さらに、隣国からの侵攻という恐怖も一枚噛んでいて、なかなか一筋縄ではいかない。
 今作独自の、視覚があって見えるものを襲ってくる、というルールを駆使し、車内のサスペンスを盛り上げ、あの手この手で退屈させない。この電車内、駅構内限定という縛りがあるからこそフレッシュな絵面が生まれ、今作ならではのサスペンスを醸成する。

 スクリーンXで二回目も鑑賞。左右の映像は、実際のカメラ位置の左右である場合もあれば、前方スクリーンをワイドに拡大したものとして機能する場合もあり、さらに大量に押し寄せるゾンビのイメージ映像としても使われていた。ただ、左右スクリーンは専用プロジェクターによる壁への投射なので、前方ほどの精細さはなく、非常灯などもあるのでさほど没入感はなし。まだまだこの表現には洗練の余地がありそうで、今のところはわざわざ見なくてもいいかな、という印象。ただ、副産物として前方スクリーンは壁一面ぎりぎりいっぱいまで使用されているので、非常に見易い。

 二回見たが、飽きさせない工夫が凝らされていて全く退屈しませんね。国産の『アイ・アム・ア・ヒーロー』に続き、いいアジア産ゾンビ映画が見られた。まだまだネタはあるだろうし、この潮流に期待したいところ。

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 同監督による前日譚『ソウル・ステーション パンデミック』も鑑賞。こちらは列車縛りがなくなったので、普通に韓国社会におけるゾンビ映画という感覚で見られるようになっている。ただまあ新鮮味はなかったし、作画も相まって少々迫力不足という印象。
 『釜山行き』におけるホームレスの出番を増やしたような、貧困層中心に描いた非常に胸糞の悪いストーリー展開が見どころかな。ラストのどんでん返しもなかなか良い。今敏オマージュも感じられるな……。
しかし、『釜山行き』でも娘ちゃんがたまにパンチラしていたが、今作のヒロインも後半に向けてどんどんパンチラの分量を増やしていくのはいったいなんなのだ……。