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”母に捧ぐ”『キングスマン』


 マシュー・ヴォーン監督作!


 かつて父の死を告げに来た男が残していった謎のメダル……。エグジーは町のチンピラの車を壊して逮捕された時、その裏に記された番号に電話する。警察から彼を救い出した男はハリー……どこの国にも属さないスパイ機関「キングスマン」の一人だった。死んだ父もまたその一員だったことを知らされたエグジーは、ハリーの推挙を受けて新たなキングスマンになる試験を受ける。


 こちらもフランク・ミラーのアメコミ原作。幼い頃に父を失った少年は成長してチンピラになっていたが、かつての父の同僚から彼の死の真相を聞かされ、後継者としてスパイとなることを決意。どの国家にも所属しない秘密諜報機関「キングスマン」! 父に命を救われた元同僚「ガラハッド」コリン・ファースの推薦を受け、新たな「ランスロット」となるべく試験を受ける……。


 英国スパイ映画のパロディを放り込みつつ、『キック・アス』のバイオレントな香りを焚き、ハイスピードな現代アクションで俗悪なアメリカ野郎どもをぶっちめる!……ということで、こりゃあ面白くないわけがないじゃないか!
 ……と思っておりましたが、まあ面白いんだけど何かところどころブレーキがかかって突き抜けてこない感じに。何が原因かと言うと、実の父の不在から新たな父となるコリン・ファースが現れるまでと、その後の通過儀礼を通り越しての自立を描く、という完全なるファザコンストーリーになるはずが、なぜかマザコン成分がくどいぐらいに入っているせいだろうか。


 いやー、最後に献辞まで捧げて、マシュー・ヴォーンがこんなにお母さん思いの人だとは知らなかった。『X-MEN ファースト・ジェネレーション』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110612/1307871121)で、エリックが母親の思い出に涙しながらかつてない力を発揮するシーンが、一歩抜きん出て良かったことを思い出して納得したわ。「母親の復讐が動機と言うのは男として弱い」とか言ったらしい某監督はマシュー・ヴォーンに首チョンパされても仕方がない。
 それに対してスパイ映画の主役やってたロバート・ヴォーンと、本当の父親だった貴族の人の存在も映画には組み込まれているのだろうが、マザコン成分に比べてどうも真剣味に欠ける。任務中に死んだ実父、コリン・ファース、暴力継父とそれぞれどういうポジションなのかもよくわからんしな。
 そうして父と子の関係が希薄なせいで、もっと面白くなりそうな途中の訓練シーンが全然面白くないのが痛い。スーツや小道具をあつらえるあたりはいいのだが、実際に後半に大暴れするファクターとして、小道具ばかりにスポットが当たって、訓練で身に付けたスキルは全然描かれない。軍隊経験あり、身軽でバルクールが得意というスカウトされる前の設定と全然引き立てあっておらず、キャラが全然立ってこない。
 特訓シーン、「チームワークが大事」と言いながら犬は撃たないといけないし、蓋を開けると常に単独行動だから「キングス"マン"」だ!などと言い出すし、切り捨てられていく同輩の欠点が明確に描かれるわけでもないし、ほんとにつまらなかったな……。このせいで、クライマックスのバトルも覚えたスキルが活かされる燃える展開にならないので、全然盛り上がらない。
 で、極めつけに「真のキングスマンが何かを教えてくれた母にこの映画を捧げる」という献辞が炸裂。作中で何も教わってないように見えるのはこのせいか。父は服や肩書きをくれるだけの存在なのね。いや、それならもっと母との関係をみっちり描いたり、母親をキングスマンにすりゃあいいじゃないかと思うんだが、実は母親の内面にも大して関心なさそう。


 主役の子もまあ悪くないんだろうが、ストリートスタイルが似合わなさ過ぎたな……。それでいて後半はコリン・ファースと比べるとまるで「七五三」なのが宿命づけられているわけだし、いろいろな意味で分の悪かったところ。
 最後に「ガラハッド」の名前を襲名しないので、コリン・ファースはまた復活するのかな。コリン・ファースが引退して新たなアーサーになり、主人公が改めてガラハッドを襲名するような流れになるのでは、と想像。


 長回し格闘やクライマックスなど多彩かつ華やかなシーンには、センスとテクニックを大いに感じるのだが、上手いけど浅い監督だという印象ね。一種の陰湿さがうかがえる復讐話や、「罪のないレイシスト」(笑)やド金持ちは殺してしまえばいいという発想、そして後ろの穴など、真面目な人が日頃言えそうでなかなか言いだせない後ろ暗い欲望を軽々とすくい取って映画に落とし込んでしまうあたりは非常に巧みで、多分それ以上のものは何にもない。このあたり、元相方のガイ・リッチーと似ているな。これだけむちゃくちゃ悪ふざけやってるのだから、もっと面白いはずなのに、なんでこんなに盛り上がらないのか、という何とも物足りない映画でありました。