"丸腰でも追いかけろ!"『ビトレイヤー』


 マカヴォイVSストロング!


 強盗を重ねる犯罪者スターンウッドを追った捜査官マックスだが、規制のために銃を持てなかったことが災いし、膝を撃たれて彼を取り逃がしてしまう。三年後、スターンウッドの息子が銃撃事件に巻き込まれ、警察に確保される。マックスはスターンウッドが戻ってくると睨み、同僚のサラと共に病院で網を張るのだが……。


 今、もっとも旬な二人の男の競演……! ということで、まあまあ楽しみにして観に行ったのだが、少々期待外れでありました。刑事と犯罪者、因縁の二人が時を経て再会、恨みや立場を超えて共闘する、という激燃えストーリーのはずが、肝心の二人の関係性がまったくの空振り。マーク・ストロングが「伝説の男」と語られるが、その伝説たる所以が全然描かれず、冒頭のバイクチェイス→独断専行したマカヴォイの脚を撃ち抜く、という展開をもって、因縁の全てということにしてしまう。そりゃあまあ脚の古傷は痛むだろうけど、主人公と宿敵の関係としてはあまりに薄味。水抜きするシーンを三回も入れて、わざとらしく大変さを強調するあたりも痛かった……。


 で、今回のストロングさん、もう最初っからいい人なのな。この人、演技はうまいんだけど、『ロビン・フッド』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101230/1293672340)や『キック・アス』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101223/1293018867)など、悪役の時にちょっとやり過ぎてしまい、いかにも「グフフフフ……」とか笑いそうな悪の化身になってしまうので、本来ならどちらともしれない役回りの、微妙なニュアンスを見せている時が相対的にすごくいい人に見えてしまう。今回の冒頭シーンでも、もうあからさまに躊躇してからの、「殺すことはないだろう」という情け深い表情を見せてしまうので、うわーっ、いい人やん! とすぐにわかってしまう。そうなると、マカヴォイ君の執念もますます求心力を失ってしまうわけだ。
 そんな頭の悪いプロフェッサーのようになってしまったマカヴォイを嗜める側のアンドレア・ライズボローさん(『シャドー・ダンサー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130415/1366022301)の人妻)が、後輩ポジションであるにも関わらずお姉さん的に微妙なエロさを爆発させる(そう言えば『オブリビオン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130428/1367150398)でもそうだった……トム野郎は50男だよ!)のであるが、しかしこちらも活躍したのかしてないのかわからないぐらいのタイミングで退場。ブロマンスには女は邪魔、という鉄の法則の犠牲になったか……。


 ストロングさん帰還のきっかけになる息子の存在も単にアイテムだし、メインの事件も悪役軍団の力押し加減がすげえ! やっつけ的に真相を全部台詞でしゃべってしまう辺りにも笑ったな。主演二人のカッコブー演技はまあまあ楽しめるが、せっかくの父の涙やら、同僚を殺された怒りやらが、ストーリーのしょぼさに裏切られていまいち光らないのだな。


 低予算っぷりや話運びが、言われてみれば香港映画っぽい。ラストにわざわざコンテナ街に行っちゃうあたりは特に。だけど、演出だけそれっぽくなぞってもらしいものにはならないよね。イギリスの警察のお綺麗感や、猥雑さを感じさせない街並みで同じことやっても、例えばダンテ・ラム映画のようには絶対にならない。塩だけで味付けして、真っ白な皿に盛った中華みたいな映画。いやいや、中華に重要なのは、油と火力だから!