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”寝取られ男のブービートラップ”『ジェーン』

映画 ナタリー・ポートマン


『ジェーン』予告

 ナタリー・ポートマン製作の西部劇!

 西部の荒野で夫のハムと娘と暮らすジェーン。だが、夫のハムがビショップ一家に撃たれて重傷を負う。かつてジェーンを娼婦にしようとしていたビショップは、彼女をさらったハムを追っていたのだった。迫る一家に立ち向かうため、ジェーンはかつての恋人ダン・フロストを訪ねるのだが……。

 全然強そうじゃないナタリーが主演で西部劇……? バカ映画『クイック&デッド』のシャロン・ストーンなんかともまた違う地雷臭が漂う。今作もかなり製作状況がゴタゴタしていて、監督や役者も何度も変わってやっとこさ撮影にこぎ着けた……という、まあまあ曰く付きの代物。相手役がファスベンダーから悪役をやるはずだったジョエル・エドガートンに代わり、悪役はジュード・ロウになったけど監督が降りたので降板し、ナタリーの友達のユアン・マクレガーが買って出たり……なかなか撮影に入れず、監督も『ウォーリアー』のギャビン・オコナーに変更。まあバタバタバタバタ……だったはずなんだけど、でも別に出来栄えにはまったく関係なかったりするのだな……。

 作中でも子供が二人いるナタリー・ポートマン、実年齢に近い役ということだが、老けたというより老いたという印象。単に年を取ったんじゃなくて、過酷な経験を経て人生に対して負い目を背負い希望を失いつつあるがゆえに老いて見える、というキャラクターなんですな。出稼ぎに出た夫が撃たれて瀕死で帰宅し、幼い子と二人。だが、逃げることより戦いを決意した彼女は、エドガートンを訪ねる……。
 エドガートンさんは最初酒浸りで、ナタリーが訪ねてきただけで怒っててどういう関係かわからんのだが、元婚約者であることが段々わかってくる。これは寝取られものですか? しかし「二度と来るな!」と言ってる割に、わりかし近所に住んでるあたり、結構未練あるんじゃないの……?
 果たして銃と爆薬を買いに行ったナタリー、夫を撃った悪者の一味に捕まり家の場所を吐かされそうに……そこへ助けに駆けつけるエドガートン! エドガートンで役名が「フロスト」だから、ぜったい悪役だと思ったらいい人だった、すいません。

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 髪も黒くして誰かわからんぐらいメイクしてるユアン・マクレガーが、かつてナタリーを娼婦に落とそうとし、最初の子を死なせた地元の大ボスで、今の夫はその境遇から彼女を助けた男なのだな。で、婚約者のエドガートンさんは、その危急の際には南北戦争に行って音信不通になっていた、と。

 この辺りの二人のすれ違い事情が順繰りに少しずつ語られていく。寝たきりの夫は半失神状態で、実質二人だけで迎え撃つ準備をしているので、超気まずい雰囲気。
 ここのエドガートンさん、家の前にずーっと穴掘って、ダイナマイトと火炎瓶を黙々と詰め続ける恐ろしい作業を、恨み言混じりにやっててすごい情念。俺を捨てやがって!(でも好き) もう会いたくなかったのに助太刀なんて頼みに来やがって!(放っておけるわけないだろ!) ここのナタリーは確かに図太く図々しく見えるし、うまうまと利用されている寝取られ男が可哀想にも思えるところ。エドガートンさんはこっそりと、若かった頃二人で気球で空飛んで「ずっと二人でこのまま空にいたいね」と言い合った思い出を回想し、「あ〜あ〜、どうせこんなこと覚えてるのも俺だけなんだろうな、へっ!」みたいに情けなく拗ねている。悲しい! 悲しいぞ! 

 悪のユアン軍団、十数人の手下を放ち、広いのか狭いのかよくわからん西部を捜索、一人が家までやってきてエドガートンさんに射殺! 途中、銃撃と言えばこれぐらいで、あとは回想と恨み節が続くのだが、不思議と退屈せずに引き込まれて行く。あまりに文句が多いエドガートンについにナタリーも怒り出し、「私かて苦労してん!」と過去の経緯を語る。今の夫に助けられたことと、その直前に失った「最初の子供」のことを……。
 で、もうこっちが忘れかけてた頃にぽろっとナタリーが呟く。

「昔、二人で気球乗ったよね」

 事ここに到り、止まっていた時が再び動き出す音が聞こえましたね。今ここでこれから始まる戦いが、自身にとっても宿命づけられていた事にエドガートンもまた気づく。こっから「西部劇だぞ!」というテンションに急に上がって来る。
 深夜に強襲をかけるユアン軍団。数では圧倒的に優勢……なはずなんだが、のこのこと入ってきた中庭には……! エドガートン、地味なおっさんに見えるけど南北戦争の元英雄で、「舐めてた相手が実は殺人マシンだった」ものに近い構造だが、家で待ち受ける二人の間にものすごい情念が渦巻いていて、数を頼みにそこに踏み込んでくる悪役は、文字通り地雷原に踏み込んだかのように爆砕される。数年に渡る寝取られ男の鬱屈の小さな火と、子を失った女の復讐の火が、二つ合わさって炎となったかのような……だが、これこそが希望の炎だ!
 徹底して、登場人物がその場で見渡せる視界から離れないカメラワークが地味に上手く、このブービートラップの大爆発も窓越しのアングルではっきり全貌が見えないのだが、それゆえに燃えてる人間がチラチラ見える快感がすごいよ。

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 悪役のユアン・マクレガー、なかなか凄みがあるんだが、やっぱり彼ならではの妙なおかしみがあって、自分が負けるとか微塵も考えてない呑気さみたいなものも仄見えるあたりが面白い。
駅馬車相乗りは危険!という『悪党に粛清を』と同じ内容も孕みつつ、登場人物少ない割にウェットかつタイトにまとめてて、意外にも面白かった。エドガートンさん絶好調だな……。