”時代が終わり去り行く者”『エクソダス 神と王』


 リドリー・スコット監督作!


 紀元前1300年エジプト……皇太子ラムセスと共に育てられたモーゼは、将軍としてヒッタイト王国を退け、活躍していた。だが、奴隷であるヘブライ人の長老に、彼もまたヘブライ人の一族であると告げられる。一方、王に即位したラムセスもそのことを密告によって知り、苦渋の果てにモーゼを追放するのだが……。


 相変わらずビッグバジェットを手掛け続けるリドスコさん、今回は『ロビン・フッド』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101230/1293672340)以来のコスプレもの。
 まあ最初のエジプト軍大進撃から異様な迫力と画面の緊張感で、これはかつて『13ウォリアーズ』を観たらまあまあ迫力あると感じたが、『グラディエーター』を観たら、「やっぱり『13ウォリアーズ』はなかったことにしてしまおう」と思ったのを、また思い出しましたね。『ロビン・フッド』の時にも書いたよ……。今回は『ヘラクレス』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140928/1411903470)あたりが割りを食って、まるで学芸会だったように思えてしまったのでした。
 おなじみの大戦車軍団が出撃し討伐戦が繰り広げられるのだが、その中でジョエル・エドガートンのラムセス王が、義弟モーゼことクリスチャン・ベールに助けられる。直前の予言で、戦で指導者を助けた者が民を率いると言われていたにも関わらず……。それを気に病むラムセス王。一方、モーゼは奴隷になっているヘブライ人の視察に赴いた先で、実は自分もヘブライ人であったことを知らされる……。


 いやはや、なんかスポーツ刈りみたいな頭してるし、当たり前だが白人だし、一人だけもろに現代人に見えてしまうチャンベールさん。こればかりは彼の演技力をもってしても如何ともしがたい……。
 ヘブライ人であったことがばれて、王に追放されてしまうモーゼ。義兄である王は、密かに彼の荷物に剣を忍ばせ、シガニー・ウィーバー演じる皇太后の暗殺者から彼を救う……。このジョエル・エドガートン王様、実に優柔不断。リドリー映画の悪役王様はだいたいこんな感じだな。何ともウエットで煮え切らなく、まあ本人はそんな悪い人でもないのであろう。奴隷を直接虐げてるのも地方の長官だし、あ〜俺のせいじゃない〜みたいな、要は為政者向きじゃない人。
 段々と自意識が発達してきて、俺は王だ! 俺は神だ!とか言いだしちゃうのだが、王宮作り直したり、像を立てたり、いかにも権力を持て余して飽和状態に陥っている。何をしていいのかわからない……。
まあある意味リアルだなあ、と思うのだが、奴隷を虐げる描写がエスカレートしてくるわけでもなく、ぶれまくって後手後手に回ってくる王様に神様が天誅を下し始めても、まあそこまでせんでもええんでないかな……という感じになるのであった。
 そんな神様のやり過ぎ大災害に、対話しているモーゼも段々引き始めるのだが、彼も神を信じていないはずの人だったのが、半信半疑なテンションで対話を始めるから、こちらもこちらで全然煮え切らない。「ええ……それはちょっと……」とか言ってる間に、どんどん神様が悪乗りして子供まで殺し始める。超怖い!
結局、全面的な対決には至らずにエクソダスするのだから、ある意味煮え切ってしまってはいかんのだけれども、キャラとストーリーの処理がうまくいってなくて、実にすっきりしない話になっている。
 エクソダスしたらしたで、「うわあ、道間違えちゃったよ〜! もうだめだ〜!」とか言ってる前代未聞級にダメなチャンベールさんもみどころ。いやいや、『ダークナイト・ライジング』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120730/1343577443)で引きこもってた時も、もうちょいマシだったろうが……。そして猛追するんだけれど、何をしたくて追ってきてるのかもよくわからない兄王……。


 爆走してた長蛇の列の戦車隊が山道を大脱線して、あ〜こりゃ『アンストッパブル』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110111/1294725473)オマージュかな、と思いきや、エンドロール前に「弟、トニー・スコットに捧げる」とテロップが出て締め……ということで、ぽつんと一人取り残された兄王のような気分にリドリーも浸っているのであろうか。お父さんには弟の方が才能ある、予言では弟の方が人気出る、と言われたものの、先にエクソダスされてしまって、結局どうだったのかわからない。まあとりあえず預言者は吊るしたけど……。


 『グラディエーター』『キングダム・オブ・ヘブン』『ロビン・フッド』と、だいたい権力構造が崩壊して終わるのだが、今作もそんな感じ。王は滅び、指導者モーゼも老い、神もまた去ろうとしている。では人々を導くのは何か……ということで、ばばーんと十戒が登場。神もなく王もない時代に、まさかの法治主義で締め……。うーん、話的には民主主義でまとめた『ロビン・フッド』の方が座りが良かったな……。


 まあ大変迫力はありましたが、なんかあれこれ考えすぎてうまくまとまらなかったような映画でありました。ひさびさに3Dで観たが、やっぱりエクスパンディは画面も暗かったし……。