"たちまちおつむが大噴火"『ポンペイ』


 ポール・W・S・アンダーソン監督最新作。


 ローマ人によって一族を皆殺しにされ奴隷となり、剣闘士となったマイロ。復讐を胸に戦い続けて来た彼は、ある日、ポンペイの街で有力者の娘カッシアと出会い恋に落ちる。街の平和と利権をめぐり、ローマの議員に求婚されているカッシア。そしてその議員こそがマイロの父母の仇であった……!


 2D版で鑑賞。『三銃士』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111110/1320901456)で、俺ってコスプレ物もいけるやん!と思ったかどうかは定かではないが、さらに昔の時代に遡って、噴火で滅んだ街のドラマを描くアンダーソン。ケルト民族の生き残りである主人公が奴隷剣闘士として戦う中、新たな闘技の舞台ポンペイで、街の統治者の娘と出会う。さらに闘技場のチャンピオンや、娘を自らの物にせんとするローマの議員キーファー・サザーランドなどが絡むのであった。


 え〜、主人公の一族の仇がキーファーとその部下で、彼の目の前で戦いながら復讐の機会をうかがうというストーリーがあり、そこにエミリー・ブラウニングとの三角関係がロマンスとして味付けされる……という、まあよくある展開なんだけど、そこにポンペイの大噴火が近づく。予兆として地震が起きるのだが、


「あいつは俺の仇だ……! どうにかして」グラグラグラッ!


「わたしは結婚なんてしたくありません、あんな男と」グラグラグラッ!


 ……という感じで、いちいち話の腰を折りまくる! おかげで全然ストーリーに集中できない。そもそも登場人物すべて「噴火」のことに気づいていない、あるいはそれが何かも知らないといった体で、全然ドラマに関係ないのだな。タイムリミットにさえなっていないというのは珍しい。まあこの何の予測もできていない唐突さこそが、3.11と日本社会を隠喩しているのかもしれないね(ドヤア)。
 同じタイミングで『ノア』も公開なわけだが、今作では噴火自体に宗教的、観念的な意味づけや隠喩が全然ないので、ほんとにただ噴火するだけ。街自体も別に滅ぼされるほど頽廃しとるわけでもないし、なんせローマから離れた開発中の田舎みたいなとこやからね。
 かと言って実録災害もののようなリアリティ志向でもないので、CGが爆発して、今度こそ本当に話の腰やらフラグやらをへし折る瞬間をただ待つだけに……。


 おかしいなあ、『三銃士』と『バイオハザード5』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120927/1348741324)は、わりと面白かったのになあ……。
 いや〜、シリーズの積み重ねや原作の重みがないと、ポール・ダメな方・アンダーソンの圧倒的なまでの中身のなさはこんなにもオープンになってしまうのだね。空撮カットが本当に『バイオ』や『三銃士』と同じなところも、またいい感じにダメさを際立たせるのである。


 ヒロインはエミリー・ブラウニングだが、あの白痴かお人形さんかという『エンジェル・ウォーズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110417/1302966786)や『スリーピング・ビューティ』とは打って変わって、初めて生き生きとした表情を見ましたよ。しかし、お嬢様設定とメイクとライティングと生き生き演技が互いにマイナスに作用したか、はたまた監督は嫁のミラ様以外のヒロインに興味がないのか、全然かわいくないのが厳しい。侍女役の方がナチュラルでいいではないか。
 現代人が服だけ着替えたようにしか見えないキーファー・サザーランドのやる気のない悪役も定番クオリティで素晴らしかったですね。いやあ、『三銃士』のマッツは良かったなあ……。


 一応、主人公と、彼と友情で結ばれる王者役の人のアクションはまあまあ良かったかな。これまで観ていられなかったらどうしようもない。しかし、この田舎闘技場のスケール小さい戦いを語るのに『グラディエーター』のタイトルを引き合いに出すのは頼むからやめてほしいわ……。


 毎度おなじみアンダーソンさんのところの定食屋にいつものメニューを期待して行ったら、女将さんはチラシ配りにでも行ったのか不在で、相変わらず頼りない顔した大将が珍しくドヤ顔で出してきた新メニューが、普段のカツ丼以下の味気なさであった……という感じでしたね。また次回頑張ってください。

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