“まぼろしの邪馬台国”『トゥームレイダー ファースト・ミッション』


映画『トゥームレイダー ファースト・ミッション』予告編

 あのシリーズが復活?

 資産家だった父のもう一つの顔、それは冒険家? 日本で行方不明になった父の遺産を相続しないでいたララ・クロフトは、父親が行方不明になる直前に探していたものが卑弥呼の墓であると知る。残されたメッセージには資料を焼却しろと残されていたが、ララは父を追い香港へと渡る……。

 懐かしのアンジェリーナ・ジョリー主演の二作は律儀に見ているのだよな。当時のポリゴンキャラを「解釈」すると、なるほどアンジー顔がしっくりくるなと思った次第。今はCG技術も進んでどんな顔でも作れるし、逆にアリシア・ヴィキャンデルでもまったく問題ないな。
 前二作は、サイモン・ウェストの一作目はアクションが編集ぶつ切りでとにかく見辛く、ヤン・デ・ボンの二作目はそこのところは解消されつつだからと言って面白かったわけではない……という、何とも微妙な記憶が。

 今作のヴィキャンデルちゃん、会費払ってないMMAジムでスパーしてタップ負け、バイトしてる自転車便で賭け競争やって事故りペンキまみれに……と最初からまったくいいとこなし。と言うか、貧乏なんだが、この人って金持ちのお嬢さんじゃなかったっけ? 実は行方不明の父親の死亡を認定せず、財産も受け取ってないのね。せっつかれて遺産の目録を改めている時に謎の鍵を発見。実は冒険家だった父の記録を隠し部屋で見つける。父は卑弥呼の墓を探して行方不明になったのだ!

 父の形見のペンダントを質に入れ、香港へ渡るヴィキャンデルちゃん。卑弥呼だからそこは日本だろ、と思うところだが、卑弥呼は孤島に渡ってそこに監禁されたという設定なので、まあアジア近海ならどこでもええねんということなのだろう。ひったくりを追いかけたりしながら、手がかりを知る男ダニエル・ウーと出会う。

 質屋のおじさんがまさかのニック・フロストだったのでびっくりしましたが、ここはイギリス俳優を持って来たかったのかな。ヒットしてシリーズ化されれば、『ミッション・インポッシブル』のサイモン・ペグのようにレギュラー化もありえるか?
 ダニエル・ウーも『ジオストーム』に続くハリウッド出演。今回は死ななかったが、島には渡るものの遺跡には入らないということで、大活躍とは言い難い。クライマックスに絡めなかったのが残念ですね。

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 ファーストミッションということで、主人公の未熟さを印象付ける展開が多く、海外に出てからもひったくりにあったりしていいとこなしが続き、必死に頑張っているのはわかるんだが、背伸びして自分を大きく見せようとしている感じが続いてもどかしい。父親を亡くしたがゆえに、なんとか早く自立しなければ、という心理プラス、周囲を拒絶して頑なになるところね。もちろんそれは解消されて成長する方向にいくし、アクション一年生のヴィキャンデルには会っているのだが、それこそ父のような目線で見ないとフラストレーションが溜まりますよ。

 卑弥呼の遺跡云々はデザインやトラップに新鮮味がなく、設定もトンデモ感が漂ってるのがまた弱いな……。まあダメと言うほどでもないが、パッとしない映画ではありました。

“白い服の異常な昼”『ビガイルド』


映画『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』本予告

 ソフィア・コッポラ監督作!

 北部の負傷兵が運び込まれたのは、女ばかりが暮らす南部の女子寄宿学園だった。手当をしながら、七人の女たちはそれぞれに男に惹かれていくのだが……。

 監督の作品は初見だったのだが、娘ッポラさんは正直あまり興味のない題材ばかり撮る人だなというのが正直なところ。が、今回は欲望渦巻く『白い肌の異常な夜』のリメイクだそうで……え? リメイクじゃなくて、同原作の二回目の映画化? まあええやん。

 さて、映画は白っぽい服装、木漏れ日で目に優しいビジュアル、小川のせせらぎや鳥のさえずりが終始聞こえる音響設計。ほうほう、これは……眠いです……。いや、コリン・ファレル負傷兵が運び込まれるところまでは起きていたのだが、環境音の穏やかさにいつしか睡魔に魅入られ、問題の手当てシーンなどで熟睡しました。いや、これだけ寝たのは久しぶりですね。

 かなりランタイムは短い映画なのだが、ちょいちょいディティールを端折ってるので驚いたところも。終盤、コリン・ファレルが鍵を開けることを頼んだ結果はすっぱり端折られ、クライマックスの会食に至る流れも急にシーンが飛んだ。
 単に絵や音でムードを作るだけじゃなく、シーンを積み上げないのでますます雰囲気の映画になるのであろうかな。

 まあ今回はあまりに寝たので、ソフィア・コッポラ初体験はお預けということでよろしかろう。次作を見るかはまた別の話だが……。

“小銭がないとダメ”『ペンタゴン・ペーパーズ』


『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』予告編

 スピルバーグ監督作!

 ベトナム戦争が泥沼化した1971年。戦争の経緯を詳細に記録したトップシークレット文書をニューヨーク・タイムズがすっぱ抜く。反対運動の激化を恐れたニクソン政権が記事を差し止めようとする中、ライバル紙のポストもまた同じ文書を手に入れようとしていた。明かされるベトナム戦争の不毛さに、ポストのオーナーであるキャサリン・グラハムは危険な決断を迫られる……。

 原題は『POST』だから、日本でいうと『毎日新聞』みたいな感じですね。これを書いてる現在、連日、朝日新聞のスクープが国会を揺るがせ、毎日新聞が後追いでまたスクープを出すという状況が続いています。今作ではベトナム戦争にまつわる重大スクープをすっぱ抜いたニューヨーク・タイムスに続き、同じ裏情報を掴んだポスト紙が後追いで記事を出すか否か、というお話で、まるでスピやんが日本のために作ってくれたかのようだ!

 映画は地獄のようなベトナムの戦場から幕開け。泥沼が続くが、実は政府は、もはやこの戦争には勝てないと早くから知っていたのだった……。

 NYTにぶち抜かれた、時のニクソン政権がそのスクープを潰すために報道各紙になりふり構わぬ圧力を仕掛け、報道の自由か政権への忖度かを迫られる。ポスト紙のオーナーであるメリル・ストリープと編集長トム・ハンクスは、存命中のJFKと親しくしたり、現政権の政治家にもネタをもらっていたりして友達関係を築いていたりするので、結構悩ましい……。
 いやいや、悩ましいじゃなくて、やっぱり報道はそこらへんバシッと分けとかないとあきませんよ、という大原則に立ち返るまでの葛藤……。予告編だとメリル・ストリープはいつもの意志の強い強面女に見えるが、実は今作では割とおっとりしていて舐められている経営者で、途中の悩んでるところの演技の方が上手くて印象的でしたね。またここで女性が声を上げるというテーマを持って来るのもさすがですね。
 一方でトム・ハンクスは、『スポットライト』のマイケル・キートンの完コピに見えなくもなく、ちょっと先行作の前に割を食ったか。しかし他のキャストは大変地味な無名キャストで固めていて、この二人が逆に悪目立ちしているように見えるぐらい。まあ商業的には大物キャストも必要なのだろうが、やろうと思えば全員無名キャストでも撮れるんだろうなあ。

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 情報提供者も含め、報道側もまったく一枚岩ではない。そもそもニューヨークタイムズとポストはライバル紙だから、お互いの情報交換は基本的にはない。だが、これを国民に届けずしてなんのメディアか、という矜恃ね。NYT側の話でも、一本映画が撮れそうである。

 七十年代を舞台にくすんだ色調で撮った撮影も素晴らしいが、基本会話劇なんで地味は地味……なんだが、名匠ヤヌス・カミンスキーの撮る輪転機は、何やら怪物じみていてめちゃくちゃカッコいいな。
 電話かけるシーンで小銭を落とすのも、実にベタでしょうもないギャグシーンなのだが、これを緊迫感溢れるシーンにしちゃうからすごい。ご存知ウォーターゲート事件につながるエンディングもキレキレで最高ですね。隅々まで堪能しました。

“まだ始まってもいねえよ”『スリー・ビルボード』


『スリー・ビルボード』予告編 | Three Billboards Outside Ebbing, Missouri Trailer

 アカデミー賞最有力!?

 ミズーリ州の寂れた道路に放置されていた三枚の看板。そこに不意に貼り出された広告は、地元の警察と署長の犯罪捜査への怠慢を糾弾するものだった。7ヶ月前、娘を暴行されて殺されたミルドレッドが広告主であり、警察署長のウィロビーは困惑、彼を慕う部下や街の人間は腹を立てるのだが……。

 えー、結局アカデミー賞作品賞は取れず。マーティン・マクドナー監督作は初見だが、監督賞ノミネートがなかったのが響いたか? 主演女優賞助演男優賞は獲得。

 表題の三枚看板のシーンが本当に素晴らしくて、表側、裏側問わず、平凡のようでいて今まで見たことのないビジュアル。これだけ明確にさらりと表現してしまうのに驚かされる。三枚の看板の距離感も絶妙で、歩くと遠いが車だとすぐなのな。こうして三枚の看板を通り過ぎる時間の間隔までが染み込んでくるようで、圧倒的なオリジナリティですよ。
 改修前の姿、メッセージが出た後、燃やされた後と再び貼り出された後……次々と姿を変えていき、まさに今作の主役としての存在感を見せている。

 ありふれたアメリカの田舎を舞台に、不条理に対して声をあげることによって巻き起こる軋轢と、その中での人間模様と感情のもつれを描き出す。仕掛人であるフランシス・マクドーマンド演ずる主人公は、ステレオタイプな「可哀想な母親」像に決して留まらず、だからこそ決して泣き寝入りもしない。
 告発される警官側の二人、ウディ・ハレルソン署長とサム・ロックウェルの二人は、当初は「物分かりは良く見えるが何もしない人」や「横暴の権化」に見える。だが、物語が進みバックボーンが明らかになるに連れて立ち位置も変わっていく。

 最近、『ゲット・アウト』や『ツイン・ピークス』新作などで貧乏くさいキャラばかりやっていたケイレブ・ランドリー・ジョーンズなどが広告会社の人としてすごくいいキャラクターになっていて、彼とサム・ロックウェルの絡むシーンはすべて必見ですね。また窓から放り出すシーンの臨場感も良くて、ここはワンカットだけど敷いてたマットを急いで片付けたりして昔ながらのやり方で撮ってるんではないか。

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 サム・ロックウェルは隠れゲイと思しき警官役で、まあ大変横暴で賢くもなさそうで、前半大変嫌な野郎なのだが、ぼんやりと裏の面がほの見えてくるあたりから俄然存在感が増してくる。この彼のハレルソン署長の慕いっぷりが涙ぐましく、またケイレブやディンクレイジさん、マクドーマンドさんへの横暴が嫌らしいが、これら全て同じ人間の一面であり、その曖昧さ、白黒のつかなさこそがリアルなわけだね。曖昧なようで、その場その場の感情はかなり明確にわかりやすく表現されている。矛盾するけれどそのどちらもが真実である、ということ。
 ただまあ、メインキャラの両面を描き、どのキャラにも真摯に寄り添った分、得体の知れない曖昧模糊さは描かれないので、田舎映画としては物足りない。妙にわかりやすく出来すぎにも感じられる。よく出来た脚本だが、この良さこそがマイナスかも……。
 海外ドラマなど見ていると、10話500分で何シーズンもやりながら、キャラクターの心情の変化や裏の面を描く濃密さに驚くのだが、今作はそれを120分に凝縮した感もありですね。それほどの巧みさと完成度。

 で、ラストの放りっぱなし感が、ここから先もまだまだドラマは続くんだ、と匂わせるから、余計に世界観が広がった。まだ旅は始まってもいないのだ……。

”なんてことあるわけねえよなあ”『15時17分、パリ行き』


映画『15時17分、パリ行き』本予告【HD】2018年3月1日(木)公開

 イーストウッド監督作!

 2015年8月21日15時17分、アムステルダムからパリに向けて特急列車が発車した。だが、その中に大量の銃で武装した男が乗り込んでいる事を、乗客たちは知る由もなかった。たまたま居合わせた休暇中の米兵ら三人は、自動小銃を取り出した男に果敢に挑んでいくが……。

 道を歩いていて、子犬でも幼児でも何でもいいが、トラックに跳ねられそうになったところを間一髪助け出す、みたいな妄想をしたことある人は多いのではなかろうか。同じように、乗り物に乗っていると、ハイジャック犯やらテロリストが突然現れるとする。日頃鍛えた肉体で、そいつを鮮やかに取り押さえたら、さぞかっこいいだろう。英雄間違いなしだ。

 ……なんてこと、あるわけねえよなあ。現実って儚いよなあ……と思うまでがセットなのだが、あくまで確率は確率に過ぎず、本当にこういうことが起きてしまうことだってあるのである。
 今作は現場に居合わせたアメリカ軍人含む仲良し3人組が、銃撃犯をとっ捕まえた実話の映画化。事件の現場を、犯人以外の本人達に演じさせたということで、『ハドソン川』のエンドロールを拡大版にしたような感じですね。

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 「偶然です」では映画にならないから、3人の子供時代から振り返り、特にその一人スペンサー・ストーンの、軍人を志し何者かになりたい、人助けをしたいという願望を抱くも、希望のレスキュー部隊には配属されないという挫折を描く。
 仲良し3人組でヨーロッパ旅行にでかけ、当初は行く予定がなかったパリを、まるで何かに導かれたように目指す……まあこの導かれた云々は後から付け足した理屈だと思うが、これがここのところのイーストウッド映画の、人生において、必ずツケを払う瞬間、決断を迫られる瞬間がある、という繰り返し語られたモチーフと合致するのだな。
 今作は、挫折を繰り返してたけど腐らず頑張ってきた成果がまさかという形で身を結んだ、ということで、練習していた柔術も炸裂するのである。バックを取ってのチョークだが、相手がナイフ持ってたので危うく刺し殺されそうになっていて、結局3人がかりでやっつけていたからどこまで柔術が役に立ったのかわからなかったが……。

 そもそもこんな話出来すぎで、フィクションだったら都合よすぎと叩かれるところだが、まあ実話なんだからしようがない。飛びつき腕ひしぎでもしたように改変してもいいところを、本人演技でリアルなムーブにこだわり、半ばドキュメンタリーのようになっている。捕まえて撃たれた人を救急隊に引き渡すまで体感的には長く感じたが、実際は数分であり、それでは映画にならないので生い立ち他を延々とやって「導かれた」話を付け加えたというところだろうか。それでも尺が足りないから、ドイツで3人分のジェラートを店員のおじさんが1人分ずつよそうところを延々と映していたりして、さすがにそこはおじいちゃん大丈夫なのか、とたじろいでしまったわ。

 もちろん勇気ある素晴らしい行動で、銃が不発だったことに救われたことなどまさしく運命的なものに突き動かされてのことだった……と後から振り返りたくなる気持ちもわかるが、突撃の直前「ゴー! スペンサー!」とかかる声とか、ちょっと恐怖を覚えたね。あれは誰が言ったのか、映画ではちょっとわからなかったのだが、やっぱり神の声なのか?
 全然テイストは違うんだけど、軍人をネタにすると『ハクソー・リッジ』にも似てくるところだな。たまたま上手くいったから良かったものの、フィクションならあそこで額を撃ち抜かれる人の話になるだろうか。

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 ラストシーンのオランド大統領のシーンも、実際のニュース映像と役者の後ろ頭だけを交互に映す珍妙さにちょっと笑ってしまったよ。不可思議な味わいの珍作でありました。

”この戦いに愛などいらない”『悪女』


映画『悪女/AKUJO』予告編

 チョン・ビョンギョル監督作!

 犯罪組織の暗殺者スクヒは、師であり夫でもあったジュンサンを殺され、敵対組織に復讐する。戦いを終え、情報局の手に落ちた彼女は、そこで新たな訓練を受けて国家の諜報員となることに。ジュンサンの残した娘とともに新たな生活を始めたスクヒに、再び残酷な運命が迫る……。

 前作『殺人の告白』は相当ギャグも入ってる大娯楽作だったので、次回作も楽しみにしておったところ。さらに主演は『渇き』のキム・オクビンで、超絶アクション連発だそうで、こりゃもう期待しかないな、という代物ですよ。
 お話は『ニキータ』でカメラワークは『ハードコア』で……ということで、そのパッチワーク感に不安もないではないが、さてどうかな……?

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 ヒロインは映画が始まった時点で超絶的なアクションを披露するのだが、かなり時系列をいじっていて実際の話の経過の中では中盤ぐらいなのな。
 まず犯罪組織に加わって、そこで超絶戦闘力を身につけ組織の男と恋に落ちるまでが前半としてあり、その後、男の死をきっかけに死闘を経て負傷、情報局に拾われて整形し、新たな顔でスパイに勤しむようになる。二段階の訓練を経ているわけで、裏稼業から国家の犬へと華麗なる転身を遂げているのだな。なに、その波乱万丈の人生、という感じだが、時系列をいじくって前後させているので、よくよく考えるとややこしい設定なのも、何がなんだかわからんうちに段々と染み入ってくる感じ。
 ただ、この時系列いじりがマイナスになっている面もあり、例えば冒頭のアクションも「愛する男を失った怒りが爆発した」シーンなのだが、その背景はあとからわかることなのでエモーションは爆発しないのである。

 正直、狙ってか狙ってないのかよくわからんが、背景がよくわからないままアクションシーンに突入するので、逆にカメラワークとか役者の位置関係にやたらと注目してしまったよ。冒頭の主観視点のカメラから、第三者視点に移行するあたりの切り替えは出色の出来で、度肝を抜かれましたね。

 目的はよくわかっていないまま命令だけを遂行する主人公なので、後のアクションシーンでも背景がわからんまま、急に日本刀持った敵にバイクで追われたりする。そもそも敵の背景がわからないから、まあこういうこともあるかもしれないな……と流すしかない。
 まず撮りたいアクションがあって、そこを実現するためにリアリティラインを下げ、設定をぼかし展開を錯綜させて成立させているような感あり。

 そんなこんなで若干乗り切れないまま展開するのだが、全然報われない薄幸キャラの主人公が、ささやかな希望さえ持ち続けられず翻弄され、ただひたすらに牙を剥くしかない展開はビジュアルも相まって美しささえあるのは間違いない。韓国映画おなじみのバイオレンスと甘ったるさを煮詰めて、社会性を付与しないとこうなるのか、という印象。

 『殺人の告白』のボウガン女ことチョ・ウンジさんの再登板は嬉しかったですね。もうちょっとおいしい役かと思ったが……。

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“火サスときどきウー”『マンハント』


映画『マンハント』本予告 2月9日(金)全国公開

 ジョン・ウー監督作!

 日本で巨大企業の顧問弁護士を務めたチウ。だが、退職の夜、目を覚ますと隣には女の死体があった。身に覚えのない殺人の容疑で追われるチウに、大阪の敏腕刑事・矢村が迫る。だが、追走劇を繰り返す中、二人の間には奇妙な信頼が芽生え始め……。

 中国で撮った新作が結局公開されないまま、日本ではまさかの『レッド・クリフ』以来の公開作となりました。西村寿行『君よ、憤怒の河を渡れ』の二回目の映画化、一回目の映画化のリメイクということになる。舞台は当然日本で、追われる弁護士役にチャン・ハンユー、追う刑事役に福山雅治……。
 主人公チャン・ハンユーさんは、國村隼社長の日本企業に雇われている弁護士。数々の訴訟に勝った上で円満退職するはずが、色々と知っては行けないことを知っているために、社長秘書のTAOさん(ウルヴァリンと寝た女だ!)に誘惑される。が、パーティーを抜けて家に帰ったら急に殴られて昏倒、目覚めたら彼女の死体が……。逮捕されてしまうのかと思いきや、黒幕とグルの警察は彼が逃げるように仕向け、混乱に乗じて始末しようとしてくる。さらに、二人組の女の殺し屋も襲ってきて、大ピンチ。一方、ゲスト出演の爆破犯斎藤工を捕まえたばかりの福山雅治腕利き刑事もハンユーさんを追い始めるが、こちらはこちらで事件に腑に落ちないものを抱き始める。

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 國村隼が如何にも悪っぽい顔をしていて、その息子池内博之がこれまた如何にも小物っぽいバカな2代目感を全開にした演技している時点で、まあだいたいこういう話か、というのはわかってしまうのだが、この日本企業の世襲は『ウルヴァリン SAMURAI』でもネタになっていたな。
 ずーっと火サスで見たようなしようもない痴情のもつれみたいな話をベースに、我が地元大阪を逃げ回るチャン・ハンユー、追う福山&殺し屋、そこをジョン・ウーの決め絵バチバチのアクションが繋いでいく。
 「平和の象徴」である白い鳩が飛ぶことで、ハンユーさんと福山が互いを傷つけ合わずに済むアクションの素晴らしさと、おなじみ二丁拳銃と銃撃戦のリズム感はやっぱり最高で、ああ……やっぱりジョン・ウーはいいですね……と思った。狙いをつけてパン、狙いをつけてパン、じゃなくて、狙い直さずパンパンパンと連射するリズム、若干下向きの銃口……全てがフェティッシュだ。五億点! が、浸り切るにはこのしょうもないお話が邪魔すぎるな……。さらに福山の相方になる新米女刑事の安いドラマみたいなキャラと、福山くんとの寒いやりとりに辟易。ああ……五億点がどんどん下がって二億点を切ってしまいそうだ。

 地元民的には突っ込みどころありつつ大阪最高!で、新名所ハルカスから最寄り近鉄電車、さらに中之島大追走劇で大満足。中之島を逃れたハンユーさんがJR大阪駅までワープし、追っかけてた福山くんがまだ城ホール付近をうろうろして全然見つけられない途方にくれた感もありえなくて最高でしたね。

 アクションも組み立て自体はいいし、この大阪ロケまでは迫力あったのだが、後半の高原の山荘と、クライマックスの工場のセットがあまりに安っぽすぎてこれまたがっくり。いかにも「アクションシーンで壊すため」に組み上げたような質感のなさで、福山くんがうっかり突っ込んでも大丈夫なように出来ているのだろう……。

 一応、製薬会社なので秘密のおクスリを作っているのだが、人間を凶暴化させ殺人マシンに変える薬で兵士にできる、という設定はもはや中学生レベルの発想だ……。それを打たれた倉田保昭さんが凶暴化しつつ得意の空手を使うあたり爆笑で、その後打たれたハンユーさんも意思の力で克服してしまう適当さもすごい。
 クレジット見たら脚本家が6人もいたので、いったい誰が戦犯だ……? バラバラに書かせていいとこ取りしてパッチワークしようとしたら、グダグダになったということなのかもしれんね。

 フィルムで、埃っぽい工場で撮ればクライマックスも少しは雰囲気出てたかもしれないな……。ジョン・ウー自体はもう「上がった」人なんで、あとは延々自己模倣やっといてくれたらそれで充分なんだけど、日本で撮るのはもういいんじゃないかな……。殺し屋役の監督の娘さんは固太りした体型なのにキレッキレで、相方のハ・ジウォンもスマートでしたね。総じてアクションシーンは良かったと思うが、大作かと思いきや思いのほか金がかかってなかったのかもしれない。一億七千万点ぐらいに留まる困った映画でありました。