“火サスときどきウー”『マンハント』


映画『マンハント』本予告 2月9日(金)全国公開

 ジョン・ウー監督作!

 日本で巨大企業の顧問弁護士を務めたチウ。だが、退職の夜、目を覚ますと隣には女の死体があった。身に覚えのない殺人の容疑で追われるチウに、大阪の敏腕刑事・矢村が迫る。だが、追走劇を繰り返す中、二人の間には奇妙な信頼が芽生え始め……。

 中国で撮った新作が結局公開されないまま、日本ではまさかの『レッド・クリフ』以来の公開作となりました。西村寿行『君よ、憤怒の河を渡れ』の二回目の映画化、一回目の映画化のリメイクということになる。舞台は当然日本で、追われる弁護士役にチャン・ハンユー、追う刑事役に福山雅治……。
 主人公チャン・ハンユーさんは、國村隼社長の日本企業に雇われている弁護士。数々の訴訟に勝った上で円満退職するはずが、色々と知っては行けないことを知っているために、社長秘書のTAOさん(ウルヴァリンと寝た女だ!)に誘惑される。が、パーティーを抜けて家に帰ったら急に殴られて昏倒、目覚めたら彼女の死体が……。逮捕されてしまうのかと思いきや、黒幕とグルの警察は彼が逃げるように仕向け、混乱に乗じて始末しようとしてくる。さらに、二人組の女の殺し屋も襲ってきて、大ピンチ。一方、ゲスト出演の爆破犯斎藤工を捕まえたばかりの福山雅治腕利き刑事もハンユーさんを追い始めるが、こちらはこちらで事件に腑に落ちないものを抱き始める。

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 國村隼が如何にも悪っぽい顔をしていて、その息子池内博之がこれまた如何にも小物っぽいバカな2代目感を全開にした演技している時点で、まあだいたいこういう話か、というのはわかってしまうのだが、この日本企業の世襲は『ウルヴァリン SAMURAI』でもネタになっていたな。
 ずーっと火サスで見たようなしようもない痴情のもつれみたいな話をベースに、我が地元大阪を逃げ回るチャン・ハンユー、追う福山&殺し屋、そこをジョン・ウーの決め絵バチバチのアクションが繋いでいく。
 「平和の象徴」である白い鳩が飛ぶことで、ハンユーさんと福山が互いを傷つけ合わずに済むアクションの素晴らしさと、おなじみ二丁拳銃と銃撃戦のリズム感はやっぱり最高で、ああ……やっぱりジョン・ウーはいいですね……と思った。狙いをつけてパン、狙いをつけてパン、じゃなくて、狙い直さずパンパンパンと連射するリズム、若干下向きの銃口……全てがフェティッシュだ。五億点! が、浸り切るにはこのしょうもないお話が邪魔すぎるな……。さらに福山の相方になる新米女刑事の安いドラマみたいなキャラと、福山くんとの寒いやりとりに辟易。ああ……五億点がどんどん下がって二億点を切ってしまいそうだ。

 地元民的には突っ込みどころありつつ大阪最高!で、新名所ハルカスから最寄り近鉄電車、さらに中之島大追走劇で大満足。中之島を逃れたハンユーさんがJR大阪駅までワープし、追っかけてた福山くんがまだ城ホール付近をうろうろして全然見つけられない途方にくれた感もありえなくて最高でしたね。

 アクションも組み立て自体はいいし、この大阪ロケまでは迫力あったのだが、後半の高原の山荘と、クライマックスの工場のセットがあまりに安っぽすぎてこれまたがっくり。いかにも「アクションシーンで壊すため」に組み上げたような質感のなさで、福山くんがうっかり突っ込んでも大丈夫なように出来ているのだろう……。

 一応、製薬会社なので秘密のおクスリを作っているのだが、人間を凶暴化させ殺人マシンに変える薬で兵士にできる、という設定はもはや中学生レベルの発想だ……。それを打たれた倉田保昭さんが凶暴化しつつ得意の空手を使うあたり爆笑で、その後打たれたハンユーさんも意思の力で克服してしまう適当さもすごい。
 クレジット見たら脚本家が6人もいたので、いったい誰が戦犯だ……? バラバラに書かせていいとこ取りしてパッチワークしようとしたら、グダグダになったということなのかもしれんね。

 フィルムで、埃っぽい工場で撮ればクライマックスも少しは雰囲気出てたかもしれないな……。ジョン・ウー自体はもう「上がった」人なんで、あとは延々自己模倣やっといてくれたらそれで充分なんだけど、日本で撮るのはもういいんじゃないかな……。殺し屋役の監督の娘さんは固太りした体型なのにキレッキレで、相方のハ・ジウォンもスマートでしたね。総じてアクションシーンは良かったと思うが、大作かと思いきや思いのほか金がかかってなかったのかもしれない。一億七千万点ぐらいに留まる困った映画でありました。