”この戦いに愛などいらない”『悪女』


映画『悪女/AKUJO』予告編

 チョン・ビョンギョル監督作!

 犯罪組織の暗殺者スクヒは、師であり夫でもあったジュンサンを殺され、敵対組織に復讐する。戦いを終え、情報局の手に落ちた彼女は、そこで新たな訓練を受けて国家の諜報員となることに。ジュンサンの残した娘とともに新たな生活を始めたスクヒに、再び残酷な運命が迫る……。

 前作『殺人の告白』は相当ギャグも入ってる大娯楽作だったので、次回作も楽しみにしておったところ。さらに主演は『渇き』のキム・オクビンで、超絶アクション連発だそうで、こりゃもう期待しかないな、という代物ですよ。
 お話は『ニキータ』でカメラワークは『ハードコア』で……ということで、そのパッチワーク感に不安もないではないが、さてどうかな……?

chateaudif.hatenadiary.com
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 ヒロインは映画が始まった時点で超絶的なアクションを披露するのだが、かなり時系列をいじっていて実際の話の経過の中では中盤ぐらいなのな。
 まず犯罪組織に加わって、そこで超絶戦闘力を身につけ組織の男と恋に落ちるまでが前半としてあり、その後、男の死をきっかけに死闘を経て負傷、情報局に拾われて整形し、新たな顔でスパイに勤しむようになる。二段階の訓練を経ているわけで、裏稼業から国家の犬へと華麗なる転身を遂げているのだな。なに、その波乱万丈の人生、という感じだが、時系列をいじくって前後させているので、よくよく考えるとややこしい設定なのも、何がなんだかわからんうちに段々と染み入ってくる感じ。
 ただ、この時系列いじりがマイナスになっている面もあり、例えば冒頭のアクションも「愛する男を失った怒りが爆発した」シーンなのだが、その背景はあとからわかることなのでエモーションは爆発しないのである。

 正直、狙ってか狙ってないのかよくわからんが、背景がよくわからないままアクションシーンに突入するので、逆にカメラワークとか役者の位置関係にやたらと注目してしまったよ。冒頭の主観視点のカメラから、第三者視点に移行するあたりの切り替えは出色の出来で、度肝を抜かれましたね。

 目的はよくわかっていないまま命令だけを遂行する主人公なので、後のアクションシーンでも背景がわからんまま、急に日本刀持った敵にバイクで追われたりする。そもそも敵の背景がわからないから、まあこういうこともあるかもしれないな……と流すしかない。
 まず撮りたいアクションがあって、そこを実現するためにリアリティラインを下げ、設定をぼかし展開を錯綜させて成立させているような感あり。

 そんなこんなで若干乗り切れないまま展開するのだが、全然報われない薄幸キャラの主人公が、ささやかな希望さえ持ち続けられず翻弄され、ただひたすらに牙を剥くしかない展開はビジュアルも相まって美しささえあるのは間違いない。韓国映画おなじみのバイオレンスと甘ったるさを煮詰めて、社会性を付与しないとこうなるのか、という印象。

 『殺人の告白』のボウガン女ことチョ・ウンジさんの再登板は嬉しかったですね。もうちょっとおいしい役かと思ったが……。

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