"甦るクズリの爪"『ウルヴァリン SAMURAI』


 『X-MEN』シリーズからのスピンオフ第二弾。トータルではもう六作目か……。


 1945年、長崎。原爆投下の日、ウルヴァリンは青年将校矢志田の命を救った。それから数十年後、ジーン・グレイを手にかけた後、カナダで密かに暮らしていたウルヴァリンのもとに、今や巨大企業のトップである矢志田からの使者がやってくる。旧友との再会のため、日本へとやってくるウルヴァリン。矢志田は、会社を息子のシンゲンではなく孫のマリコに託すことを決め、今や瀕死の床にあった……。


 長期間の日本ロケが話題になっていた今作。メインの女性キャスト二人は主にアメリカで活躍するモデルということだそうで、やっぱり日本語よりも英語力重視で選ばれたキャストなんですな。忍者役の人は明らかにネイティブの発音ではなかったが、この二人は日本語のシーンもほぼ問題なし。くノ一役の福島リラはテコンドーか何かやっていたそうで、もう最近見かけなくなったデヴォン青木の後継者になれそうなぐらい動いておったね。


 そして、我らが真田広之も登場。しかし……なんだろう、首がない……。いや、まだまだ動きも切れているし、老けたという感じはなかったのだが、やっぱり年のせいなのか、首が縮んでなくなってしまっていたよ。おかげでスーツが死ぬほど似合わない! さらに娘マリコ役のTAOさんがモデルだから背が高すぎて、喋るシーンもビンタするところも全部見上げているから余計に目立った。さらにさらに今回は悪役としても三番手ぐらいなので、必然的にものすごい小物ポジション。名前が「シンゲン」なのはいいですが、「わしを誰だと思っている!」みたいな台詞が本当にあるんだよな……。これは戦国武将じゃなくて悪代官クラスのイメージですな。まあしかし、この何か哀愁の漂う悪役を演じ切ったプロ意識は素晴らしい!ということでまとめておきたいものです。


 そんな日本人キャストに囲まれて、「イタダキマス」「サヨナラ」など迷言を連発しながら、ウルヴァリンが日本を疾走する! 秋葉原から上野駅へ向かいながらヒロイン・マリコを守ってヤクザの追跡をかわし、台湾の新幹線に乗って長崎を目指す!(あれ?) ラブホで異国情緒と言うか異星情緒に触れ、長崎に着いたら和食をいただき、ついでにマリコさんもいただきました。最初は汚いとか言われて毛嫌いされてたのに、ウルヴァリンもてもて! 「クズリ」と和訳で呼ばれるのもなかなか味があってよい。ヒュー・ジャックマンは撮影前に筋トレして、筋肉に血管を浮かせてから臨むそうで、やっぱりこの自身の代表的キャラクターを演じ続けるのに、並々ならぬ努力をしているのだなあ、ということがよくわかる。


 フィルモグラフィーを見たらあまりの雑多ぶりに目眩を起こしそうになるものの、なぜかどれも面白いジェームズ・マンゴールド、今回も外れなしの完成度で、伏線もスムーズに回収しつつ、無駄なjapan愛を発揮して盛り上げまくる。
 オープニングの長崎の「セップク」シーンとか、簡単に鎖を両断する日本刀とか、屋根に座って存在バレバレな忍者など、ところどころおかしいんだけど、まあ屋内に鳥居があったり女体盛りとかしてないから無問題ですよ。珍な香りが立つギリギリで踏みとどまっている感じ。
 近年、予告でクライマックスまで見せる嫌がらせのような宣伝が目についたが、今作はきっちり温存していた……というか、見せ場がてんこ盛り過ぎて全部出す必要もなかったということですな。


 しかしサブタイトルに「SAMURAI」とか何とか付けておきながら、作り手が一切武士道とか何とか信じてないあたりが清々しくていいですね! て言うか、日本人がダメ過ぎる! 冒頭の切腹してた軍人たちの勘違いっぷりこそがださくて、ヤシダさんは俺は商売人だ!と言わんばかりに企業人として頑張ってきていたわけですが、そんな父を見て育った息子シンゲンが剣の腕こそ立つけれど、偉そうで欲深い全然ダメな人になってしまった。そしてそんな息子を苦々しく思っていたヤシダ老人もまた、かつて見たサムライ的な存在であるクズリに理想を見出しながら、その精神性ではなく不死性に引っ張られてしまった、ということ……。君臨するシルバー・サムライの威容と、それと裏腹な虚構性、空虚さがすべてを象徴しているね。そして、残ったのは女たちだけ。


 それに対してウルヴァリンが、ヤシダと全く対照的な不死の存在として死を望みつつもそれを振り払い、その象徴たるアダマンチウムの爪を折られてなお戦おうとし、それに応えるかのようにかつて失われたはずだったオリジナルの爪が甦っているという展開は熱いね!


 エンディングのおまけも含めて堪能したなあ。相変わらずサイクロップスをなかったことにしてるジーンことファムケ・ヤンセンも良かったですよ。今年もアメコミネタ映画、何本かあったけど、一番面白かったな。