”ヘイ、ブラザー! ヨオ、メン!”『ゲット・アウト』


『ゲット・アウト』予告編/シネマトクラス

 スリラー映画!

 アフリカ系アメリカ人の写真家クリスは、白人の彼女ローズに招かれ、彼女の実家を訪ねることに。両親が自分が黒人と知らないと聞き、気詰まりなものを覚えるクリス。不安と裏腹に、両親には歓待を受けるのだが、不可思議な違和感がつきまとう。深夜、眠れずに起き出したクリスは、不可解な行動をする黒人の使用人達を目撃した直後、ローズの母に催眠療法を持ちかけられ……。

 とにかく前情報入れずに見たほうがいいと言われていた映画。冒頭、黒人青年が何者かに誘拐されるところから始まるので、主人公がこれから不穏な目に合うのだけはわかる……というところから始まり始まり。白人のガールフレンドの生家に招待されて行くことになったが、ご両親は娘の彼氏が黒人とは知らない!という。
 まあ避けては通れないこととはいえ、実に気詰まりですね。父親は「オバマ支持者」だそうで、そりゃあ共和党支持、トランプ支持と言われるよりはましだが、そういう問題でもないような気がするしな。
行く途中で鹿をはね、白人警官のパトカーによる現場検証。ここでIDを要求されたりして、実に感じが悪い。ここは先だっての『ドリーム』とそっくりで、あれから何十年も経ってるけど黒人は未だに同じような疑いを持たれるのだ……。

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 かなり隅々まで伏線が張り巡らされていて、この序盤のシーンも後々全部拾ってくるんだが、「彼女の実家に行く」という嫌な緊張感が最初からあるせいで、まだ何も起こってないうちから全然気が抜けない。さあ行った先の両親の感じは、少々上滑り気味だが、家で雇われている使用人の黒人男女がどうもおかしい。何が、というと説明できないのだが、ステレオタイプな使用人感が嫌、というのともまた違う。役者の演技も最高!
 さらにパーティが催され、大勢の白人がやってくるのだが、彼らの目になにか奇妙な期待が感じられ、大変居心地の悪い思いをすることに……。
 パーティに来てる唯一の黒人に主人公が声をかけるあたりで、もろにそのギャップが出る。単に見た目の問題じゃなくて、文化を共有している相手がいるか、「ヘイ、ブラザー!」と声をかけあえる相手か、というのはかくも重要なのだが、それがまた思わぬ形で裏切られることに……。ここでタイトルの「ゲット・アウト」が台詞として登場するが、真相がわかってみるといくつもの意味が含まれているんですね。

 オチがわかった後で振り返るとわかるのだが、確かに今作に登場する白人たちには、「黒人」への生理的嫌悪や、強烈な忌避感は持っていないし、表向きにはそういう扱いもしない。ある種のリスペクトさえある……。ただ、そのリスペクトは、健康であったり優れた運動能力を持っていたりするという、「性能」に対するものなのだな。彼ら個人個人の「人格」であるとか、総体としての「文化」にはまったく興味がない。それは、かつて黒人を奴隷として扱い、優劣を決め値段をつけた『マンディンゴ』や『ジャンゴ』の時代と、実はさほど変わらぬ思想なのかもしれない。

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 主人公の留守中に犬の世話を頼まれてる親友、空港警察勤めのノリの軽い男がやたらと面白くてギャグパートを引き受けてるのだが、嫌な緊迫感の続く今作において一服の清涼剤的存在になっている。一応、話のつなぎとして必ず入れておかないといけない、警察に通報するけれどすげなくされる、というまったく面白くない儀式としての展開を面白くしちゃうのがセンスだな。今年は『人魚姫』でもあったね。黒人が黒人刑事に訴えてるのに、話の内容が荒唐無稽すぎて全然受け入れられない、という悲しさ……。「性奴隷」というパワーワードが素晴らしいが、真相はもちろん違うのだけれど、前述の『マンディンゴ』を思い返せば決して遠くはない。
 主人公の反撃する展開でも、その頭の良さや機転が描かれていて、ある意味「性能」リスペクトは正しかったということが裏付けられますね。ところでケイレブ・ランドリー・ジョーンズも出ていて、「MMAについてどう思う?」みたいなことを言うのでちょっと期待したが、格闘シーンはあまりマニアックではありませんでした。

 似た作品もないではないのだが、そのタイトル出すだけでもネタバレになってしまうので、この場では伏せておこう。とにかく予備知識なしで初見に臨んでほしい映画。今年は『ドリーム』とこれが二大黒人差別ネタ映画になりましたね。

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