”この世界で生きる”『ブレードランナー2049』(ネタバレ)


映画『ブレードランナー 2049』予告2

 ドゥニ・ヴィルヌーブ監督作!

 2049年、新型レプリカントによって新たな秩序が生み出された世界。人類に反抗する可能性のある旧型を処理する「ブレードランナー」であるKは、捜査の最中、あるありえない事象に行き当たる。人類、そしてレプリカントの根幹を揺るがす謎を追うKだったが……。

 まさかこの時代に続編が作られるとはな……ということで、予習してから鑑賞してきました。前作『ファイナル・カット』が劇場公開したのでチェック。劇場公開版は以前に見てたかな……。ラストを踏まえつつ新作!

 『SW EP7』ばりにいきなり冒頭のモノローグが重要で、読み飛ばすと大変なことになる。タイレル社はすでになく、後から出てくるジャレッド・レトの会社が新レプリカントと人工食料の供給で世界を牛耳る。レプリカントは反乱を起こしたレイチェルと同型の教訓を生かし、今現在普及している新型は従順に設計されている……。
 今作では「寿命が数年」という話は解決済みということで綺麗になくなっています。いや、あれはわざと寿命短めに設定してたのではなかったのか。やっぱり労働力や兵力は長持ちする方が良かったということか。前作の肝の部分がいきなりすっ飛び、実はレイチェルは寿命長かったんだ、という劇場公開版の後付け設定が公式化。

 某映画サイトが事前情報でいきなり「レプリカントに子供が生まれる」とネタバレしてたが、このネタは割と早めに出てくる。父はデッカード、母はレイチェル……。
 うーん、スピルバーグの奴が全部悪いんだけど、もうハリソン・フォードのキャラに子供出すのはやめてくれんかな……。『インディ』『スター・ウォーズ』に続き、ハリソンの旧作が復活したと思ったら毎回のようにガキが出てくる。正直、うんざりである。他に話は作れないのか……?

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 今作では「ブレードランナー」もレプリカントのお役目になっていて、ライアン・ゴズリングはしっかりレプリカント役。彼のスマートだが中身がなく見える個性にはハマっていて、仕事には忠実だが私生活と人格は空っぽ、暇な時間はAIの女の子と遊んでいるという悲しさ……。AI「ジョイ」役はアナ・デ・アルマス、『ノック・ノック』でキアヌを散々な目に合わせた女である。お部屋のプロジェクターでのみ映像出力されていたのが、中盤からは持ち出しOKになっていて、ブレードランナーの捜査情報なども見まくっている。いいのか、AIだから……。

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 中盤以降は自らがデッカードの息子なのかと考え始めたゴズリンの葛藤が中心になり、えっ、この人が父親なの……?と考えながらどつき合う展開に。最終的に「実は違いました」ということになるので、そこはちょっとひねってはいるのだが、どうもこのあたりの陳腐さがつらい。『ブレードランナー』っぽさを追求するなら、それは美術や設定にとどめ、もうデッカードやレイチェルは名前だけチラッと出ればそれで良かったんじゃないのかな。まあファンサービスと集客のためには、ハリソン・フォードが出ないと話にならんのだろうが……。

 クライマックスも妙にスケールの小さい、溺れるか否かの対決になって正直全く面白くない。ドゥニヌーブは生身のアクションに興味がないんだろうな、と思うぐらいわざとらしい回し蹴りが連発され、まるで十年ぐらい前の映画のファイトシーンだ。
 ここがあまりにつまらなかったので、やっぱり復活したジョイちゃんをオペレーターにして、デッカードの犬を引き連れて本社に乗り込んで社長と対決するみたいな展開が欲しかったな……。

 ビジュアルも旧作フォロワーの最大公約数といった趣で、それっぽいと言えばそれっぽい。数々の表現がフォロワーを生んだ中で、タイレル社の巨大社屋だけはバカバカし過ぎて淘汰されたな……と思っていたが、今作だけはきっちり継承したのも良かった。ただエルビスのくだりなど少々くどいし、「っぽさ」に腐心し過ぎという気もする。
 そこにハリソン・フォードを投入することで、確かに『ブレードランナー』っぽさは強化されるが、こういうものが観たかったかというとそうではなかったし、そもそも続編を観たかったのかと言われると……。

 しかし、こう書くといかにもつまらない長ったらしい映画のようだが、観ていて不思議と気持ちよく、ゴズリンがボンヤリした顔してジョイちゃんとアイコンタクトしてるあたりをぼんやり眺めているだけで五時間ぐらいいけそうな感覚もあり。ハンス・ジマーがボヨーン、ゴーンと大音響かき鳴らし、ドヒューンと車が飛んで……ああいい気持ち……。メリハリのなさが逆に良くて、環境映像(ただしディストピア版)に浸っているような……。

 ドゥニヌーブ作品としてはまったくもっていつもの彼の映画だな、と感じた部分もあり。「仕掛け」の作家としては話が陳腐過ぎて後退しているが、『灼熱の魂』『プリズナーズ』『ボーダーライン』『メッセージ』から連綿と受け継がれた、この世界はあまりに大きく広く、運命は時に残酷で、システムは強固で、我々はその中で無力であり何一つ動かせないという世界観に確実に通じる。されど、人も、AIも、レプリカントも何かを信じて生きるのだ、という展開をもって、ようやく旧作とは違うドゥニ版『ブレードランナー』に成り得たかな、と言う気がする。それだったらなおさら、ストーリーを妙に引き継がない外伝的映画にしてくれてたら良かったのになあ……。

”バベルの塔”『スカイ・オン・ファイア』


映画『スカイ・オン・ファイア~奪われたiPS細胞~』予告編

 のむコレ第二弾!

 密かに開発が進められていたスーパー幹細胞が、トラックでの輸送中に奪取された。かつて妻をガンで亡くし、医療の発展を少しでも助けようとその警備主任となっていたティンボは、トラックを奪回しようとするが、事態は思わぬ方向に……。

 のむコレ企画で中国映画が三本まとめて公開され、これを二本目に見た。主演はダニエル・ウー、『GF*BF』のジョセフ・チャン。

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 がん患者への再生医療を軸にした医療サスペンス……ということなのだが、監督・脚本のリンゴ・ラムがカーチェイスに銃撃戦をガンガン入れるため、ものすごい勢いでリアリティ・ラインが下がっていく。登場人物に誰一人頭のいい人がおらず、全員が無計画にその場の思いつきで行動するために、話が混沌に包まれ、盛り上げるために犬や人が死にまくる!

 そんな中で、いつもの何かが取り憑いたような顔をしているダニエル・ウーが、その調子で全員を睨みつけて憤懣を溜め込んでいく。ガンで妻を亡くした警備員だったが、ips細胞の研究所の火災から医者を助けたことで、その細胞の研究をしている巨大ビルの警備につくようになり、先進医療をバックアップしようとする。しかし、巨大ビルは利権まみれで、人の命を救うはずの幹細胞医療は金儲けの道具にされようとしていた……。

 振り返ってみるとダニエル・ウー絡みのメインの筋はわりと単純なのだが、ここにジョセフ・チャンとそのガンになっている妹が絡んできて、さらに火災で死んだ博士の息子が三角関係になる。実は二人は兄妹ではなかった……。
 香港映画らしく設定が足し算足し算で盛られて行って、さらにアクションも爆発も人死も恋愛も足されていく。こういう作劇をすることの欠点は、登場人物自身やその行動が、単に話をややこしくするための存在に見えて、自然とその世界に存在しているように見えなくなってしまうことなのだな。
 後半でジョセフ・チャンが妹と共に故郷に帰ると、急に話がすっきりしてホッとするのである。で、そうなると今度はダニエル・ウーの怨念を止める者が誰もいなくなって、ちょっとやりすぎじゃね?という大爆発が起こるのである。確かにスカイがオン・ファイアしてたわ……。

 まあこの大雑把さが、いかにも香港映画という感じだわなあ。しかし、正直、中華映画祭りのクオリティにもちょっと届かない感じで、中国映画版「未体験ゾーンの映画たち」を観たような印象。次回にものむコレがあるなら、これは最低ラインということになるかな……。

”燃えてきた、フツフツと……”『女神の見えざる手』


映画『女神の見えざる手』予告編

 ジェシカ・チャスティン主演作。

 大手ロビー会社で剛腕を振るう花形ロビイスト、エリザベス・スローン。天才的な戦略家である彼女だったが、銃規制反対キャンペーンの仕事を断り、規制派の小さな会社へと移籍。利権と莫大な財力を敵に回し、スローンは一世一代の大勝負を仕掛ける……。

 最近はもう乗りに乗っている感のあるジェシカ・チャスティン。この人も『ヘルプ』までは埋もれてたんだよな。今回はカリスマ的ロビイスト役。勝つことが全てで、少々悪どい手も辞さない豪腕ぶり。原題は『ミス・スローン』だからこの主人公の名前ですね。

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 今や選挙にせよ政策を通すにせよ、全てはイメージイメージイメージであり、実績や実効性など問題にならないぐらいにどういう印象を持たれるかこそが重要であり、その鍵を握るのがロビー活動でありロビイストである。
 で、今までもえげつない手法で数々のロビー活動を手がけ勝たせてきたミス・スローンに、所属する企業ごと持ちかけられたのが、銃規制反対のキャンペーン。規制賛成派に女性が多いので、銃に「優しい」イメージを持たせて法案を通そうという無理筋なものなのだが、資金は潤沢だし、勝利こそが至上である彼女なら当然受けてくれるだろう……と思いきや、いきなり「なめんじゃないわよ」と来たから実に痛快である。金積めばなんでもやると思ったか、見くびられたもんだな、バカヤロー! と啖呵を切って仕事を蹴り飛ばしたところで、接触してくるマーク・ストロング。銃規制キャンペーンの方を手がける会社の社長で、ミス・スローンを引き抜きに……。資金じゃ完全に負けてて普通にやったら勝ち目ないけど、どう?と言われて、ブチギレたばっかりの常勝ロビイストの闘志に火がついた……!

 早速自分のチームから希望者をごっそり引き抜き(ここでついて行く人はなぜかみんなナードっぽい)、半数が移籍。腹心のアリソン・ピルには裏切られたものの、新たなメンバーも加わってロビー活動開始!

 投票権を持ってる政治家を味方につける、キャンペーンに賛同させるのが主な目的だが、逆境にあることを水を得た魚のように感じるミス・スローンは、切れ味鋭い弁舌と、非合法スレスレの手段で賛同者を増やしていく……。いや、スレスレとは言いましたが、完全にアウトな盗聴までやろうとしてて、マーク・ストロング社長に慌てて止められる。いやいや、確かに勝てと言ったけど、そこまでやれとは言ってないし……。が、後々チーム内に裏切り者が出たのだが、それを発見できた理由は全員盗聴させてたからだ、と言われてはもう二の句が告げないのである。

 ただミス・スローンも完全無欠なキャラクターではなく、睡眠時間を削るために薬物を服用し、たまに男娼を呼び出しては息抜きをするなど、ちょいちょい隙もある人物として描かれている。結構イラチやしな……。冒頭は彼女が公聴会で散々挑発を受けているところから始まるので、そういうところを突かれたのか?と想像するところ。
 チームのメンバーに、銃によって家族を失った女性がいて、その彼女の隠していた過去を不意打ちで晒し、旗印にして運動を盛り上げるあたりは実にどぎつく、プライバシーに続き倫理の問題にも踏み込む一手。だが、その優勢も束の間、その彼女が規制反対派に襲われ、銃を持った警備員に助けられたことで再び潮目は変わっていく……。

 めまぐるしい情勢の変化の中で、時に葛藤を抱えながらもそれをねじ伏せ目的のために邁進する姿は、『コードギアス』的なピカレスクロマンに近く、キャラクターとしても悪役ギリギリ。だがこれこそが、もはや良心が死に絶えた銃社会に立ち向かう必要悪であり、ハードボイルドも任侠も廃れ、綺麗事にも共感できない複雑化した現代ならではのヒーロー像なのかもしれないですね。ラストのケジメの取り方含め……。

 ヨーロッパコープらしからぬ、切れのあるスマートな映画なのだが、一方で「悪党をズバッと凹ましてやったぜ!」という厨二感もしっかりと残っていてカタルシスをキープ。まあ実話ではないので、これぐらいのフィクション性は当然あってよしですね。

 『メン・イン・キャット』もまあまあ面白かったし(ケビン・スペイシーと共に葬られそうだけど)、ヨーロッパコープも息を吹き返してきたんじゃないかなあ。まあ『ヴァレリアン』が大コケして倒産危機だそうですが……。

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“その旗を掲げよ”『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』


戦狼/ウルフ・オブ・ウォー - 映画予告編

 のむコレ第一弾!

 特殊部隊「戦狼」の元隊員レンは、任務中に行方不明となった恋人の仇を探し求め、アフリカを旅していた。だが、内戦の勃発により現地在住者が危機に陥ったことで、同胞を助けるべく戦いに再び身を投ずる。

 中国で馬鹿当たりしたウー・ジン監督・主演作。ウー・ジンはこれで中国本土でもスーパースターの仲間入りだそうですよ。最近、Netflixに加入して第1作を観ました。今作は続編なのよね。
 一作目は、命令違反して人質を守るために標的を射殺したスナイパーのウー・ジンが、ユー・ナン隊長率いる腕利きのはぐれ者ばかり集めた戦狼部隊に左遷され、そこで初陣を迎えるという話。模擬弾を使った演習中にスコット・アドキンス率いる傭兵部隊の急襲を受け、仲間を失いながらもこれを撃破し黒幕を捕らえたウー・ジンであった……。
 CGがちゃちかったり、ミリタリーマニアこそ喜びそうだがアクションシーンが地味だったり、正直パッとしない内容で、これの続編が大ヒットと言われてもにわかには信じがたい。

 さて、今作では戦狼部隊を抜けてアフリカにやってきているウー・ジンが……って初陣やったばかりなのにもう抜けてるのか! 死んだ仲間の遺族を追い払おうとする地上げ屋を蹴り殺したせいで除隊、服役していたが、その間に恋仲となっていたユー・ナン隊長がアフリカで任務中行方不明に。現場に残されていた螺旋の入った弾丸だけを頼りに、彼女の仇を探して各地を渡り歩いているという話。戦狼だったのは一戦だけだし、もうやめてるし、このタイトルでいいのか……?と思うのだが、「一度入れば、戦狼は死ぬまで戦狼だ」という強引な台詞がありますんで……。

 中国資本だが、舞台は完全にアフリカ。ところでオープニング前にやたらと製作会社のロゴがいくつも出てきて、まだ終わらんのか!と思っちゃったよ。すごいマネーが集まってるな……。
 アフリカ某国で内乱が起き、元上官と連絡を取ったウー・ジンも成り行きで在留する同胞たちを助けることに……その最中、現地の知り合いであるアフリカ人少年のお母さんを助けるのと、現地の反乱軍が狙う病原菌の鍵を握る少女を守るのを同時にやらないといけなくなる……。なかなかやることが多くて少々とっちらかった話なのだが、最終的に一箇所の工場に全員が集結してそこさえ守ればよくなるので無問題である。

 ミリタリー趣味は相変わらずなのだが、工場のロケーションが面白くて、その分ウー・ジンも様々に身体を張り、高いところに登ってワイヤーで吊られることに! 前作は単なる林で絵的に退屈だったのも響いたな。
 さらにサブキャラも、元軍人のおっさんにミリタリーマニアのボンボンという異色の取り合わせで、何となく同じような軍人がいるという状態からも脱却。守る相手も民間人に少女なので、非常にわかりやすいですね。
 工場はボンボンの父親の中国企業が所有していて、現地のアフリカ人も従業員として抱えているのだが、内戦が起きたので中国人のみ引き上げる、ということになる……。しかしウー・ジンが「全員で一緒に脱出だ!」とぶち上げ、ボンボンも男気を発揮しそれに追随。

 反乱軍は戦後の外交を考えて中国政府とはことを構えたくないので、中国人には手を出さないということになっている……はずなのだが、『キャプテン・アメリカ』のアクションチームと共に出張ってきたフランク・グリロが内乱の中でさらに反乱して軍を乗っ取り工場に襲ってくる。脱出を決意した従業員たちはその夜、工場敷地内で祭りを開いていて、そこにドローンの襲撃が……。えっ、なぜ祭り……というぐらい無防備に騒ぎすぎで、ミリタリーマニアが持ち込んだ武器を装備した警備兵も一応いるのだが、ドローンと傭兵には歯が立たずすぐにウー・ジンと元兵士のおっさんが孤軍奮闘することに!
 一回、完全に追い詰められて、もうこりゃ逆転しようがないんじゃというところからギリギリで助かる、という展開が何回かあるので、割合緊迫感がある。ウー・ジンは途中で病気にかかったりして新薬の人体実験されたりと、なかなか忙しいが、意地でも見せ場は人に渡さないのな。

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 工場は一回占拠されるんだが、ウー・ジンが単騎でカチコミをかけて奪還し、おっさんとボンボンと共に増援を迎え撃つ! しかしやっとの思いで壊滅させたと思ったら増援が倍、戦車3台沈めたと思ったら今度は5台と、全然敵が減らずまた追い詰められる……。ウー・ジンはほぼ無双状態なんだが、ちょっとずつダメージを受けて段々とピンチに。絶体絶命の彼は、同胞が撃たれるその光景をリアルタイムでスマホで通信! 近海の中国艦艇に全てを伝える……。映像を見て涙にくれる乗組員! ショックを受ける艦長は……ミサイルの発射を申請! 次々と戦車が吹っ飛び、大逆転!
 いやはや、アパッチが助けに来たり艦砲射撃が飛んできたりのアメリカ映画とほぼ同じことをやっていて、中国もここまで来たか、と思わせられた。さすがは大国様だな……。

 クライマックスはきっちりステゴロ対決で締め、次作に続く引きは『ワイスピ』オマージュかと思わせるところ。最後までてんこ盛りを貫いた娯楽大作で、一作目よりは遥かに面白くて満足ですね。もちろん続きます!

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”ヘイ、ブラザー! ヨオ、メン!”『ゲット・アウト』


『ゲット・アウト』予告編/シネマトクラス

 スリラー映画!

 アフリカ系アメリカ人の写真家クリスは、白人の彼女ローズに招かれ、彼女の実家を訪ねることに。両親が自分が黒人と知らないと聞き、気詰まりなものを覚えるクリス。不安と裏腹に、両親には歓待を受けるのだが、不可思議な違和感がつきまとう。深夜、眠れずに起き出したクリスは、不可解な行動をする黒人の使用人達を目撃した直後、ローズの母に催眠療法を持ちかけられ……。

 とにかく前情報入れずに見たほうがいいと言われていた映画。冒頭、黒人青年が何者かに誘拐されるところから始まるので、主人公がこれから不穏な目に合うのだけはわかる……というところから始まり始まり。白人のガールフレンドの生家に招待されて行くことになったが、ご両親は娘の彼氏が黒人とは知らない!という。
 まあ避けては通れないこととはいえ、実に気詰まりですね。父親は「オバマ支持者」だそうで、そりゃあ共和党支持、トランプ支持と言われるよりはましだが、そういう問題でもないような気がするしな。
行く途中で鹿をはね、白人警官のパトカーによる現場検証。ここでIDを要求されたりして、実に感じが悪い。ここは先だっての『ドリーム』とそっくりで、あれから何十年も経ってるけど黒人は未だに同じような疑いを持たれるのだ……。

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 かなり隅々まで伏線が張り巡らされていて、この序盤のシーンも後々全部拾ってくるんだが、「彼女の実家に行く」という嫌な緊張感が最初からあるせいで、まだ何も起こってないうちから全然気が抜けない。さあ行った先の両親の感じは、少々上滑り気味だが、家で雇われている使用人の黒人男女がどうもおかしい。何が、というと説明できないのだが、ステレオタイプな使用人感が嫌、というのともまた違う。役者の演技も最高!
 さらにパーティが催され、大勢の白人がやってくるのだが、彼らの目になにか奇妙な期待が感じられ、大変居心地の悪い思いをすることに……。
 パーティに来てる唯一の黒人に主人公が声をかけるあたりで、もろにそのギャップが出る。単に見た目の問題じゃなくて、文化を共有している相手がいるか、「ヘイ、ブラザー!」と声をかけあえる相手か、というのはかくも重要なのだが、それがまた思わぬ形で裏切られることに……。ここでタイトルの「ゲット・アウト」が台詞として登場するが、真相がわかってみるといくつもの意味が含まれているんですね。

 オチがわかった後で振り返るとわかるのだが、確かに今作に登場する白人たちには、「黒人」への生理的嫌悪や、強烈な忌避感は持っていないし、表向きにはそういう扱いもしない。ある種のリスペクトさえある……。ただ、そのリスペクトは、健康であったり優れた運動能力を持っていたりするという、「性能」に対するものなのだな。彼ら個人個人の「人格」であるとか、総体としての「文化」にはまったく興味がない。それは、かつて黒人を奴隷として扱い、優劣を決め値段をつけた『マンディンゴ』や『ジャンゴ』の時代と、実はさほど変わらぬ思想なのかもしれない。

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 主人公の留守中に犬の世話を頼まれてる親友、空港警察勤めのノリの軽い男がやたらと面白くてギャグパートを引き受けてるのだが、嫌な緊迫感の続く今作において一服の清涼剤的存在になっている。一応、話のつなぎとして必ず入れておかないといけない、警察に通報するけれどすげなくされる、というまったく面白くない儀式としての展開を面白くしちゃうのがセンスだな。今年は『人魚姫』でもあったね。黒人が黒人刑事に訴えてるのに、話の内容が荒唐無稽すぎて全然受け入れられない、という悲しさ……。「性奴隷」というパワーワードが素晴らしいが、真相はもちろん違うのだけれど、前述の『マンディンゴ』を思い返せば決して遠くはない。
 主人公の反撃する展開でも、その頭の良さや機転が描かれていて、ある意味「性能」リスペクトは正しかったということが裏付けられますね。ところでケイレブ・ランドリー・ジョーンズも出ていて、「MMAについてどう思う?」みたいなことを言うのでちょっと期待したが、格闘シーンはあまりマニアックではありませんでした。

 似た作品もないではないのだが、そのタイトル出すだけでもネタバレになってしまうので、この場では伏せておこう。とにかく予備知識なしで初見に臨んでほしい映画。今年は『ドリーム』とこれが二大黒人差別ネタ映画になりましたね。

マンディンゴ [DVD]

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今日の買い物

『牯嶺街少年殺人事件』BD

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 伝説の映画がソフトでも復活!


Kalafina “9+ONE”』BD

 シアタールームを彩るライブBD。


少女革命ウテナ』BD

 ついに念願のボックス購入。前回のボックスは買えなかったからな。

”もし世界が百人の村だったら”『猿の惑星 聖戦記』(ネタバレ)


映画『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』予告編

 シリーズ完結編!

 戦争がコバの裏切りをきっかけに戦争が勃発して二年。軍隊の攻撃を撃退しつつ森に身を潜めていたシーザーたちだが、ある日、裏切りと奇襲によって妻子を失ってしまう。仲間たちと別れ、妻子を殺した大佐を倒すべく旅立つシーザーだったが……。

 今回もあまり期待していなかったが、人間対猿の100対100ぐらいのスケールの小ささにはまたも閉口。前作ラストで、いよいよ全面的な戦争を示唆していたが、相変わらずやってることは「もし世界が百人の村だったら」みたいなスケールに止まっていてガックリくる。正直、猿のCGに金も手間も費やしすぎだろ……。

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 対するはウディ・ハレルソン率いる軍隊で、悪辣ぶりに磨きをかけて、前作のゲイリー・オールドマンよりはいいキャラなんだが、生活感が全然なくて、これを人類側の象徴とされてもちょっと弱い。今回はいわゆる善人キャラが少女しか出ない上にファンタジー的なキャラなので、人類って一体どうしてしまったんだろう、と余計に思ってしまう。この山以外の場所に、軍隊以外の人は住んでいないのか……?
 現実の社会を舞台にした『創世記』から前作へ飛躍した時点で、周辺の人類社会については「まあなんとなく想像しておいてよ」と、その「滅び」を描かず逃げたわけだが、今作においても結局は猿によって「滅ぼされる」過程は登場せず。一作目のウイルスによって、人類はついに退化を開始し、旧『猿の惑星』につながることが示唆される。「そして猿の惑星になる」とウディ・ハレルソンが重々しく言うのだが、こういうのはキャッチコピーに留めておいて、その過程は映像と物語で見せて欲しかったなあ。
 局所的な戦い、個人VS個人の対決が、実は勢力同士、種族同士の対立のそのまま象徴であり、隠喩である……というのは結構なのだが、それだけでは大団円には弱いから、何とかして人類を片付けなければならない。
 実際は二つの勢力の将来を暗示するに留まるはずの二人の対決で、もう猿が勝ったことになってしまうとさすがにおかしいので、じゃあどうするかというと……雪崩だっ!
 人類を滅ぼしたのは雪崩だった! 猿はみんな木に登れたから助かったんだ!

 先細りの人類が、猿をゾンダーコマンドに仕立ててアウシュビッツもどきを作って弾圧する、という発想は面白く、さらにKKKとの内ゲバに発展するあたりのもう終わっている感は面白いんだが、猿軍団が逃げ惑ってるうちに雪崩が起きてみんな片付きました、というのはなんだかなあ。

 また、肝心のシーザーのスタンドプレーっぷりが、とてもじゃないが偉大な指導者という感じがしない。少人数でロードムービーしてる間に、みんな捕まってるやないの。「俺はコバだ」と言うなら、そこをもう少し徹底して欲しかったが、今作は第1作につながるというオチが先にあるせいで大胆な展開もできなかったか。アンディ・サーキスの顔芸に頼りすぎ。

 前作は、「中だるみ」だと思ってたから低評価だったが、今作が終わってみると「平均値」に近かったことがわかってしまった。やっぱりリメイクやらリブートやら、大していいことないな、と、また思わせられてしまったシリーズでした。