”この世界で生きる”『ブレードランナー2049』(ネタバレ)
ドゥニ・ヴィルヌーブ監督作!
2049年、新型レプリカントによって新たな秩序が生み出された世界。人類に反抗する可能性のある旧型を処理する「ブレードランナー」であるKは、捜査の最中、あるありえない事象に行き当たる。人類、そしてレプリカントの根幹を揺るがす謎を追うKだったが……。
まさかこの時代に続編が作られるとはな……ということで、予習してから鑑賞してきました。前作『ファイナル・カット』が劇場公開したのでチェック。劇場公開版は以前に見てたかな……。ラストを踏まえつつ新作!
『SW EP7』ばりにいきなり冒頭のモノローグが重要で、読み飛ばすと大変なことになる。タイレル社はすでになく、後から出てくるジャレッド・レトの会社が新レプリカントと人工食料の供給で世界を牛耳る。レプリカントは反乱を起こしたレイチェルと同型の教訓を生かし、今現在普及している新型は従順に設計されている……。
今作では「寿命が数年」という話は解決済みということで綺麗になくなっています。いや、あれはわざと寿命短めに設定してたのではなかったのか。やっぱり労働力や兵力は長持ちする方が良かったということか。前作の肝の部分がいきなりすっ飛び、実はレイチェルは寿命長かったんだ、という劇場公開版の後付け設定が公式化。
某映画サイトが事前情報でいきなり「レプリカントに子供が生まれる」とネタバレしてたが、このネタは割と早めに出てくる。父はデッカード、母はレイチェル……。
うーん、スピルバーグの奴が全部悪いんだけど、もうハリソン・フォードのキャラに子供出すのはやめてくれんかな……。『インディ』『スター・ウォーズ』に続き、ハリソンの旧作が復活したと思ったら毎回のようにガキが出てくる。正直、うんざりである。他に話は作れないのか……?
今作では「ブレードランナー」もレプリカントのお役目になっていて、ライアン・ゴズリングはしっかりレプリカント役。彼のスマートだが中身がなく見える個性にはハマっていて、仕事には忠実だが私生活と人格は空っぽ、暇な時間はAIの女の子と遊んでいるという悲しさ……。AI「ジョイ」役はアナ・デ・アルマス、『ノック・ノック』でキアヌを散々な目に合わせた女である。お部屋のプロジェクターでのみ映像出力されていたのが、中盤からは持ち出しOKになっていて、ブレードランナーの捜査情報なども見まくっている。いいのか、AIだから……。
中盤以降は自らがデッカードの息子なのかと考え始めたゴズリンの葛藤が中心になり、えっ、この人が父親なの……?と考えながらどつき合う展開に。最終的に「実は違いました」ということになるので、そこはちょっとひねってはいるのだが、どうもこのあたりの陳腐さがつらい。『ブレードランナー』っぽさを追求するなら、それは美術や設定にとどめ、もうデッカードやレイチェルは名前だけチラッと出ればそれで良かったんじゃないのかな。まあファンサービスと集客のためには、ハリソン・フォードが出ないと話にならんのだろうが……。
クライマックスも妙にスケールの小さい、溺れるか否かの対決になって正直全く面白くない。ドゥニヌーブは生身のアクションに興味がないんだろうな、と思うぐらいわざとらしい回し蹴りが連発され、まるで十年ぐらい前の映画のファイトシーンだ。
ここがあまりにつまらなかったので、やっぱり復活したジョイちゃんをオペレーターにして、デッカードの犬を引き連れて本社に乗り込んで社長と対決するみたいな展開が欲しかったな……。
ビジュアルも旧作フォロワーの最大公約数といった趣で、それっぽいと言えばそれっぽい。数々の表現がフォロワーを生んだ中で、タイレル社の巨大社屋だけはバカバカし過ぎて淘汰されたな……と思っていたが、今作だけはきっちり継承したのも良かった。ただエルビスのくだりなど少々くどいし、「っぽさ」に腐心し過ぎという気もする。
そこにハリソン・フォードを投入することで、確かに『ブレードランナー』っぽさは強化されるが、こういうものが観たかったかというとそうではなかったし、そもそも続編を観たかったのかと言われると……。
しかし、こう書くといかにもつまらない長ったらしい映画のようだが、観ていて不思議と気持ちよく、ゴズリンがボンヤリした顔してジョイちゃんとアイコンタクトしてるあたりをぼんやり眺めているだけで五時間ぐらいいけそうな感覚もあり。ハンス・ジマーがボヨーン、ゴーンと大音響かき鳴らし、ドヒューンと車が飛んで……ああいい気持ち……。メリハリのなさが逆に良くて、環境映像(ただしディストピア版)に浸っているような……。
ドゥニヌーブ作品としてはまったくもっていつもの彼の映画だな、と感じた部分もあり。「仕掛け」の作家としては話が陳腐過ぎて後退しているが、『灼熱の魂』『プリズナーズ』『ボーダーライン』『メッセージ』から連綿と受け継がれた、この世界はあまりに大きく広く、運命は時に残酷で、システムは強固で、我々はその中で無力であり何一つ動かせないという世界観に確実に通じる。されど、人も、AIも、レプリカントも何かを信じて生きるのだ、という展開をもって、ようやく旧作とは違うドゥニ版『ブレードランナー』に成り得たかな、と言う気がする。それだったらなおさら、ストーリーを妙に引き継がない外伝的映画にしてくれてたら良かったのになあ……。
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