"移ろう時の中で"『GF*BF』

 
 大阪アジアン映画祭七本目!


 85年、戒厳令下の台湾。同じ高校に通うメイベルとライアム、アーロンの三人は、集会の日にある反抗を企てていた。仲の良いメイベルとライアムの関係を、二人は付き合っているものと思っていたアーロンだが、そうではないと知りメイベルに告白する。90年、高校時代の反乱そのままにアーロンは学生運動に身を投じていたが……。


 近年、ガンガンに株をあげているグイ・ルンメイの主演作、ということで、結構楽しみにしておりました。『海洋天堂』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110724/1311485181)、『密告・者』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111106/1320573887)、『星空』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120325/1332664607)、『ドラゴンゲート』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130115/1358251012)など、多彩なジャンルで活躍中。


 四つの時代に渡る三人の男女の関係を描く、ということで、非常に繊細な手つきの映画であった。さらに身震いしそうなまでに冴え、透明かつ怜悧な、それでいて人肌の温もりを感じさせる映像! なんだこれは!
 そんな中、我らがグイ・ルンメイは、いわゆる「素直じゃない」女役。サバサバしているようだが、はっきり物を言ってるようで言ってなく、常にどこかに本心を隠しているかのようなキャラクター。今回はかなり表情が豊かで、しれっとした表情や、物言いたげなジト目の演技が良い。こういう表情をすると、なんか変な顔になるんだけど、そこが味になるんだよね。いや〜、これは今回がまさにベストアクトではないですか? 作中にある大きな秘密を、おそらく早い時点から知っていて密かに共有している、という立場がそうさせるのだが、それが明らかになる瞬間、序盤の高校時代のシーンの意味が急激に反転する。


 さて、ガーデンシネマで観て、立ち見も出る満席だったのだけれど、その秘密が明らかになる「キスシーン」には、場内から「えええ〜!?」という驚きの声が漏れて、なかなか良い感じでした。ここからは「秘密」を観客も共有し、知らないのはリディアン・ヴォーン演ずるチャラ男一人、という、不思議な三角関係の描写が続く。誰一人幸せになれないことはわかっているのだが、その行く末から目が離せない。
 ジョセフ・チャンとグイ・ルンメイ、リディアン・ヴォーンの三人が三者三様に物語の鍵を握っていて、誰一人、何か一つの行動が欠けてもこうは進まなかったであろう、と思わせる自然な話運びも白眉。


 互いに内心を隠したキャラクターたちの言葉にできぬ思いを、台詞抜きで表現するため、音楽も演技も撮影場所のチョイスも、隅から隅まで綿密にされていて、非常に心地よい映像空間が展開される。テーマは終映後のティーチインで監督がみんな喋ってしまったけれど、この物語と同じく、人生は常に良い事やハッピーエンドばかりではない。だが、全てが辛い事や哀しい事ばかりではなく、美しい物やかけがえのない何かが少しずつ残っていく。


 ティーチインに来た監督は、あまり笑わない真面目な雰囲気の人であったなあ。ドラマ性だけでなく、台湾社会の歴史やジェンダーの問題にも切り込んだ重層的な映画でもあり、多彩な観点を持つ人なのであろう。まだ別の映画祭でも上映されるようなので、大阪で観られなかった人もぜひ!

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