”燃えてきた、フツフツと……”『女神の見えざる手』
ジェシカ・チャスティン主演作。
大手ロビー会社で剛腕を振るう花形ロビイスト、エリザベス・スローン。天才的な戦略家である彼女だったが、銃規制反対キャンペーンの仕事を断り、規制派の小さな会社へと移籍。利権と莫大な財力を敵に回し、スローンは一世一代の大勝負を仕掛ける……。
最近はもう乗りに乗っている感のあるジェシカ・チャスティン。この人も『ヘルプ』までは埋もれてたんだよな。今回はカリスマ的ロビイスト役。勝つことが全てで、少々悪どい手も辞さない豪腕ぶり。原題は『ミス・スローン』だからこの主人公の名前ですね。
今や選挙にせよ政策を通すにせよ、全てはイメージイメージイメージであり、実績や実効性など問題にならないぐらいにどういう印象を持たれるかこそが重要であり、その鍵を握るのがロビー活動でありロビイストである。
で、今までもえげつない手法で数々のロビー活動を手がけ勝たせてきたミス・スローンに、所属する企業ごと持ちかけられたのが、銃規制反対のキャンペーン。規制賛成派に女性が多いので、銃に「優しい」イメージを持たせて法案を通そうという無理筋なものなのだが、資金は潤沢だし、勝利こそが至上である彼女なら当然受けてくれるだろう……と思いきや、いきなり「なめんじゃないわよ」と来たから実に痛快である。金積めばなんでもやると思ったか、見くびられたもんだな、バカヤロー! と啖呵を切って仕事を蹴り飛ばしたところで、接触してくるマーク・ストロング。銃規制キャンペーンの方を手がける会社の社長で、ミス・スローンを引き抜きに……。資金じゃ完全に負けてて普通にやったら勝ち目ないけど、どう?と言われて、ブチギレたばっかりの常勝ロビイストの闘志に火がついた……!
早速自分のチームから希望者をごっそり引き抜き(ここでついて行く人はなぜかみんなナードっぽい)、半数が移籍。腹心のアリソン・ピルには裏切られたものの、新たなメンバーも加わってロビー活動開始!
投票権を持ってる政治家を味方につける、キャンペーンに賛同させるのが主な目的だが、逆境にあることを水を得た魚のように感じるミス・スローンは、切れ味鋭い弁舌と、非合法スレスレの手段で賛同者を増やしていく……。いや、スレスレとは言いましたが、完全にアウトな盗聴までやろうとしてて、マーク・ストロング社長に慌てて止められる。いやいや、確かに勝てと言ったけど、そこまでやれとは言ってないし……。が、後々チーム内に裏切り者が出たのだが、それを発見できた理由は全員盗聴させてたからだ、と言われてはもう二の句が告げないのである。
ただミス・スローンも完全無欠なキャラクターではなく、睡眠時間を削るために薬物を服用し、たまに男娼を呼び出しては息抜きをするなど、ちょいちょい隙もある人物として描かれている。結構イラチやしな……。冒頭は彼女が公聴会で散々挑発を受けているところから始まるので、そういうところを突かれたのか?と想像するところ。
チームのメンバーに、銃によって家族を失った女性がいて、その彼女の隠していた過去を不意打ちで晒し、旗印にして運動を盛り上げるあたりは実にどぎつく、プライバシーに続き倫理の問題にも踏み込む一手。だが、その優勢も束の間、その彼女が規制反対派に襲われ、銃を持った警備員に助けられたことで再び潮目は変わっていく……。
めまぐるしい情勢の変化の中で、時に葛藤を抱えながらもそれをねじ伏せ目的のために邁進する姿は、『コードギアス』的なピカレスクロマンに近く、キャラクターとしても悪役ギリギリ。だがこれこそが、もはや良心が死に絶えた銃社会に立ち向かう必要悪であり、ハードボイルドも任侠も廃れ、綺麗事にも共感できない複雑化した現代ならではのヒーロー像なのかもしれないですね。ラストのケジメの取り方含め……。
ヨーロッパコープらしからぬ、切れのあるスマートな映画なのだが、一方で「悪党をズバッと凹ましてやったぜ!」という厨二感もしっかりと残っていてカタルシスをキープ。まあ実話ではないので、これぐらいのフィクション性は当然あってよしですね。
『メン・イン・キャット』もまあまあ面白かったし(ケビン・スペイシーと共に葬られそうだけど)、ヨーロッパコープも息を吹き返してきたんじゃないかなあ。まあ『ヴァレリアン』が大コケして倒産危機だそうですが……。
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