"その道はここへつながる"『ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜』


 アカデミー賞で助演女優賞受賞!


 大学を卒業し、故郷であるミシシッピ州ジャクソンに戻ったスキーター。新聞社に就職を決めた彼女だが、生家ではお手伝いで彼女の育ての親でもあったコンスタンティンが解雇されていた。公民権運動が始まった時代、黒人の「ヘルプ」を蔑視することに疑問を抱いたスキーターは、ニューヨークの出版社に家政婦たちの現実を伝えるルポの企画を持ち込む……。


 ベストセラー小説の映画化で、黒人差別の問題を扱った上下巻、映画自体もランタイム140分以上。重いテーマをはらんでいることもあり、これは予告編と裏腹に重厚な作品なのでは、と想像。しかしながら、軽さを強調した予告編のポップな感覚と同様、軽妙さの中に複雑なテーマを落とし込み、長さを感じさせない作品に仕上がっていた。


 白人側のエマ・ストーンと黒人側のヴィオラ・デイヴィス、二人の「語り手」を据えて、双方の目線から一つの問題を描く。ヴィオラ・デイヴィスのキャラクターは「被差別者」としての当事者であり、エマ・ストーンは一歩引いた立場からこの問題に関わる。語られる内容は当然、オリヴィア・デイヴィス演ずるアイビリーンの方がより重く、切実感を伴っているわけだが、そういう問題にいかにコミットしていくか、という意味で、当然エマ・ストーン演ずるスキーターのキャラクターも重要であり、なくてはならない。単に物語として描くなら、余韻を残すエンディングも含めてアイビリーン中心に描けば充分なのだろうが、本作はそうではない。
 スキーターというキャラを通じ、白人は、あるいはこの日本においてマジョリティである僕は、いかにこうした差別の問題にコミットしていくかを考える。大学で教育を受け文才も持つスキーターは、地元を離れてどこかへ行く事もできた。あるいはブライス・ダラス・ハワード演ずるヒリーの仲間に再び加わることもできたはずだ。だが、彼女はどちらも選ばず、「書きたい」と思い、積極的にこの問題に関わり、かつての友人とも道を違える。狂言回しとしての機能ももちろんだが、当時の人間らしくなく「現代的」な価値観の持ち主である彼女をこのポジションに据えたことによって映画は、今もなおある差別に対して、マジョリティが、映画を観ている我々がいかに関わって行くのかを問いかける。友人が、隣人が、育ての親が、不当な扱いを受けた時に、自分はスキーターのように声をあげるのか。深く考えさせられた。
 ジャーナリストである白人が、黒人に対する差別に怒りの声をあげる、ということで南アフリカを舞台にした『遠い夜明け』なども思い出した。かの作品のような過酷な暴力は描かれないにせよ、アメリカにおいても公民権運動の後も差別は続き、今もなおヘイトクライムは残る。アイビリーンが迎えたエンディングはそれを示唆し、彼女の歩き続けた道は、今、我々がいる地点へと直接つながっていることを示している。それは、今もなお消えてはいない。


 ただ、人間は差別心をなかなか克服できないのだが、それと同様に、人種を違えても愛情や感謝の気持ちを抱くこともまた確かにある。スキーターとコンスタンティンの関係や、ジェシカ・チャスティン演ずるシーリアとオクタヴィア・スペンサーのミニーの関係によって、今作はそういった普遍的な希望をも示唆する。むしろ、それこそがあるべき自然な姿であり、ヒリーのように差別を続け敵対することこそが不自然かつつらいものであることをも提示する。迷った時は、この原点に立ち返りたい。


 役者陣も皆良かったね。シシー・スペイセクが面白く、『キャリー』であんだけイジメられてた人が、こういうよくも悪くもタフな人になってる、という構図は何か感慨深いね(笑)。その娘役のブライス・ダラス・ハワード、ちょっと顔も似てるかな……。近作でも極めつけな嫌な女役で、息をするように差別的な台詞を吐くキャラ。「本物のレイシストがいて……」という台詞にはぞっとしたなあ。差別のアウトソーシング、善人ヅラしての脅迫、おまえでも充分レイシストだ! 彼女を「法を遵守しているだけ」の存在にした制度や国家のおぞましさたるや。
 対してジェシカ・チャスティンの、貧困層出身であるがゆえにセレブリティの差別的価値観に染まっていない設定が面白い。そのために「空気を読まない」人扱いされて疎まれるのだが、その「空気を読む」ことこそが最大の敵なのかもしれないね。旦那も金持ちの割にまともな人だった(笑)。
 『小悪魔はなぜもてる?!』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120328/1332913173)に続き、完全に口の減らない女役が持ちキャラになったエマ・ストーンも良かったですよ。親しみの持てるキャラクターで、就職か恋愛かで揺れるところも良いですね。彼氏のキャラは似非リベラルの典型、いや〜いるいる、こういう理解ありげなふりしてみせるけど口だけな奴。目でも噛んで死になさい。
 アイビリーンとミニーのキャラは、原作では50代と30代のはずだが、映画ではそれほど変わらないように見えたね。ミニーの方の子供もかなり大きいし。アカデミー助演女優賞取ったオクタヴィア・スペンサー、フィルモ見たらほとんど端役ばかりだったのに、すごい抜擢だ……。


 わかりやすいキャラクターと筋で、啓蒙的ながらも楽しく仕上がった作品。深い映画かというとそうではないし、もっと重く描く事もいくらでもできるはずだ。が、常にここから始めなければならない人がいることも忘れてはならないだろう。

ヘルプ―心がつなぐストーリー〈上〉 (集英社文庫)

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ヘルプ―心がつなぐストーリー〈下〉 (集英社文庫)

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