"片目の天使、復讐の女神"『ゼイ・コール・ハー・ワン・アイ』
幼少時、レイプされた事で口のきけなくなった少女フリッガ。両親と共に平穏に暮らしていた彼女だが、医者に通う途中でトニーという男の車に乗り、誘われるままに彼の家に行ってしまう。ワインに一服盛られたフリッガはヘロイン中毒にされ、トニーの仕切る売春宿で客を取らされることに。抵抗の代償として片目を潰されたフリッガは「ワン・アイ」として幾人もの客に凌辱される日々を過ごす事になる。やがて、トニーの偽手紙で、娘が自分たちを捨てたと思い込んだ両親が自殺したことを知ったフリッガは、密かに貯めた金で復讐のための修行を開始する……。
『キル・ビル』のエル・ドライバーの元ネタになった作品、ということなのだが、影響はおそらくそれにとどまらない。散々な目にあった美女が繰り広げる凄惨な復讐劇、という構成に加え、途中の特訓シーンのガジェットの「男子力」の爆発っぷりに、爆笑しましたよ! 客を取らされる傍、週一の休みに抜け出して銃、柔道、空手、車の運転を習うという、ほんとにこれで上達できるのかよくわからん展開。柔道もまったく基本の受け身から始めるし、空手も肘打ちや頭突きなどかまして北欧風にアレンジされているのではないかと不安になる(ジャン=クロード・ヴァン・ダムやドルフ・ラングレンもヨーロッパ出身の空手家なのでその系譜ですね)。先生役の人たちは動きが本物っぽかったがね……。
しかしヤク中にされてるので、道場で薬打ってたら破門されるという泣ける展開。代わりにコマンドサンボを習うぜ! 運転もドリフトを鮮やかに決める腕前に!
口が利けないという設定なのでセリフもないし、演技というほどの演技ではないのだがそこは『ターミネーター』みたいなもので、演技しないことが逆に演技。すべてを奪われ表情をなくした少女という設定が、ストーリーにがっちりとマッチしている。
序盤はヤク漬けにされ、客を取らされる毎日。ポルノなんだけど、誰のものかわからない(絶対本人じゃあないね)結合部のどアップが無修整で延々と映され、まあエロくもなんともない! レズビアンにいたぶられるシーンが一番やらしいかな……。
客は斡旋料のようなものを元締めに払っていて、彼女ら娼婦にくれるのはチップということになってるようだ。そのチップを貯めて、主人公の唯一の友人となる娼婦は海外脱出の機会を伺っているのだが、無残にも消されてしまう!
片目を奪われ、両親を失い、唯一の友も殺された……。ついに復讐の時は来たる! まずは幾度も自分を慰み者にした写真家、レズビアン、ブサメンの三人の常連客をショットガンで血祭りにあげる(習ってたのはライフルだったんだけど……)。こういう「需要」を抱く者がいるかぎり、彼女らを「供給」しようとする者が消えることもないのだよね。
狙撃を教えてくれた人も結構親切だったんだが、その人の武器庫から銃盗んで、勝手にショットガンも切り詰めてしまうあたり、ひどい! 大事の前の小事か……。運転を教えてくれるレーサーらしき人も、銃を教えてくれる元軍人っぽい人も、全然事情とかを詮索していないようだし懇切丁寧であったが、これはやはり日頃むさい男にばかり教えてたのが、珍しく可愛い子が来たのでニヘニヘしていたとか、そういうことなのであろうか……。
殺し屋を返り討ちにし、銃撃を聞きつけて現れた警官も素手でKO! パンチ一発で血反吐を吹いて吹っ飛んで行く警官がおかしいのだが、ここらあたりの銃撃や格闘シーンは長すぎるくらいのスローで超シュール! 吹っ飛ばされた警官が一分ぐらいかかってとうとう段ボールに頭から突っ込むところでは、何かかわいそうになってきてしまったよ!
いや、現代の水準で言うと無論スローでごまかしたしょぼいアクションシーンなのだけど、全然動きそうにないクリスチーナとアクションというミスマッチ感によって不思議な味が生まれているのだ。黒づくめと黒のアイパッチ姿は、まさに死の天使。
パトカーを強奪し(ティーチインでは、塗装で作った偽パトカーによるゲリラ撮影の顛末が語られました。警察に見つかったけど、監督は逃げ出してクリスチーナだけ逮捕されたらしい。あのアイパッチ姿で!)、向かった先でついに悪の元凶である売春組織の元締めと「真昼の決闘」に挑む! ウエスタンのごとき対決と、哀切なかつ爽快なラストが素晴らしい。
先の『アニタ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120923/1348401680)や『露出』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120926/1348573837)とは一線を画すフェティシズムがぷんぷん。けしからん乳と尻も堪能しつつ、今でいう中二的な男の妄想的展開も楽しめるという二度美味しい映画。こりゃあタランティーノも好きなわけですよ。数々のツッコミどころでは館内も爆笑! これを観れただけでも、今回の映画祭は大満足でありました。
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