”君は昨日何をググった?”『エクス・マキナ』


映画『エクス・マキナ』予告編

 ドーナル・グリーソン主演作!

 検索エンジンの会社で働く若きエンジニアのケイレブは、普段は姿を見せない社長の山間の別荘で、一週間の研修を受ける権利に当選する。仲間に羨まれながら別荘にヘリで向かったケイレブ。出迎えた社長が彼に命じたのは、実用段階に入ろうとするAI「エヴァ」のチューリングテストを行うことだった……。

 『リリーのすべて』でアカデミー助演女優賞を獲得したアリシア・ヴィキャンデルちゃんが、今作ではアンドロイド役でまたも演技達者ぶりを見せております。そのアンドロイドの製作者であるカリスマ社長がダメロンことオスカー・アイザック。そしてダメロンと同じくEP7組のドーナル・グリーソン……。

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 オープニングは、一社員であるドーナル・グリーソンが抽選で選ばれるところから。このあたり台詞なし演出で超展開早い……んだが、招待を受けた彼が社長の別荘に行ったあたりからは同じセットで延々会話劇が続き、あの序盤のテンポはなんだったんだ、と思わせる。そのギャップもたぶん狙いなのね。
 ここからは7日間の研修が一日ずつ追われ、その中でアンドロイドであるエヴァの「チューリングテスト」を行うグリーソン……。ところで、素朴な疑問なのだが、チューリングテストってこうやって直接メカのボディを見ながらやってもいいの? 余計な先入観が入りそうな気がするのだが。

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 社長業は割とほったらかしで、お手伝い兼愛人のキョウコさんの作る寿司を食べつつ、呑んだくれているダメロン社長。序盤はグリーソンとの会話シーンが多くてなかなか眠い作りなのだが、後半からじわじわと不気味さが増してくる。最初は抽選で選ばれたと思っていたドーナルくん、これは実は最初から仕組まれていたことではないかと疑いだす。
 「検索履歴は全てモニターしている。検索履歴を見ればどういう人間かわかる」と言うダメロン社長。当然、ドーナルくんの履歴も知られているわけで……。

 「僕は実はアンドロイドなんじゃないか? 実験されてるのは僕では?」と、急に明後日の方向に気を回して自分の皮膚を切り開くドーナルくんだが、幸い生身でした。そこまで豪快なオチはなかったとすると、じゃあ実際に仕組まれているのはもう少し繊細なニュアンスの仕掛けということになる。

 特殊メイクのつなぎが自然で、アリシア・ヴィキャンデルちゃんの身体がマジに透けているように見えてすごいですね。AI役ということで、『UNCLE』や『リリーのすべて』と違って、全然押しの強くないキャラクター。生まれたて、ぼんやり、おっとり、小柄で何だか守ってあげたくなるような……。
 それに対し、どんどん同情心を抱くドーナルくん。実験終了後の「処分」を匂わせるダメロン社長。AIの人権みたいな難しい話にも行きそうなのだが、それよりもドーナルくんの同情心が恋愛感情にやがて発展していくように見えてくる。

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 見てて『ルビー・スパークス』を思い出したのだが、あれとは対照的な話かな。恋愛対象が生命なき虚構の女であるのは共通しているのだが、ポール・ダノとドーナル・グリーソンのキャラが対照的。かの映画のポール・ダノが作家として才能に恵まれ、それゆえにルビー・スパークスを生み出してしまうのに対し、ドーナルくんはエヴァにただあてがわれただけ。思えば『FRANK』においても、ドーナルくんはアーティスティックな才能が欠片もないキャラを演じていた。作家ダノがその好きに人格を書き換える才能ゆえに暴力性を露呈し支配欲をあらわにしていくのに対し、何も持たない童貞グリーソンはその優しさゆえに逆にコントロールされていくのだな。

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 今作中でそのドーナルくんと対照的な場所に配置されているのはダメロン社長で、成功者、大金持ち、科学者としての才能、剥き出しのセックスアピールなど、ドーナルにないものを持っている男。そんな彼に検索履歴から童貞であることを見透かされていた……というのは、頭に血がのぼるような実に悲しい設定ですね。果たしてドーナル・グリーソンは圧倒的童貞力を発揮し、やっぱり所詮、童貞は童貞だった……ということになってしまう。『鑑定士と顔のない依頼人』にも通じるな……。

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 SFとしては非常にシンプルで、登場人物はわずかでテーマもきっちり語り切っていてわかりやすい映画でありました。『her』のような成長譚には結びつかないあたりの底意地の悪さも味ですね。

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