”勝ったのは誰?”『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』


チーム分け紹介『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』4/29(金)全国ロードショー

 シリーズ第三作!

 ソコヴィアでの死闘を経て再結成されたアベンジャーズ。だが、新たなミッションで死傷者を出した彼らに、その強大過ぎる力を危険視する声が上がる。アベンジャーズの活動は国連の管理下に置かれ、無許可での活動を行えなくなる協定が結ばれ、ウルトロンを生み出した罪の意識からそれに賛同するトニー。だが、自由意志を重んずるスティーブはそれに応じず……。

 単独作品として好評を博した『ウィンター・ソルジャー』に続く三作目は、『エイジ・オブ・ウルトロン』を経て結成された新アベンジャーズのお話。冒頭、キャップさん指揮のもとファルコン、ナターシャ、スカーレットウィッチなどのメンバーがミッション遂行……なのだが、キャップさんを守るためにスカーレットウィッチが反らした爆発が民間のビルを直撃。結果的に大チョンボになり死者が出てしまう……。
 そもそもおまえら、ニューヨークも無茶苦茶にしたし、ソコヴィアなんてもっとひどいことになったし……と世界中から不満が噴出。いやいや、あれはソーの弟がチタウリを……あの時はSHIELDがヒドラに乗っ取られて……あそこではトニーがウルトロン作っちゃってね……と、まあ段々言い訳が効かなくなる感じが辛い。明らかに身内が元凶ではないか……。
 講演会の再現映像で両親と最後に会った日を見ていたトニー・スターク、帰りにソコヴィアの遺族に詰られ、今後もさらに取り返しのつかない事態を招くことになるのでは、と危惧。超人たちを国連の管理下に置く「ソコヴィア協定」にサインすることを提案する。

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 トニーって、役者のロバート・ダウニー・ジュニアは元薬物中毒、メソッド演技で精神を病んだ人だし、『アイアンマン2』ではずーっと体調悪いまま、『3』ではメンタルの危機、『AOU』ではウルトロンを生み出してしまったキャラ。もう自分で自分がコントロールできないから病院に入ろう!と言い出したように見える。それに対し身体は健康でマッチョ、趣味はランニングで自律神経に問題のないキャップさんは「は? 何言ってんの?」とすごく冷たい……。健康な人には病気の人の気持ちは永遠にわからないのだ……。

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 ボンボン→ワンマン社長→引退してヒーローという生活を送るトニーと、軍人からSHILED所属を経て裏切られやっとこさフリーになったスティーブでは、個人と組織に対する考え方も全然違ってて、個人が信じられないトニーと組織が信用できないキャップさんは必然的に意見が対立する。
 映画では言わないことだが、組織に委ねようと言うトニーはなんせ元は政府御用達の大企業の社長で大金持ちで有名な科学者なので、それが米国だろうが国連であろうが技術や資金を提供して「管理する側」に簡単に入り込めるんじゃないか、という気がするんだね。事実、後に登場する刑務所にもほいほい行っているし、そういう立場の人の提案は信用できない。

 しかしながら、序盤から大チョンボをやらかしたのはキャップさんチームなので、あまり強気にも出られない。特にエリザベス・オルセン演じるスカーレットウィッチは元々ヒドラ側の人間だったのがなし崩しに混じってるような状態な上に力も強すぎるので、真っ先にしょっ引かれてしまうかも……?とキャップさんは心配。
 さらに行方不明だったバッキーがこの後に起きる爆破事件に絡んでいると疑われ、キャップさんはますます署名する選択肢を絶たれる。
 「キャプテン・アメリカ」は当然、アメリカの象徴でもあるわけだが、もはや組織人ではない彼が担っているのは独立独歩、自治と開拓、世界の警察……良くも悪くも精神面のみ。実際の彼は『アベンジャーズ』の中でも下手したら下から数えたほうが早いんじゃないかというぐらいの強さの、言うなればただの運動神経のいいマッチョ。そんな彼の強さ、武器は本当にその精神と理念だけであり、それに基づいて決断し行動することそのものでもある。命令されて動くだけの一兵士に何が残るか、というと、それこそかつてのウィンター・ソルジャーのような悲劇しかないのではないか……?

 例のマーベルロゴが出る前のオープニングは、1991年。洗脳され、謎の任務に就くウィンター・ソルジャー。ある自動車を襲撃し、積まれていた謎のブツを奪取する。舞台は現代に戻り、記憶を取り戻していたはずが、同じキーワードによって再び洗脳されてしまうバッキー。洗脳したのは……ユアン・マクレガーに似た男! またの名をコッホ先生! ダニエル・ブリュールだっ!
 齧歯類のような顔をした風采の上がらない小男で、見た目はまあ教師か医者か……そんな感じの男なのだが、ヒドラ残党を拷問にかけ、たった一人で彼らができなかったことをやってのけてしまう、超謀略派。このオープニングからつながる流れが、実に単純な筋なのだがよくできたサスペンスになっている。1991年12月16日、この日に何が起こったのか? ババンと薬剤らしきものが映り、のちにそれがバッキー以上のウィンターソルジャーを生み出した超人血清であることが明らかになる段で、それが狙いだったのかと思ってしまう。どうもおかしい、それだったら今回のタイトルは『ウィンター・ソルジャー2』になっちゃうじゃん……と違和感を抱えていると衝撃の事実が……。

 まあ今回のダニエル・ブリュールさん、超かっこいいですね。コミックではコスチューム着たヴィランなのだが、今回は全くの一般人。にも関わらず、パンピーでも頑張れば知恵と策謀次第でアベンジャーズを倒せる、ということを証明してしまった。さすが、F1レースながらマイティ・ソーにも勝ってしまっただけのことはある。『AOU』で「最強軍団ですよ!?」と逃げ腰だったヒドラの兵士はやっぱりダメだったな……。まさに一般人の希望の星。オレも頑張ろう、という気にさせてくれました。

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 アベンジャーズの抱えていた超人性は、今作で無残にも丸裸にされ、その超人性以上の人間性を発露させられる。CG表現が頭打ちになった近年、作数を重ねてキャラ描写を深めてきた積み重ねがここにきて効いてきてるな。能力的には最も強いはずのビジョンやスカーレットウィッチがしっかりやらかしてしまい、力を持つことのリスクを垣間見させてしまう。

 そんな中、一人最初から最後までぶれないキャップさん。もはやペギーもおらず(あの姪っ子とのチューは結構どうでもよかった、と言うか無くてもよかったんじゃないか)、過去の自分を知るものはバッキーのみ。その彼だけは守るんだ、という意志が固い。「私も友だったろ?」というトニーだが、まあ見る前は「おまえとバッキーじゃ積み上げてきた歴史が全然違うだろ……」と思っちゃったね。日頃の行いや態度を忘れて、扱いを等しくしろ、という奴はどこにでもいるわけだが……。
 が、そのキャップさんもまた本心を隠し、一つだけ嘘をついていたことが明らかになる。明らかにバッキーとトニーを天秤にかけてバッキーを取る行為であり、そこにトニーが怒るのは、上記の友情の積み重ね以上にあまりにフェアネスを欠いていたから、という気がするね。日頃、あまりにキャップさんの公明正大ぶりにイライラしつつも、自分にないものを持ってるとしてリスペクトせざるを得なかったトニーとしては、「おまえだけは(俺と違って)そういうことしないと思ってたのに!」みたいな理不尽さも込みで、あれだけ怒ったのではないかな。裏切ったな! 僕の気持ちを裏切ったな! かくして、悲しき決戦の幕は上がる……!

 マーベルの作品数込みの「物量」にそろそろうんざりしかけていた身としては、シンプルなサプライズとキャラクター性重視の今作は好感が持てて、後からじわじわ評価が上がってくる感じ。アントマンスパイダーマン、ブラックパンサーあたりの絡ませ方も本筋を壊さないまま見せ場はしっかり用意する絶妙なさじ加減が良かったですね。正直、ホークアイはいらなかったような気もするが……。
 お楽しみである5VS5のバトルも、明るくてだだっ広い空港を舞台にして非常に見やすく作ってあって良かった。ジャンプ漫画なら、一対一を四ヶ月ぐらいかけて五戦やるところだが、この凝縮ぶりは素晴らしい。

 しかしこれでキャップさんの単体作品は終わりかあ。次は『ブラックパンサー』あたりにゲスト出演する流れかな? まだまだマーベル映画は続くわけだけど、今後はちょいちょい絞っていく感じでいいかな。