”小さくて大きなあいつ”『アントマン』
マーベルコミック映画。
刑務所を出所したスコット・ラングだが、泥棒の過去が災いしてまともな仕事にはつけず、ムショ仲間には悪事に誘われるばかり。別れた妻には娘にもなかなか会わせてもらえない。だが、止むを得ずに泥棒に忍び込んだ家で、隠し金庫の中の不思議なスーツを目撃する……。
「いよいよマーベル・シネマティック・ユニバースのフェイズ2も今作でラストだ!」と言われても、来年にはすぐ『シビル・ウォー』もあるし、なんでそんなわざわざ区切るのか意味がわかっていないのだが、ともかく今作で一区切りだそうです。普通に次へのネタ振りや、エンドロール後のゲスト出演もあるので、まったく意味がないと思うのだが……。「閉店セール」みたいな付加価値商法にしても、実がないように感じる。後世に歴史を紐解いた時に初めて、「ああ、あの『アントマン』で一区切りとなっていたな。あそこまでが言うなればフェイズ2だったのだ……」と解釈されるぐらいに留めておけばいいのではないか。
そんなこんなで毎年ゲップが出るぐらいに公開されてるマーベル映画、特に今年は『アベンジャーズ2』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150729/1438177875)という胃もたれする大盛りがあったせいで、もう観るのつらくなってきた……もうちょっとライトに気軽に楽しめるヒーロー映画がいいなあ……あっ、それで世界一小さいヒーロー『アントマン』なのか! 言うなれば、ステーキとパスタの後のデザートみたいなものか? コース料理の締めくくりに、フレッシュな新顔を……。
主演はポール・ラッド。『ウォールフラワー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20131213/1386936828)の先生役が記憶に新しいが、今作は定番のダメ男役。人間を小さくする粒子の発明者マイケル・ダグラスが実は初代のアントマンで、彼の後継者として選ばれる。偉大な先代の後継が一見ダメな男で、先にいた弟子がそれに嫉妬する、というのはカンフー映画の跡目争いなんかでもあるパターンだ。先にいた弟子は新スーツ「イエロージャケット」を完成させて師の業績に追いつき、才能でもそう劣らぬことを証明するのだが、やっぱり認められない。大切なことは技術ではなく人格や精神性なのだ……まあその点でもポール・ラッドは超頼りないのだが、その成長も描かれる。
ヒーローとして力を持つことの苦悩は、先代のマイケル・ダグラスがみんな背負っちゃってるので、ポール・ラッドはとりあえずガムシャラに特訓することでいっぱいいっぱい。泥棒時代の三馬鹿トリオも巻き込んでミッションに挑む。三馬鹿の構成は『グッド・ドクター』の強請り野郎、ラッパー、『プリズナーズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140513/1399992410)の模倣犯……。こう書くとひどい組み合わせだ! マイケル・ペーニャは非常に小狡いイメージが強いのだが、これは『グッド・ドクター』の時の「学もない南米系移民が薬の売人がてらにこのオレを強請るとは!」と医者オーランド・ブルームに思わせていた名演が素晴らしすぎたからですね。
アベンジャーズからは、多分大してスケジュールも詰まってなかったであろうファルコンがゲスト出演。「飛ぶだけ」とか馬鹿にされがちな彼だが、猛禽類的に目が良く、小さくなったアントマンも視認できるがゆえのチョイスか。まあキャップさんやナターシャなら、素の動体視力で視認しそうだが。逆にホークアイは見失いそう(えっ)。
当初は監督だったエドガー・ライトが降板したが、新たに登板したペイトン・リード監督はそのライトさを上手く引き継ぎつつ映画をリードしている(上手いこと言ったつもり)。宇宙だのなんだとスケールが大きくなったようで、顔に色塗ってるだけの人が宇宙人だと言って出てきちゃうのと対照的に、どんどん小さくなることで何でもない日常がアトラクション化するスケール感がいいですね。最終的にはそれもやり過ぎるあたりがまた面白くて、小さいヒーローを使って大きさを表現するというハッタリがうまくハマった感あり。
その「世界の大きさ」を含めた、アリなどの自然界との関わり方も含めて、ヒーローの抱きがちな全能感に一本釘を刺したような価値観が、今後のシリーズ展開にも関わってくるのではなかろうか。
マーベルそろそろ飽きたな、と思いつつ、今作は新鮮なところもあってまずまず面白かった。では、また来年の『シビル・ウォー』でお会いしましょう。
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