”娘のために”『ミセスK』


『ミセスK / MRS K』 予告編 Trailer

 大阪アジアン映画祭2017、一本目!

 かつてマカオのカジノを襲撃した強盗団がいた。行方をくらました彼らのうち、三人が次々と殺される。生き残っているのはリーダー格だった「ミセスK」と呼ばれる女ともう一人。夫と娘を持ち平和に暮らすミセスKは、自らにも魔手が迫ることを予期し……。

 インドネシアと中国の合作映画。『捜査官X』でドニーさんと戦った暗殺者役だったカラ・ワイさんが主演。アジアン映画祭は基本、カンフー映画に冷たい、と思っていたので、これがオープニングとは少々意外であった。カラ・ワイさんは今回来日して、イベントにも出演! ありがたや〜。映画祭では他にも『77回、彼氏を許す』で、ヒロインの母親役でも出演しています。

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 さて、実際の映画はと言うと、非常にスローなテンポとまったりしたアクション、見所はカーク・ウォンやフルーツ・チャンら有名監督のカメオ出演と、まあ良く言えば味わい深い代物でありました。また、びっくりするぐらい金がかかってない感じだしな……。
 カラ・ワイさんは今作でアクションも引退するということだが、もう50代も後半だし、やっぱりそろそろ限界が来ているのだろうな、という等身大のゼーハー感。演出のせいもあるかもだが、5年前のキレなし……。スタントももちろん投入されていて、香港映画の顔を見せないスタント技術はすごいんだが、やっぱり代役が多くカットも割り過ぎると、編集のチャカチャカした下手なアクション映画とあまり変わらんことになってしまうのだな……。

 ストーリーは、過去を持つ主人公が家庭を持って平和に暮らしているが、因縁が追いかけて来て家庭が失われる危機に陥る……というもの。ウエスタンを意識したストーリーラインだが、女性主人公なので、自然と『キル・ビル』そっくりに思えてくるのよね。夫役にウー・バイさん、久しぶりに見た! 医者役だったがめっちゃマッチョで、本人はこれで超歌上手いんだよな……。

 まあ往年のファンならそれなりに……という映画。まだまだ映画祭は続くよ!

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”彼女は振り返る”『ラ・ラ・ランド』(ネタバレ)


「ラ・ラ・ランド」本予告

 デミアン・チャゼル監督作!

 関係者も訪れる映画スタジオのカフェで働きながら、女優を目指すミア。だがオーディションは落ちてばかり。ふと立ち寄ったバーで、演奏直後にクビになったセブというピアニストと出会う。彼の店は自分のジャズバーを持つこと。やがて恋に落ちた二人だが、セブに転機が訪れ……。

 直前に映画祭で延々歌いっぱなし踊りっぱなしのミュージカル映画を観て、かなりうんざりしていた。いや、オレ、ミュージカル映画って苦手なのよね……。「愛してるよ」の台詞一言ですむところを2分ぐらい歌って踊ったりされると、かったるくてかったるくてつらいんだ……。特に脇役にしゃしゃり出て来られると……。
 ただ、今作の場合は歌と踊りのシーンは実のところ分量も少なめ、四章構成にしている分、プロットの引き伸ばし感もないし、各シーンもあれだけカメラを振り回せば、そりゃあ飽きないな、という感じで、まずまずの好印象であった。

 見終わって思ったのは……なんかこれ『秒速5センチメートル』に似てねえ? 章立てで恋愛もので、なかなかのウジウジ感が通底しているあたり……。別れてからメール交換とかやってなくてよかったわ。
 『セッション』の童貞に、まさに毛が生えたかなというぐらいのライアン・ゴズリングの独りよがりなキャラクターが、いい意味でも悪い意味でも「夢を追う男」という感じで面白い。ポップミュージックで成功するぐらいのルックスと才能はあるんだけど、ジャズがどうとか言ってオタク的な趣味の世界を実現したい変人。

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 女優になりたいエマ・ストーンのヒロインは、オーディションからのまっとうな女優デビューを目指して失敗を繰り返している人で、実は交わらないし何も共有するはずがなかった二人だったのでは、という気がする。
 そんな二人が出会い、「いやいや、そんな店の名前じゃ誰も来ないっしょ」「自分で舞台でもやった方がいいんじゃない」とか言い合った挙句にサクセスストーリーが生まれる、まさに化学反応が起きると言う展開、まあ恋愛に留まらず人間関係の醍醐味でありますね。
 なんだけど、舞台や脚本を勧めたゴズリング自身が大遅刻してその肝心の本番を見ないという情けなさ。これは続かないな、ということもため息まじりに語られる。

 甘いと言えば甘いのだが、「フォトショップ」呼ばわりされるゴズリングの存在そのものの嘘っぽさに対し、エマ・ストーンのリアルさに救われている。女性キャラが書き割りだったら、これはイケメン使った独りよがり映画との批判を免れないと思うが、彼女のスター然としない親しみやすさと生の存在感のおかげで、広範な支持を得られたのではないか。

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 キャッチコピーの「夢を見ていた」の夢とは、ジャズバーを持つことや女優になるという、いわゆる「アメリカン・ドリーム」的なことじゃなくて、束の間二人で過ごした時間と、もしかしてその延長線上にあったかもしれなかった幸福を指していたのだな。作中でもちらと言及された『カサブランカ』における「パリ」と同義で、それを胸に二人はそれぞれの道を歩んでいくのだ……というカサブランカニズムですね。
 ラスト、ステージ上で大爆発する妄想が、出会いから何から美化されて子供までできてることになっているのだが、我々観客が「いやいや、ないないない」と突っ込むまでもなく、自分が自分の店にやってくるというパラドックス、論理破綻によって現実に、我に還るという展開はなかなか面白かった。

 まあでも、あそこはやっぱりエマ・ストーンだからこそ、ちゃんと思い出して振り返ってくれるのだ、という絶大な信頼感。『秒速5センチメートル』ではヒロインは振り返らず、彼女はもはやあの美しかった日々を綺麗さっぱり忘れ去ってるよ、シクシク……という自己憐憫的な結末になるのだが、そこを嘘っぽくなく振り返って、まあ私それぐらいの「情」はあるし、あの頃共有したものがなくなったわけじゃないよ、ということを示す。
 ゴズリンが、かつて言われたように店の名前を変えて、あれだけの店の場所へのこだわりも捨てて成功したというのは、やっぱり彼女の残したものであり、彼の方はまだ独り者であることも含めて未練というか湿っぽさも大いに感じるのだけれど、それをキモいと思わず受け止めてくれる。その大らかさ、若干のかっぺくささ……それがやっぱり「俺たちのエマ・ストーン」だよな……という、またちょっと気持ち悪いイメージそのままで、いいじゃないですか!
 女優によってはチラ見ぐらいで出て行く人、一顧だにしない人など色々とイメージがありそうね。キーラ・ナイトレイなら、まさにチラッと見ただけで出て行きそうだし、キャリー・マリガンは振り返らずに出て行った後、外で一筋の涙をこぼすかな。エレン・ペイジだったら人を食った感じで中指立てそうだが……。

 無論、『君の名は。』のように再び結ばれることもないわけだが、ありとあらゆる恋愛が成就するわけじゃない。多くは破局し、泡と消えていく。だけど、互いの人生に無意味でなく大きな影響を与え、別れた後もかつて共有したものの欠片を一瞬とはいえ確かめあえた、というのは、とても良い恋愛であったと言えるのではなかろうか。

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 映画を見終えてから、録画してあったアカデミー授賞式を見たら、やっぱり候補作を一回見て多少なりとも思い入れがあると式の進行へののめり込み方が全然違うな、と再確認した次第。で、監督賞を受賞したチャゼ郎くん、スピーチで妻への感謝を述べるが、明らかに元カノの話なので「愛の映画ですが……なんかすいません……」と若干後ろめたげに見えたのもナイスでしたね!

 さて『セッション』(パイロット版)=『ほしのこえ』、『セッション』=『雲のむこう、約束の場所』、『ラ・ラ・ランド』=『秒速5センチメートル』ということになると思うが、そうなるとチャゼ郎くんには、次に『星を追う子ども』に当たる作品を撮って大惨敗を喫するという未来が待っていることになるな。そして『言の葉の庭』っぽい小品を撮って足がかりを作り、また一皮むけて『君の名は。』的な大ヒットを飛ばす……さあこの予言は当たるのか否か……?

”キューブに託して”『スノーデン』(ネタバレ)


『スノーデン』映画オリジナル予告編

 オリバー・ストーン監督作!

 香港の高級ホテルでジャーナリストたちと落ち合うために現れた一人の青年。彼の名はエドワード・スノーデンNSAに勤めた彼は、アメリカ政府の開発したネットワーク監視プログラムの存在を知り、それが他国をも監視下に置いていることを暴露する。すでにプライバシーはない……。

 エドワード・スノーデンによる告発を描いたドラマということで、事実関係は証言通りに実話として押さえつつ、彼のCIA勤務時代と決断の過程を追っていく。

 まあ正直、スノーデンという人物に対する美化はあるのだろう、と思っていたが、作中で描かれる盗聴・監視のとてつもない規模と違法っぷりに比べたら、それを告発した人間が好人物だろうが小人物だろうが別段どうだっていいという感じではある。
 演ずるはジョセフ・ゴードン・レヴィットで、相変わらずのなで肩ぶり。またこの人の繊細さと同居した芯の強さみたいなものの演技が絶妙で、さらにこのスノーデンという人の数字を扱いロジカルであるがゆえの潔癖さみたいなものが噛み合って、この前代未聞の暴露劇がいかにして起きたか、につながってくる。
 葛藤を重ねて重ねて、ついにデータの持ち出しを決意するあたりはものすごくフィクショナルな演出がされていて、そこで描かれるクソ度胸には映画ながらびっくりしてしまったね。なんという綱渡りだ……という感じだが、綱渡りといえばJGLなんですよ。

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 実際にこんな持ち出し方はしなかったろう、と思いつつ、この実話と虚構のバランスが心地よくて、さすがに見せるな……と思っておったのだが、衝撃はクライマックスにやってきた。ロシアに亡命したJGLが、モニター越しに講演会に登場……というところで、まさかのスノーデンさん本人に交代! えええええええ!
 なんだこの演出は……これは……ありなのか……とにかく度肝だけは抜かれたわ……。しかし本物が登場して、「ここまでは全て本当の話なんですよ!」とアピールすると、逆に途中の大ウソなんだけどエンタメですから!とぶっちぎった部分の虚構性がマイナスの意味であらわになってしまうような気がするなあ。ソフト化の際はJGLエディションとして、本人の登場しないバージョンとか入れても面白いかもな……。

 オリバー・ストーン人脈か、ニコラス・ケイジも出演。悪役じゃないがさりとて重要でもない、ほとんどゲストみたいな扱いで、この人は最近、金回りとかどうなってるんだろう、と心配になってしまったね。

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 『アイ・イン・ザ・スカイ』に続いての「オバマの8年」を描いた映画でもあり、現在進行形の「トランプのアメリカ」にも通じる一本として、今まさにこの時代に観ておくべき映画でありましたね。さあ、世界はいずこへ向かうのか? それもまた我々次第ということを忘れないようにしたい。

”メイルストロームへ”『虐殺器官』


「虐殺器官」予告映像

 伊藤計劃原作!

 途上国で起きる謎の紛争と虐殺。その影に必ず現れるジョン・ポールという男の正体を追い、米軍特殊部隊のクラヴィス・シェパードはチェコに潜入する。全世界を覆ったID網の抜け道であると言われるチェコで、クラヴィスは「虐殺の王」と相対するのだが……。

 製作会社が傾いて頓挫していたそうだが、ようやく完成して公開。が、特に話題にもならずにひっそり終わった感あり。やはり旬は過ぎていたのか? その旬というのは、要は原作者が亡くなった頃かもしれないので、そんなピークが過ぎ去ってから公開というのは、ある意味フェアというかなんというか……。

 『ハーモニー』と同じく、映画を観てから原作を読むパターンにしてみたが、今作の方が金もかかってビジュアルも頑張っている反面、遠目になったら作画が急に手抜きになったりと、いかにもアニメらしい表現も目に付いた。そう言えば、村瀬修功の名前もひさしぶりに見たような……。『ハーモニー』の前日談として、かの作品において語られた「大災禍」の発端、として観てもいいし、特に関係のない独立した一本として観ても別にいいかな。ただまあ、続きものとして観るならやはり発表順に観たかったし、映像的にももう少し共通点があっても良かった。

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 後で原作を読むと補完されたのだが、映画版では主人公の死生観の部分、亡き母親との夢での対話などがごっそりカットされている。お話の進行上、それで何か欠けて見えるかというと、一見そんなことはないのだが、終盤に主人公が下す選択の重要なファクターでもあるため、これがあるかないかでは実はえらい違いである。

 おかげでどうにもダイジェスト感覚が拭えず、要素をカットしつつも独自解釈で補った『ハーモニー』よりも一枚落ちるかな、という印象にとどまってしまった。少々残念なところでありますね。

 さて、『ハーモニー』より前に作られた『屍者の帝国』も録画したので観られるわけだが、これもすごい不評なんですよね。さあ、どうするかな……。

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今日の買い物

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 公開時の感想。
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”妹の恋人”『愚行録』


映画 『愚行録』予告編【HD】2017年2月18日公開

 貫井徳郎原作!

 理想の夫婦と言われた田向家で起きた一家惨殺事件。容疑者の目星もつかないまま一年が経ち、事件は風化しようとしていた。幼児虐待で収監された妹を抱える週刊誌記者の田中は、田向家事件を再び追い始める。だが、関係者を訪ね歩くうちに浮かび上がってきたのは、夫婦の意外な素顔だった……。

 まあまあ人気はあると思うんだが、叙述トリックが多い作家なので、映像化はあまり多くない。ドラマは何本かあったが、劇場映画化は今作が初ということになる。今作は直木賞候補にもなった一本で、『修羅の終わり』やら『空白の叫び』ほどのボリュームもなく、さらっと読めた。

 育児放棄し娘を瀕死にさせて収監された妹・満島ひかりを持つ兄・妻夫木(職業:週刊誌記者)が、一年前に起きて犯人の挙がっていない、ある一家惨殺事件を追うというお話。関係者へのインタビューの連続で構成され、ドキュメンタリーを作る過程を追っているかのようにも見える。

 原作はすべて語りで構成されているので、そのまま映像化するとすべて台詞で説明するような格好になるのだが、映画は脚色して第三者的な登場人物を増やし、映像で見せていく。なかなかスマートに映画化されているな、と思ったが、いじり過ぎて不自然になっているところも……。また、大学時代と30代半ばを同じ役者が演じてるのも、さすがに無理があったな。まあ演出を考えるとやむを得ないわけだが……。

 『ユージュアル・サスペクツ』のパロディで賢さと底意地の悪さをアピールするオープニングから登場するブッキー。『怒り』のウェットな役柄とは正反対に、笑み一つ浮かべない何を考えているかつかめないキャラクターを好演。妹役の満島ひかりも、少々やりすぎなんじゃないかというぐらいの演技と存在感で、このキャラクターの悲哀を表現してみせる。
 対して他のキャラは良くも悪くも「ミステリ」的というか、役割分担でしかないキャラ付けが肝。小出恵介の人間のクズ演技も含め、浅いと言えば浅いのだが、そのキャラ設定の浅さを逆手にとって「あまりに愚かしく悲しい人間たち」としちゃうところがなかなかアクロバティックだな、と思う。
 が、なんで貫井徳郎を読まなくなったかと言うと、web日記やもうなくなったTwitterアカを見ていたら、どうもこれを何か本当に深いことを書いているつもりらしい、と気づいてしまったからなのだがな……。それが露骨に出て本当に気持ち悪かったのが『乱反射』である。

 さて、じゃあ嫌いな映画かと言うとまったくそんなことはなく、このブッキーのキャラクターには好感しか抱けない。責任感の塊のような性格で、凄まじいまでの「暗黒の行動力」の持ち主。過ぎ去ったことを過去のことだからと得意げにペラペラとしゃべっていたら、いつの間にか彼奴が忍び寄っているのだ……。

愚行録 (創元推理文庫)

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慟哭 (創元推理文庫)

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”うちは、ぼんやりしとるけん”『たかが世界の終わり』


『たかが世界の終わり』予告編

 グザヴィエ・ドラン監督作!

 12年ぶりに故郷の生家へと帰って来たルイ。帰郷の目的は、自らの死期が迫っていることを家族に告げるため……。浮かれる母、そっけない兄、幼い頃しか知らない妹、初対面の兄嫁。ぎこちなく会話を交わしながら機会をうかがうルイだったが……。

 今回は主演してない天才ドラン。代わりの主演は『サンローラン』でもキレッキレだったギャスパー・ウリエル! やたらとドランに寄せたメイクと演技で、顎が割れてるドランに見えるよ。さらにヴァンサン・カッセル、マリオン・コティヤール、レア・セドゥと豪華キャスト。オリジナルは戯曲で、その映画化ということ。

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 死期が迫っているらしい次男が、長い間疎遠だった生家へと帰り、母、兄、義姉、妹と対面。兄嫁と会うのは初。兄の子供は嫁実家に預けられていて不在。
 母親と、子供の頃から会ってなかったレア妹ははしゃぎ気味なのだが、ヴァンサン兄が大変不機嫌で、間に立って困惑気味なマリコ兄嫁。前半はこのマリコの「家族」だけにわかっている空気の中に入り込めてない感じが最高ですね。
 場をもたせるために、ウリエルに子供の写真を見せるマリコ。説明をしてたらヴァンサンが突然怒り出す。「そんな話しても弟が迷惑なだけに決まってるだろ!」 いやあ、意味がわからない。まあ実際、そんなに面白い話ではないかもしれないが、お互い普通に話を合わせているというのに。「どうしてそういうこというの……」と戸惑うマリコ。
 その後も、姑の話で笑ってたら、またヴァンサンが切れる! 「その話、もう百回は聞いたよ!」 そう言えばうちも家族でつい同じ話をしてたりして、「この話、前にもしたっけ?」と言ったら母親が「落語みたいなもんで、何回聞いてもおもろいもんはおもろいねん」と言っていたな……。

 おっとりしてて、空気読むの半分、天然半分と言った風情のマリコが実に好演で、今にも「うちは、ぼんやりしとるけん」とか言い出しそうで怖い。この順応っぷりと、それでもなお家族間の深いところは読めない感じが、まさにすずさん。「嫁」はどこの国にもいるのだ! 『マリアンヌ』の凄腕とは対極のキャラで、非常に良い演技でありました。

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 後半はヴァンサン・カッセルの独壇場で、弟と全然話の合わない兄像を大熱演。都会でシャレオツな仕事についているゲイの弟が、もう何から何まで気に入らない。「カフェ」という単語を聞いただけでブチ切れるレベル。『トム・アット・ザ・ファーム』でもそうだったが、ドランにとって「兄」というのは相当やっかいなもののようだな……。傷ついた拳から、暴力的なのか自傷的なのか(まあこの二つは同じものなんだけど)が伺え、恐ろしくもあるし可哀想でもあり……(ベスト・ハズバンド度:0点)。

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 対して妹のレアちゃんは、都会っ子になったウリエルが羨ましく、結構懐いてくる。ちょっとハイすぎる感じがつらいのだが、今回は妹キャラを貫徹し、いつものレア先輩キャラを封印。むしろ後輩、いや妹。

 お話はこの家族間の人間関係を会話劇でじっくり見せ、ほぼそれのみ。三幕構成の二幕目に入った瞬間に終わるような感じなのだが、これはこれで一つの結論だな……。正直、帰る前からこうなるのをわかってたけれど、実際帰ったらやっぱりそうだったよ、と言うような……。

 観ている間はかったるいところも多いが、後から考えているとじわじわくる、そんな感じの映画でした。まあ演技合戦だけでも十分楽しめますよ。

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マイ・マザー(字幕版)

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