”人事を尽くして天命を待つ”『オール・イズ・ロスト』


 漂流映画!


 男は馴染んだヨットの船室で、浸水の音によって目覚めた。外洋を漂っていたヨットが、海に投棄されたコンテナにぶつかり座礁したのだ。懸命に浸水を防ぎ修理に当たる男だが、彼方から嵐が迫っていた……。


 昨年は『ライフ・オブ・パイ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130201/1359628959)で虎と一緒に漂流したり、『ゼロ・グラビティ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20131224/1387885093)みたく宇宙で漂流してしまう映画もあったが、今作はロバート・レッドフォードが正真正銘、たった一人で淡々と漂流し続ける映画。ほんとに登場人物が彼一人だから驚いてしまったよ。ほぼ台詞はないし(吹替版の海老蔵は楽な仕事だったな……)、バックボーンも語られない。いや一応最初に、「家族へ。私はおまえ達に向き合わない、不誠実な人間だった……」みたいなことを言ってるモノローグが流れ、それはおそらく映画の後半で書いていたらしい手紙なんであろう、ということが示唆されるのだが、何だか実に取って付けたよう。あまりに他の情報がないので、あのモノローグがなければ、単に遊び人の小金持ちの爺さんがフラフラと道楽ヨット旅行していて事故った自業自得みたいに取られかねないから、エクスキューズとして入れたのではなかろうか。


 あり得ない海域でのありえない座礁が起き、ヨットに大浸水したところで目覚めるレッドフォードさん。いや、これが主人公ウィル・スミスだったら「holy sit !」を皮切りに延々と一人で悪態をつきまくり文句タラタラ、犬でもいようものなら延々会話をするところだったであろうが、そこはレッドフォード。もう慌ててもしようがないので、一言も喋らずに淡々と修理&水のくみ出し。一人で終始作業しているものだから、船の知識がないこちらは何をやっているのかよくわからないところも一部あったりして、きっとリアリティ溢れる描写続きなのだろうな……。
 作業している感じから、使い慣れたヨットでそこそこ航海の知識はある、けど機械なしでは難しいから空を見ての航海は付け焼き刃で勉強してる、などの情報は得られる。で、中盤までジリジリしつつ見守ったのだが、ここまでこの主人公、ミスをしないのだな。非常に的確な判断を地味に積み重ね、淡々と着実にヨットを航海出来る状況まで戻して行く。不平も不満も言わず、不安を押し殺して、自分にできることを諦めずにやり続ける姿に、ああ、ロバート・レッドフォードってやっぱりヒーローだな、と思いましたよ。一緒にいるならこういう人にいてほしいし、一人ならばこの人のように頑張り抜きたい!


 が、嵐は無情で、そんな努力も虚しく、ついにヨットは沈没。一回転する映像は面白かったね。レッドフォードさんは持てるだけの食料や真水を持って救命ボートにダイブ! とりあえずは助かった、と思ったが、真水を溜めた、と思っていたポリタンク、実は底の栓が抜けていて、全部海水が混じっていたのであった……。飲んでみて一回、ブッと噴き出したけど、一応二回目飲んでみて、やっぱり噴き出して、数秒置いて溜めに溜めてついに「Fuck !」が飛びだすところが最高。そこまでせっかく的確な判断を積み重ねて来たのに、ここに来て非常にケアレスミス的な初歩の失敗をしてしまったショック! でも、あんまり乱発せずに、ここまで我慢に我慢を重ねて飛び出すからこそ重みがあるんだなあ。


 何度か船が通りかかるんだけど、でっかくて荷物を大量に積んでいて人影さえ見えないのが悲しい。二隻目はなんか既視感溢れるデザインで、いやはや、『キャプテン・フィリップス』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20131221/1387608695)も海賊ばかり気にしてないで見つけてくれれば良かったのにね! 果たして三度目の正直、ということわざは信じるに値するのか?


 まあ面白さで言うと、やっぱり『ライフ・オブ・パイ』なんかの方が面白いんだけれど、漂流を体感する映画としてはマストの出来映えであった。そう考えると、あんまりヒューマンなキャラクターや物語性を付与しないのも、計算づくのことだよね。