”パンはいかが?”『アイ・イン・ザ・スカイ』


映画『アイ・イン・ザ・スカイ』予告編(90秒)

 ドローン映画!

 英米合同で行われるテロリスト逮捕作戦。ドローン偵察機が容疑者を捕捉するが、事態は想像を超えて早く進行する。新たな自爆テロ計画が企てられるのを発見した軍は、逮捕から殺害に切り替え、ドローンによる爆撃を行おうとするのだが……。

 ドローンと言えば、イーサン・ホーク主演の『ドローン・オブ・ウォー』がなかなか見応えのある快作でしたが、かの作品がアメリカのドローン作戦と操縦者に絞って描いていたのに対し、今作はイギリス主体の共同作戦を政治レベルの話から描く、また視点の違う話。

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 対テロ作戦の容疑者を追うイギリス軍と諜報機関が逮捕作戦を展開中、タイミングを失って敵勢力の支配地域に入り込まれてしまう。逮捕に部隊を送り込めば血みどろの地上戦になる、じゃあドローンで監視だ……ということになるが、あれよあれよと言う間に他の容疑者やテロ組織の幹部も集まり、目の前で自爆テロの爆弾の準備を始めてしまう!
 もう逮捕とかやめやめ、今、ぶっ放して全員殺そう! 今やらないと犠牲者が大量に出るよ!と主張する軍に対し、作戦を主導する外務大臣他、政治家の意見は割れる。まだ逮捕に未練はあるし、もろに街中なのでミサイルをぶち込むと大被害。そもそも責任はどこが持つ? いや情報は流出しないから……でももしか漏れたら?
 標的にアメリカ人がいるので、判断をアメリカに投げたら「撃て! 即撃て!」とまったく迷いなし。しかしイギリスは苦悩するのである……。
 そうこう言ってる間に、裏の家に住んでる子が、標的のいる家の塀の外でパンを売り始める。巻き添え必至! 関係ないが、ビジネス街を昼時にほっつき歩いてて、路上の弁当売りが片付けしてるのを見るとホッとするようになっちゃったよ。

 延々と会議と綱引きが続き、これだけでも「即撃て」が常態化する『ドローン・オブ・ウォー』との対比になるのだが、そのままイギリスとアメリカの対比にもなっている。責任の押し付け合いで煮え切らない、と言えばそれまでだが、文民統制と、議論して決定する文化がまだ生きている証拠でもあり、拙速な決定を避け一人の人命をも尊重しようとする意志は決して否定されるべきではない。
 映画の視点はどこにも過剰に寄り添わず、意見を出す者から直接決定に関わらない者までバランスよく描き続け、観客の心理を揺さぶり続ける。結末はあくまで苦い……。

 これが遺作となったアラン・リックマンら、役者陣も好演で、『キャプテン・フィリップス』のバーカッド・アブディさんが「アイム007ナウ」と言って(嘘)、現地で大活躍するのもよし。「主役」であるドローンだけでなく、ハチドリ、カブトムシ型のカメラにも驚かされましたね。もう「トリィ」は現実化しておるのか……。

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 「オバマの8年」が終わった今まさに観ておくべき映画ですね。後で公開の『スノーデン』と合わせて観てもより面白いですよ。

「トリィ」?キラ・ヤマト編

「トリィ」?キラ・ヤマト編