”彼女は振り返る”『ラ・ラ・ランド』(ネタバレ)


「ラ・ラ・ランド」本予告

 デミアン・チャゼル監督作!

 関係者も訪れる映画スタジオのカフェで働きながら、女優を目指すミア。だがオーディションは落ちてばかり。ふと立ち寄ったバーで、演奏直後にクビになったセブというピアニストと出会う。彼の店は自分のジャズバーを持つこと。やがて恋に落ちた二人だが、セブに転機が訪れ……。

 直前に映画祭で延々歌いっぱなし踊りっぱなしのミュージカル映画を観て、かなりうんざりしていた。いや、オレ、ミュージカル映画って苦手なのよね……。「愛してるよ」の台詞一言ですむところを2分ぐらい歌って踊ったりされると、かったるくてかったるくてつらいんだ……。特に脇役にしゃしゃり出て来られると……。
 ただ、今作の場合は歌と踊りのシーンは実のところ分量も少なめ、四章構成にしている分、プロットの引き伸ばし感もないし、各シーンもあれだけカメラを振り回せば、そりゃあ飽きないな、という感じで、まずまずの好印象であった。

 見終わって思ったのは……なんかこれ『秒速5センチメートル』に似てねえ? 章立てで恋愛もので、なかなかのウジウジ感が通底しているあたり……。別れてからメール交換とかやってなくてよかったわ。
 『セッション』の童貞に、まさに毛が生えたかなというぐらいのライアン・ゴズリングの独りよがりなキャラクターが、いい意味でも悪い意味でも「夢を追う男」という感じで面白い。ポップミュージックで成功するぐらいのルックスと才能はあるんだけど、ジャズがどうとか言ってオタク的な趣味の世界を実現したい変人。

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 女優になりたいエマ・ストーンのヒロインは、オーディションからのまっとうな女優デビューを目指して失敗を繰り返している人で、実は交わらないし何も共有するはずがなかった二人だったのでは、という気がする。
 そんな二人が出会い、「いやいや、そんな店の名前じゃ誰も来ないっしょ」「自分で舞台でもやった方がいいんじゃない」とか言い合った挙句にサクセスストーリーが生まれる、まさに化学反応が起きると言う展開、まあ恋愛に留まらず人間関係の醍醐味でありますね。
 なんだけど、舞台や脚本を勧めたゴズリング自身が大遅刻してその肝心の本番を見ないという情けなさ。これは続かないな、ということもため息まじりに語られる。

 甘いと言えば甘いのだが、「フォトショップ」呼ばわりされるゴズリングの存在そのものの嘘っぽさに対し、エマ・ストーンのリアルさに救われている。女性キャラが書き割りだったら、これはイケメン使った独りよがり映画との批判を免れないと思うが、彼女のスター然としない親しみやすさと生の存在感のおかげで、広範な支持を得られたのではないか。

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 キャッチコピーの「夢を見ていた」の夢とは、ジャズバーを持つことや女優になるという、いわゆる「アメリカン・ドリーム」的なことじゃなくて、束の間二人で過ごした時間と、もしかしてその延長線上にあったかもしれなかった幸福を指していたのだな。作中でもちらと言及された『カサブランカ』における「パリ」と同義で、それを胸に二人はそれぞれの道を歩んでいくのだ……というカサブランカニズムですね。
 ラスト、ステージ上で大爆発する妄想が、出会いから何から美化されて子供までできてることになっているのだが、我々観客が「いやいや、ないないない」と突っ込むまでもなく、自分が自分の店にやってくるというパラドックス、論理破綻によって現実に、我に還るという展開はなかなか面白かった。

 まあでも、あそこはやっぱりエマ・ストーンだからこそ、ちゃんと思い出して振り返ってくれるのだ、という絶大な信頼感。『秒速5センチメートル』ではヒロインは振り返らず、彼女はもはやあの美しかった日々を綺麗さっぱり忘れ去ってるよ、シクシク……という自己憐憫的な結末になるのだが、そこを嘘っぽくなく振り返って、まあ私それぐらいの「情」はあるし、あの頃共有したものがなくなったわけじゃないよ、ということを示す。
 ゴズリンが、かつて言われたように店の名前を変えて、あれだけの店の場所へのこだわりも捨てて成功したというのは、やっぱり彼女の残したものであり、彼の方はまだ独り者であることも含めて未練というか湿っぽさも大いに感じるのだけれど、それをキモいと思わず受け止めてくれる。その大らかさ、若干のかっぺくささ……それがやっぱり「俺たちのエマ・ストーン」だよな……という、またちょっと気持ち悪いイメージそのままで、いいじゃないですか!
 女優によってはチラ見ぐらいで出て行く人、一顧だにしない人など色々とイメージがありそうね。キーラ・ナイトレイなら、まさにチラッと見ただけで出て行きそうだし、キャリー・マリガンは振り返らずに出て行った後、外で一筋の涙をこぼすかな。エレン・ペイジだったら人を食った感じで中指立てそうだが……。

 無論、『君の名は。』のように再び結ばれることもないわけだが、ありとあらゆる恋愛が成就するわけじゃない。多くは破局し、泡と消えていく。だけど、互いの人生に無意味でなく大きな影響を与え、別れた後もかつて共有したものの欠片を一瞬とはいえ確かめあえた、というのは、とても良い恋愛であったと言えるのではなかろうか。

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 映画を見終えてから、録画してあったアカデミー授賞式を見たら、やっぱり候補作を一回見て多少なりとも思い入れがあると式の進行へののめり込み方が全然違うな、と再確認した次第。で、監督賞を受賞したチャゼ郎くん、スピーチで妻への感謝を述べるが、明らかに元カノの話なので「愛の映画ですが……なんかすいません……」と若干後ろめたげに見えたのもナイスでしたね!

 さて『セッション』(パイロット版)=『ほしのこえ』、『セッション』=『雲のむこう、約束の場所』、『ラ・ラ・ランド』=『秒速5センチメートル』ということになると思うが、そうなるとチャゼ郎くんには、次に『星を追う子ども』に当たる作品を撮って大惨敗を喫するという未来が待っていることになるな。そして『言の葉の庭』っぽい小品を撮って足がかりを作り、また一皮むけて『君の名は。』的な大ヒットを飛ばす……さあこの予言は当たるのか否か……?