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”物事には限度があるのです"『トム・アット・ザ・ファーム』


 グザヴィエ・ドラン監督・主演作。


 恋人ギヨームの葬式に、彼の生家へとやってきたトム。だが、ギヨームの母親は彼の存在さえ知らず、恋人はサラという女だと思い込んでいた。ギヨームの兄フランシスはトムを恫喝し、ゲイであることを隠し単なる友人として振舞うことを強要する。暴力を恐れ、調子を合わせていたトムだったが……。


 噂の天才の新作はサスペンスだそうで、これは初めて見るにはちょうど良かろうと思い、観てきました。


 亡き恋人の葬式に来たところ、彼の兄ちゃんによって単なる友達ということにされてしまい、脅されてその芝居をし続けることに。そりゃあ大変だが、葬式が終わったんだから逃げればいいんじゃないの、というところで、なぜか居残ってしまう。
 兄ちゃんは母親に対し、死んだ弟ギヨームがゲイだったことを頑なに隠しているのだが、それが田舎の保守的な価値観であるということ以上に、未だに独身で母親と二人で暮らしているこの兄自身が超ゲイっぽい。言うことがいちいち言い訳がましく、ナルシーな感じが漂っているし、ゲイに対する過剰な嫌悪と暴力を絡めた反発は、まさに認めたくない人そのものなんである。さらに、弟の方が母親に愛されていて、しかも母親は彼がゲイであったことを知らないということが、また重くのしかかっている。


 主人公が暴力を振るわれながらも、農場に残ってしまうのは、ストックホルム症候群的でもあるし、共依存的でもある。さらに、彼や死んだ弟ギヨームのようにある程度ゲイであることをオープンにしている解放された人間にとっては、この兄ちゃんのようにバレバレなのに強がって誰にも気付かれてないと思い込もうとしているのは、自分さえも騙そうとしている可哀想な人として、同情の対象にもなるのだな。
 兄ちゃんは母親に弟のことを本当はバラしたいし、農場から逃れて自由になりたがっている。だけど、自分の性癖を明らかに出来ない彼は、結局のところ本当の意味では自由になれないのだ。


 戯曲原作と言うことだからか、寓話の立て方がわかりやすい。エンドロールの歌では、アメリカによる他国への抑圧が歌われているが、兄ちゃんがUSAジャンパーを着ているのがまさにそのものずばりで、アメリカ=マッチョによるカナダ=ゲイへの抑圧感がひしひしと……。


 主人公は死んだギヨームの恋人、という設定なのだが、ある家族の中に他人の立場で突然飛び込んでしまう人という立場でもあり、彼自身の物語が語られないこともあって、狂言回し的なポジションにもなっている。どこまでも当事者ではなく、ラストにはついにその立場を放棄して去る。エンディングテーマからは、彼がまた別の抑圧された地へ向かうことが示唆されているが、こんな感じでシリーズ化しても面白いかもしれないね。


 エンドロールを見てると、そこら中にグザヴィエ・ドランの名前が出てきて、何役も何役もこなしている。その多芸な天才性はもちろんであるが、現場中を吹っ飛び回ってあれこれやって回るフットワークの軽さと若さ、そして何より映画が好きなんだということを感じたものである。
 バーテンダー役は実のお父さんだそうで、そんな息子の手伝いを買って出ている感がいいですね。


 しかし、今作のラストも素晴らしいのだが、なんとなく先日カナザワ映画祭で見たバーホーベン監督の『スペッターズ』を思い出したよ。あれにも、親の抑圧によって自身をゲイと認められない青年が、ゲイを襲って暴力を振るい金品を奪うという設定があった。あの展開がそのまま使えそうだな。グザヴィエ・ドランが兄ちゃんのおカマを掘って、お母さんが部屋に入ってきたら二人でベッドに寝そべってて、きゃーっとなったりしてね。偽サラの子に「何したの!?」と言われ「犯してホモにした。もともと素質があったからな」とドラン君が言い放ってたら、もっと面白かったかもしれないね。そして町を去っていく素晴らしいエンディングへ……!

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