”夫として、武術家として”『イップ・マン3』


《叶问3》英国、爱尔兰1月14日上映

 香港で鑑賞!

 「ツイスター」との死闘から数年。イップ・マンは妻と次男とともに香港で暮らし続けていた。ある日、息子の通う小学校が地上げ屋に襲われていたことから、用心棒として一肌脱ぐことになったイップ・マン。同じく息子を学校に通わせている武術家チャンと共に、チンピラたちを蹴散らす。同じ詠春拳の使い手であったチャンと友誼を結ぶイップ・マンだったが……。

 中国、台湾などでは昨年冬から公開しているシリーズ完結編。たまたま香港旅行の日程と重なったので、現地で見て参りました。香港の映画館は朝が値段安くて低音がすごくて冷房が効き過ぎで地元の人はうるさくて……まあそういうところも含めて映画体験ですね。
 字幕は英語と北京語両方出ているので、ないに等しい語学力を結集し、話の流れでかろうじて意味を理解……できたはず。まあだいたいは……。ただ、細かいところになると全然わからない。ドニーさんが奥さんに「こんな面白い話があってさ……」みたいなことを言ってたところは何一つ理解できなかった。早く日本公開決まってほしいよ!

 少林サッカーのキーパーの人がブルース・リー役で登場し、ドニーさんの前で蹴りのパフォーマンスを見せるのがオープニング。「悪くない」といなすイップ師父。パロディ役を演じた人がついに本物役かあ、と思っていたのだが、この後の出番があまりなく、ブルース・リーが誰かと戦うというシーンは一切ありません。あまりにブルース・リーの出番が少ないので、一作目でも二作目でも必ずブルース・リーで締めてきたけど、イップ・マンの人生に実は大して関係なかったんじゃ疑惑が立ち上ってくるんだよな……。

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 『2』から数年後という設定なので、長男は成長し……ていたはずなのだが、遠くの学校に行っていて登場せず。代わりに次男が、前作の長男ぐらいの年齢になっているので、ぱっと見の家族構成が変わっていないように見えるマジック。同級生と殴り合いの喧嘩をして親が学校に呼び出され、イップ師父は息子を諭して和解させる。迎えに来た相手の親は……マックス・チャン! 『グランドマスター』でチャン・ツィイーと死闘を演じたマー・サン役だった人で、ユエン・ウーピン組のスタントマンであり、ドニーさんのスタントも務めた経歴あり。
 このキャラクターがぱっと見でいいやつかどうかわからないように設計されている。父子家庭で、自分のことを息子に師と呼ばせていたりして、若干危ない感じがあるのだが、別段暴力を振るったりするわけではない。そして流派は詠春拳……おお……イップ師匠とは別の門派か?

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 お話はこの子供達の通う学校が地上げに会うところから展開。序盤がイップ師匠VS地上げ屋のチンピラなので、この調子で良かったら『イップ・マン4』でも『5』でも作れちゃうんじゃないかな、とちょっと思ってしまった。対日本、対イギリスという、国の威信を賭けるようなテーマは今回はないので、スケールダウンは否めないのではないか?と危惧したところ。

 しかしそんな心配をよそに、今回は量で勝負!なのか、ファイトシーンがつるべ打ち! 台詞が読み取れない当方のために増量してくれたのではないか、と錯覚するぐらいにバトルバトルバトルバトルの連続。今回は武術指導がユエン・ウーピン老に代わり、正直、すごく斬新な動作があるかというとそれはない……。が、おなじみのワイヤーによる挙動、棒の先が壁を穿つ「あっ、ワンチャイ!」と言いそうになる棒術シーンなど、多彩なファイトシーンを組み合わせ、言わばオーケストレーションのような幅の広さを出している。ユエン・ウーピンオーケストラ、ソロ奏者ドニー・イェン演ずる、交響組曲イップ・マンですね(ここで出すのもあれですが、音楽は川井憲次)。

 地上げ屋のバックにいる暗黒街の大物がマイク・タイソン! 当然ボクシング超強いということで、いったいどんな設定なんだと首をひねってしまうが、無理に整合性のつきそうな設定を考えるより、この人の正体はこの時代の香港にタイムスリップしたマイク・タイソン本人なんだ、と思っておけばいいかな。タイソンの顔色をうかがう地上げ屋があの手この手で学校を守るイップ師父に仕掛けてくるあたりも見所。そしてそこの賭け試合で金を稼いでいたマックス・チャンもまた、自らの武館を開く金のために闇討ちに手を染めることに。さらにタイソンに怒られた地上げ屋は自ら雇ったムエタイファイターも投入してきて……なんなんだ、このバリエーションはいったい! 前作の苦戦も引きずって、やっぱりイップ師父はボクシング苦手だな、とも思わせる。

 非シリーズの関連作品である『イップ・マン 誕生』の際に、詠春拳で殺陣をやるならば、最も噛み合うのは実はVS詠春拳である、と語られていたのだが、今シリーズのラストではついにそれが実現することに。二人の使い手が合わせ鏡のように動くシーンは、やはり長年ドニーと組んできたユエン・ウーピンが、彼のスタントも務めたマックス・チャンを起用したならではのものだったな。

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 さらに関連作品『イップ・マン 最終章』においては、実話に基づいて、決して幸福とは言えなかった妻との関係が描かれていたのに対し、今作ならではの決着を見せる。いや、史実では離れ離れに暮らしていたのは間違いないのだが、このシリーズではあくまでこうだったんだよ!という愛妻家イップ・マンのキャラを確立させ、第一作からの成長として描く。
 奥さん役はいつもの人だが、この人のモデル体型は、やっぱりドニーさん自身の奥さんのイメージなのであろうか。武術対決を避けてまで奥さんとのダンスにこだわったイップ師父に、かつて製作に失敗し貧乏暮らしを強いられたドニーさんの過去と現在が重なる……。でも奥さん側からの武術(映画作り)してるあなたが素敵、みたいなメッセージもあり、そんなこと家で言いなさいよという惚気に満ちているね。

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 最後は「一代宗師」で締めなので、言わば『誕生』『最終章』『グランド・マスター』という近年の関連作品全てに回答しているような格好になっている。序盤こそスケール小さいんじゃないかと心配したが、徐々にシリーズならではの深みと風格を発揮し、堂々の完結編として仕上げて見せた。

 まだ多分、細かいところが読み取れていないので、早いところ日本語字幕付きでもう一回観たいものである。そんなわけで、ぜひ日本公開をお願いします!

イップ・マン 序章&葉問 Blu-rayツインパック

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