”おい、弼馬温!”『モンキー・マジック』


 2015年ドニーイヤー、三本目!


 天帝の率いる天軍と、牛魔王率いる妖怪の群れが激突。天帝は戦いに勝ち牛魔王を放逐するが、天界は大きく損なわれた。女神が自らの肉体によって修復する中、地上に落ちた一欠片が石となり、そこから一匹の猿を生む。後の孫悟空である。その類稀な力と才能を見出された猿は、仙術の修行を始めるのだが……。


 主人公はドニーさんですが、全身特殊メイク済みの猿役ということで、いわゆる俺が俺が俺がのすぐ脱ぎたがるドニーさん的文脈からは、かなり……いや史上もっとも遠いところにある映画ですね。つまり別にドニーさん主演じゃなくてもいいんじゃ……。ここまでドニー指数の低い映画が果たしてフィルモグラフィーの中であっただろうか。ただまあ、孫悟空というキャラクターの「乱暴」で「自信過剰」なところは、意外にドニーさん的キャラに近いのかもしれませんね。


 さて、石から生まれた孫悟空が、妖怪の中でも頭角を現し、仙術の基礎を習った上で暴れまわる……という展開、うーむ、オリジナル『西遊記』の筋をしっかりなぞっているではないか。いや、正直、ここまで真面目な代物とは思わなかった……。牛魔王のキャラクターなど、現代的に恋愛もの要素など入れてアレンジしている部分はあるが、概ね忠実な筋。昨年のチャウ・シンチー版(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20141204/1417697888)は原典にリスペクトこそ感じたもののオリジナルの物語であったのに対し、これこそ「はじまりのはじまり」ではないかね。昔読んで以来、数十年ぶりに「弼馬温」の単語を聞いたのでびっくりしてしまった。天界に攻めのぼった悟空が、帝に与えられる官職なのだが、要は馬丁なのよね。これは後々悟空が妖怪と対峙した時、幾度となく「弼馬温めが!」などと発せられ、彼を怒らせるマジックワードになるのである。他にも原作のエピソードがてんこ盛りで、思いがけずノスタルジィに浸ってしまったね。


 派手派手なCGを大量に使っているが、原作にも漂う童話的なムードにしっかりマッチしていて、意外にも好印象。そんな中でドニー猿とチョウ・ユンファ天帝、アーロン・クォック牛魔王が大激突。そうそう、三蔵法師が出てくるまでが実は結構面白いんだよね。人間にペコペコする話なんてめんどくさいやん。
 こういう原典に対する誠実さはそれだけで「買い」であり、リスペクトの対象になるな。もちろんそれが映画としての面白さに直結しているか否かは重要だが、この出来ならば全く問題なし。


 しかし武術指導ドニー、主演ドニーなのにも関わらず、いつものドニー映画要素はやっぱり皆無。途中、ドニーさんの存在を時々忘れたわ……。ある意味、『イップ・マン』シリーズ以上に役になり切っていたと言えなくもないな……。チョウ・ユンファとの初共演がこんな形になったのも意外である。
 これでドニーさんは『三国志』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120119/1326956879)と『西遊記』に出たわけだから、何とかして『水滸伝』にも出ないものかな。『金瓶梅』で武松役なんかやれば、一気に四大奇書を制圧じゃないかね。

西遊記(10冊セット) (岩波文庫)

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