”その音が聞こえる”『残穢 住んではいけない部屋』
小野不由美原作!
実録怪談を扱う小説家のもとに届いた、久保という女子大生からの手紙。それは、彼女の住む部屋に何かがいる、という内容だった。幾度かのやり取りの後、調査に乗り出した作家は、そのマンションに住む住人の何人かが怪死を遂げていることを知る……。
いやあ、昔はよく読んでたよねえ。『悪霊』シリーズ、『十二国記』、『屍鬼』、『東亰異聞』、『黒詞の島』……。長らく本出てなかったけど、ここ数年また何作か出していて、その一冊がこの『残穢』。最近、『呪怨』とか『劇場霊』を総スルーしてたので、ちょっと和製ホラー成分も補給するべ、ということで観てきました。
冒頭、「夜中にトイレに行ったらそこで……」という怪談話が語られ、「うわっ、ビジュアルしょぼいな。でもこれを踏み台にして、こんなもんじゃない真の恐怖を描くのだな」と思ったら、大オチも同じだったので逆にひっくり返ったわ。しょぼくてもしょぼくなくても、とりあえずバン!と見せる、のは、『リング』『呪怨』以降のトレンドだと思うが、見せない方がいい時だって多いんじゃないだろうか。
そういうわけで、最後は「やってしまったな……」という気持ちにさせられたけど、途中はまずまず面白かった。竹内結子演じる「作家」、おそらく小野不由美自身が、女子大生橋本愛の手紙で語られる怪談の謎を追う。なかなか整合性のある解釈は浮かび上がってこないのだが、途中から一転して、全てが一つの巨大な伝承へとつながっていくのが見えてくる。
小野不由美の小説の特徴だが、最初は必ず日常の小さな異変から始まるのだよね。それ自体はごく小説のテクニックとしてはごく普通のことなんだが、それがつながっている先の世界観が思いの外大きく、さらに突然その全貌を現すので衝撃度が大きい。その肌触りをひさしぶりに思い出したよ。
作中にも登場する「小説家の夫」、これは綾辻行人だが、彼の書くホラーの限定された世界観の中に絵画のごとく描き込んでいくようなテイストとは対照的で、非常に広大に感じられるのだよね。どちらがいい、というわけではなく。
その際限ない拡大に登場人物自身が恐怖を覚え始める、という流れも心地よく、それがまた「触れてはならないもの」の説得力をいや増しにさせるのである。
まあ個人的には、自分がまったく霊現象に遭遇しないこともあって、全然怖いとかは思わなかったわけだが、マンションの近所のおばちゃんなど、そうした「絶対に見えない人」にも触れているのが面白い。平山夢明さんがニヤニヤしながら話せば祟られる、と言うが、気づきもしない人には何の力も及ぼさないのだ。
うちのマンションもちょいちょい死人は出ているが、幽霊は出ていない(はず)。アル中でぼけたおじいちゃんやメンタル病んだ女性は、必ず「部屋に誰か入っている!」と言うものだけど……。
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