”バーコードの奥に”『ブラック・スキャンダル』
ジョニー・デップ主演作!
サウスボストンで育ったジェームズ・バルジャーはギャングに。その弟ビリーは政治家、幼馴染のジョン・コノリーはFBI捜査官になっていた。法以上に強い仲間の絆を信じるコノリーは、バルジャーの敵であるマフィア撲滅のため、取引を持ちかける。情報屋となったバルジャーはあらゆる犯罪を見逃され、次第に勢力を拡大していき……。
デップさんがハゲてる!ということばかりが話題になっている映画。実録物で、監督は『ファーナス』のスコット・クーパー。
数十人を殺した超大物マフィア、ジェームズ・バルジャーが急激に勢力を伸ばした70~80年代を、その原因であるFBI捜査官との癒着を絡めて描く。FBI捜査官はバルジャーデップの弟カンバーバッチの幼馴染、ジョエル・エドガートン。地元マフィアを追い出して手柄を上げるため、デップさんの安全を計り、代わりに情報を得る……んだけど、途中から完全にデップさんのために働いてるような格好になってくるのだよな。
デップさんの出してくれる情報は決定的なものもあったけれど、ほとんどはエドガートンが他の情報屋から引っ張ってきたもの。FBI上層部からは、デップさんは情報屋として見逃すけど、麻薬や殺人はそうはいかないぞと釘を刺してたのだが、デップさんは関係ねえとばかりに地元で堂々と殺人を積み重ねる! しっかりお金ももらいつつ、それを揉み消すエドガートン。かくして十数年が……。
失敗した手下や裏切り者に対しては、サイコパスなんじゃないか、というぐらいに冷徹に振る舞うデップさんだが、地元や家族との繋がりは深く、人情味ある筋者風でもある。息子には「喧嘩するなら、誰にも見られてないところで殴れ」と暴力のススメを説いたり、悪の哲学を持つ男。
もっと戯画化したり、露悪的にポップに描いたりすることも可能だったろうが、やっぱり『ファーナス』の監督らしく、ものすごく真面目で、ややウェット。デップさんが怪演してるわりにその怪物性は際立ってこない。この監督はなんか優しい人なんだろうな、と思う。故なき悪人などいないと思っていそうな……。
生業をそのままやってるだけのデップ・バルジャーには意外にドラマがなくて、語りは彼の周囲にいた共犯者たちの目線からなされる。それらはほとんど「点」で、いくつもの点を並べることでようやっと「線」の体裁をなして見えるような気がしてくる。実録物らしく、起こった出来事の内側にはほとんど入り込んでいかない。が、これも監督の資質で、役者の表情を撮るのが上手いんだよな。ダコタ・ジョンソンやジュノー・テンプルなど、女性キャラは今作で端役中の端役なんだが、印象に残る表情を必ず見せてから消えていく。ゆえに単なる出来事の羅列には留まっていない……んだけど、すごい深いドラマがあったかというとそうでもない、という何だか中途半端な印象が残ってしまうのだな。
実際のところは、全く中身のない、本来なら映画の主役になんてならないキャラを演じたジョエル・エドガートンが、美味しいところは持って行ったように思う。コリー・ストールさんを野球に誘うところの気まずさとか、本物みたいだ!
ドライにもカッコつけても描けない監督の資質に、やっぱり今作はちょっと合っていなかったな。『ファーナス』でさえ妙に甘くてウェットだったわけだが、もっと徹底的に泣きの話を撮ってみてはどうだろう。でも、希求しているのは「現実の厳しさ」を描くことのような気がするね。
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