“古より来るもの”『奇門遁甲』


The Thousand Faces of Dunjia Trailer VO

 中国映画祭電影2018にて。

 古より、「奇門遁甲」を操り妖魔と戦いを繰り広げて来た霧隠門。後継者不在を迎えた彼らに最大の危機が迫る……!

 ユエン・ウーピン監督作。自身の80年代の監督作『ミラクル・ファイター』も原題は『奇門遁甲』だったが、その再映画化ということに。製作と脚本をツイ・ハークが勤めているが、そう言えば彼も『天上の剣』を自ら二回目の映画化して、こてこてのCGまみれ映画にしていたな、そう言えば……。

 ツイ・ハークつながりか、霧隠門のリーダー格にウー・バイさんが登場して大暴れ! 当然のように主題歌も強奪! というところだけで嬉しい。本国でもお正月映画だっただけあって、大スケールで展開される。が、大風呂敷を広げるだけ広げておいて、山場こそあれどあっさり続編を示唆して中途半端なところで終わるのも、いかにもらしいなあ。まあ先の『芳華』も正月映画だったりしたわけだが……。

 出演は他にダー・ポンやニーニー、チョウ・ドンユイなど、本邦ではいまいち知名度がないが向こうではスターな人がズラリ。CGとワイヤーアクション巨篇ということで、アクションもがっちり詰まってますよ。しかしチョウ・ドンユイは正体が妖怪ということで、本人はアクションはせず、変身してからCG妖怪が暴れまくるのであった。同じチャン・イーモウに見出されたチャン・ツィイーはえらい違いだが、アクションセンスがないか身体が固いんだろう……。自慢の演技力もいまいち発揮できず終わったので、また次に期待したい。

 これこそ中華映画祭りの一本でぽろっとかかっても良さそうね。続編が出たら二本まとめてでもありかな……。

“魂は死なない”『シティ・オブ・ロック』

 中国映画祭電影2018にて。

 集安の街のランドマークとして知られていた「ロックンロールパーク」の閉鎖が決まる。かつてそこで開かれた伝説のライブを知る青年は、あの頃の盛り上がりを取り戻すために、自らのバンドを結成することを決意するのだが……。

 ダー・ポン監督・主演作!
 このダー・ポンさんという人は、この後の『奇門遁甲』にも出演していて、今映画祭にもゲストで来日していました。まあ今回の目玉的存在の一人ですね。
 『私は潘金蓮じゃない』にも出ていたはずだが、どの人かよくわからず。おかげで映画が始まっても、ボーカルのデブかマネージャーのメガネかどっちかわからんまま観ていたよ……。正解はマネージャーでした。

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 かつて町おこしに一役買ったロックバンドの元マネジャーを、そのバンドの演奏を聴いて音楽を志したデブが雇い、新たなステージをやって夢を再びと願う。かつての町おこしのシンボルである巨大ギターのモニュメントがある公園が、取り壊しの危機に迫られているのであった。
 あまりやる気のなかったマネージャーだが、日銭のために奔走してメンバーを集めているうちに段々と本気になっていく……という、まあ非常によくあるパターンの話で、一ミリの新鮮味もないわけだが、逆に安心して楽しめるところでもある。

 さすがに監督・主演だけあって、最終的に美味しいところは一人で全部持っていくわけだが、華があるのかないのか何とも言えないルックスが、非常に凡人らしくて共感を呼ぶわけで、まあそういう人が夢をかなえてもいいんじゃない。ベース役の子、グーリー・ナーザーさんがちょっとぎょっとするぐらい美人で、これと恋に落ちるとかさすがに美味しすぎるだろ、という感じもありましたが……。

 こじんまりした話に止まるかと思いきや、乗り物使ったアクションやステージなど、かなり大掛かりで金かかってるシーンもあって、相当に楽しいですよ。また映画撮ったら次も見たいですね。

 ところでこの後は『奇門遁甲』見たんだが、そっちでも主演しているチョウ・ドンユイが、これにもゲスト出演してます。またタトゥーしたパンク女役……。

“青春の裏側”『芳華』


《芳华》 Youth ‖ 文工团的花儿特辑

 中国映画祭電影2018にて。

 軍属の芸術団に夢を抱いて入団したフー・シャオピンは、農村出身の為にいじめに合うことに。純朴な青年リュー・フォンは彼女を助けようとするが……。激動の時代を迎えた中国で、若者たちは翻弄され、より過酷な運命へと巻き込まれて行く……。

 アジアン映画祭の同時間帯のチケットが取れなかったんで、こちらをチョイス。しかしアジアンとこの中国映画祭は提携イベントなのだが、この時間帯のバッティングぶりはいったい何なんだ……。

 フォン・シャオガン監督作で、前作『わたしは潘金蓮じゃない』以来。文革頃の中国を舞台に、軍付きの舞踊学校における青春の悲喜こもごもを描く……。いや、非常に映像が美しく、さぞキラキラした青春が描かれるのかな、と思いきや、主人公格の男女への風当たりが異様に強く、陰湿とさえ言えるいじめが頻発!
 中盤にはベトナムとの戦争が勃発し、主人公たちは離れ離れになり、さらなる悲劇に見舞われるのであった……。舞台となる学校からこの二人が弾き出され、学校に残った語り部的キャラたちもドロドロとした人間関係に悩まされる。

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 いや、この映画は「青春ものを撮ろうとしておかしくなった」んじゃあなくて、こういうシビアな現実を描くことこそが主眼で、それじゃ金も集まらんし映画作れないからキラキラした青春ものの皮をかぶっているんだと思う。
 『唐山大地震』の描写もハードだったが、戦争シーンでもいきなり兵士が木っ端微塵のバラバラになり、ハードコアな殺戮描写が繰り広げられるから仰天したわ。そこで心を病むヒロイン、片腕を失う男……。
 兵士たちの慰問に行われる舞踊がまた実に空疎で、それを見て過去を取り戻したヒロインが一人舞うシーンが美しく撮ってあるあたり、狙いは明白だと言えよう。直接的なメッセージを発することなく、国策の学校はその歪さ、戦争はその無惨さをひたすら描き続けることで、批判へと変えようという構造。

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 結果的に変な映画になってしまった感はあるが、さすがの見ごたえはあって良かったですね。主演のホアン・シュアンはこの後の『空海』でも白楽天役で頑張っています!

唐山大地震 [DVD]

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“まぼろしの邪馬台国”『トゥームレイダー ファースト・ミッション』


映画『トゥームレイダー ファースト・ミッション』予告編

 あのシリーズが復活?

 資産家だった父のもう一つの顔、それは冒険家? 日本で行方不明になった父の遺産を相続しないでいたララ・クロフトは、父親が行方不明になる直前に探していたものが卑弥呼の墓であると知る。残されたメッセージには資料を焼却しろと残されていたが、ララは父を追い香港へと渡る……。

 懐かしのアンジェリーナ・ジョリー主演の二作は律儀に見ているのだよな。当時のポリゴンキャラを「解釈」すると、なるほどアンジー顔がしっくりくるなと思った次第。今はCG技術も進んでどんな顔でも作れるし、逆にアリシア・ヴィキャンデルでもまったく問題ないな。
 前二作は、サイモン・ウェストの一作目はアクションが編集ぶつ切りでとにかく見辛く、ヤン・デ・ボンの二作目はそこのところは解消されつつだからと言って面白かったわけではない……という、何とも微妙な記憶が。

 今作のヴィキャンデルちゃん、会費払ってないMMAジムでスパーしてタップ負け、バイトしてる自転車便で賭け競争やって事故りペンキまみれに……と最初からまったくいいとこなし。と言うか、貧乏なんだが、この人って金持ちのお嬢さんじゃなかったっけ? 実は行方不明の父親の死亡を認定せず、財産も受け取ってないのね。せっつかれて遺産の目録を改めている時に謎の鍵を発見。実は冒険家だった父の記録を隠し部屋で見つける。父は卑弥呼の墓を探して行方不明になったのだ!

 父の形見のペンダントを質に入れ、香港へ渡るヴィキャンデルちゃん。卑弥呼だからそこは日本だろ、と思うところだが、卑弥呼は孤島に渡ってそこに監禁されたという設定なので、まあアジア近海ならどこでもええねんということなのだろう。ひったくりを追いかけたりしながら、手がかりを知る男ダニエル・ウーと出会う。

 質屋のおじさんがまさかのニック・フロストだったのでびっくりしましたが、ここはイギリス俳優を持って来たかったのかな。ヒットしてシリーズ化されれば、『ミッション・インポッシブル』のサイモン・ペグのようにレギュラー化もありえるか?
 ダニエル・ウーも『ジオストーム』に続くハリウッド出演。今回は死ななかったが、島には渡るものの遺跡には入らないということで、大活躍とは言い難い。クライマックスに絡めなかったのが残念ですね。

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 ファーストミッションということで、主人公の未熟さを印象付ける展開が多く、海外に出てからもひったくりにあったりしていいとこなしが続き、必死に頑張っているのはわかるんだが、背伸びして自分を大きく見せようとしている感じが続いてもどかしい。父親を亡くしたがゆえに、なんとか早く自立しなければ、という心理プラス、周囲を拒絶して頑なになるところね。もちろんそれは解消されて成長する方向にいくし、アクション一年生のヴィキャンデルには会っているのだが、それこそ父のような目線で見ないとフラストレーションが溜まりますよ。

 卑弥呼の遺跡云々はデザインやトラップに新鮮味がなく、設定もトンデモ感が漂ってるのがまた弱いな……。まあダメと言うほどでもないが、パッとしない映画ではありました。

“白い服の異常な昼”『ビガイルド』


映画『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』本予告

 ソフィア・コッポラ監督作!

 北部の負傷兵が運び込まれたのは、女ばかりが暮らす南部の女子寄宿学園だった。手当をしながら、七人の女たちはそれぞれに男に惹かれていくのだが……。

 監督の作品は初見だったのだが、娘ッポラさんは正直あまり興味のない題材ばかり撮る人だなというのが正直なところ。が、今回は欲望渦巻く『白い肌の異常な夜』のリメイクだそうで……え? リメイクじゃなくて、同原作の二回目の映画化? まあええやん。

 さて、映画は白っぽい服装、木漏れ日で目に優しいビジュアル、小川のせせらぎや鳥のさえずりが終始聞こえる音響設計。ほうほう、これは……眠いです……。いや、コリン・ファレル負傷兵が運び込まれるところまでは起きていたのだが、環境音の穏やかさにいつしか睡魔に魅入られ、問題の手当てシーンなどで熟睡しました。いや、これだけ寝たのは久しぶりですね。

 かなりランタイムは短い映画なのだが、ちょいちょいディティールを端折ってるので驚いたところも。終盤、コリン・ファレルが鍵を開けることを頼んだ結果はすっぱり端折られ、クライマックスの会食に至る流れも急にシーンが飛んだ。
 単に絵や音でムードを作るだけじゃなく、シーンを積み上げないのでますます雰囲気の映画になるのであろうかな。

 まあ今回はあまりに寝たので、ソフィア・コッポラ初体験はお預けということでよろしかろう。次作を見るかはまた別の話だが……。

“小銭がないとダメ”『ペンタゴン・ペーパーズ』


『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』予告編

 スピルバーグ監督作!

 ベトナム戦争が泥沼化した1971年。戦争の経緯を詳細に記録したトップシークレット文書をニューヨーク・タイムズがすっぱ抜く。反対運動の激化を恐れたニクソン政権が記事を差し止めようとする中、ライバル紙のポストもまた同じ文書を手に入れようとしていた。明かされるベトナム戦争の不毛さに、ポストのオーナーであるキャサリン・グラハムは危険な決断を迫られる……。

 原題は『POST』だから、日本でいうと『毎日新聞』みたいな感じですね。これを書いてる現在、連日、朝日新聞のスクープが国会を揺るがせ、毎日新聞が後追いでまたスクープを出すという状況が続いています。今作ではベトナム戦争にまつわる重大スクープをすっぱ抜いたニューヨーク・タイムスに続き、同じ裏情報を掴んだポスト紙が後追いで記事を出すか否か、というお話で、まるでスピやんが日本のために作ってくれたかのようだ!

 映画は地獄のようなベトナムの戦場から幕開け。泥沼が続くが、実は政府は、もはやこの戦争には勝てないと早くから知っていたのだった……。

 NYTにぶち抜かれた、時のニクソン政権がそのスクープを潰すために報道各紙になりふり構わぬ圧力を仕掛け、報道の自由か政権への忖度かを迫られる。ポスト紙のオーナーであるメリル・ストリープと編集長トム・ハンクスは、存命中のJFKと親しくしたり、現政権の政治家にもネタをもらっていたりして友達関係を築いていたりするので、結構悩ましい……。
 いやいや、悩ましいじゃなくて、やっぱり報道はそこらへんバシッと分けとかないとあきませんよ、という大原則に立ち返るまでの葛藤……。予告編だとメリル・ストリープはいつもの意志の強い強面女に見えるが、実は今作では割とおっとりしていて舐められている経営者で、途中の悩んでるところの演技の方が上手くて印象的でしたね。またここで女性が声を上げるというテーマを持って来るのもさすがですね。
 一方でトム・ハンクスは、『スポットライト』のマイケル・キートンの完コピに見えなくもなく、ちょっと先行作の前に割を食ったか。しかし他のキャストは大変地味な無名キャストで固めていて、この二人が逆に悪目立ちしているように見えるぐらい。まあ商業的には大物キャストも必要なのだろうが、やろうと思えば全員無名キャストでも撮れるんだろうなあ。

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 情報提供者も含め、報道側もまったく一枚岩ではない。そもそもニューヨークタイムズとポストはライバル紙だから、お互いの情報交換は基本的にはない。だが、これを国民に届けずしてなんのメディアか、という矜恃ね。NYT側の話でも、一本映画が撮れそうである。

 七十年代を舞台にくすんだ色調で撮った撮影も素晴らしいが、基本会話劇なんで地味は地味……なんだが、名匠ヤヌス・カミンスキーの撮る輪転機は、何やら怪物じみていてめちゃくちゃカッコいいな。
 電話かけるシーンで小銭を落とすのも、実にベタでしょうもないギャグシーンなのだが、これを緊迫感溢れるシーンにしちゃうからすごい。ご存知ウォーターゲート事件につながるエンディングもキレキレで最高ですね。隅々まで堪能しました。

“まだ始まってもいねえよ”『スリー・ビルボード』


『スリー・ビルボード』予告編 | Three Billboards Outside Ebbing, Missouri Trailer

 アカデミー賞最有力!?

 ミズーリ州の寂れた道路に放置されていた三枚の看板。そこに不意に貼り出された広告は、地元の警察と署長の犯罪捜査への怠慢を糾弾するものだった。7ヶ月前、娘を暴行されて殺されたミルドレッドが広告主であり、警察署長のウィロビーは困惑、彼を慕う部下や街の人間は腹を立てるのだが……。

 えー、結局アカデミー賞作品賞は取れず。マーティン・マクドナー監督作は初見だが、監督賞ノミネートがなかったのが響いたか? 主演女優賞助演男優賞は獲得。

 表題の三枚看板のシーンが本当に素晴らしくて、表側、裏側問わず、平凡のようでいて今まで見たことのないビジュアル。これだけ明確にさらりと表現してしまうのに驚かされる。三枚の看板の距離感も絶妙で、歩くと遠いが車だとすぐなのな。こうして三枚の看板を通り過ぎる時間の間隔までが染み込んでくるようで、圧倒的なオリジナリティですよ。
 改修前の姿、メッセージが出た後、燃やされた後と再び貼り出された後……次々と姿を変えていき、まさに今作の主役としての存在感を見せている。

 ありふれたアメリカの田舎を舞台に、不条理に対して声をあげることによって巻き起こる軋轢と、その中での人間模様と感情のもつれを描き出す。仕掛人であるフランシス・マクドーマンド演ずる主人公は、ステレオタイプな「可哀想な母親」像に決して留まらず、だからこそ決して泣き寝入りもしない。
 告発される警官側の二人、ウディ・ハレルソン署長とサム・ロックウェルの二人は、当初は「物分かりは良く見えるが何もしない人」や「横暴の権化」に見える。だが、物語が進みバックボーンが明らかになるに連れて立ち位置も変わっていく。

 最近、『ゲット・アウト』や『ツイン・ピークス』新作などで貧乏くさいキャラばかりやっていたケイレブ・ランドリー・ジョーンズなどが広告会社の人としてすごくいいキャラクターになっていて、彼とサム・ロックウェルの絡むシーンはすべて必見ですね。また窓から放り出すシーンの臨場感も良くて、ここはワンカットだけど敷いてたマットを急いで片付けたりして昔ながらのやり方で撮ってるんではないか。

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 サム・ロックウェルは隠れゲイと思しき警官役で、まあ大変横暴で賢くもなさそうで、前半大変嫌な野郎なのだが、ぼんやりと裏の面がほの見えてくるあたりから俄然存在感が増してくる。この彼のハレルソン署長の慕いっぷりが涙ぐましく、またケイレブやディンクレイジさん、マクドーマンドさんへの横暴が嫌らしいが、これら全て同じ人間の一面であり、その曖昧さ、白黒のつかなさこそがリアルなわけだね。曖昧なようで、その場その場の感情はかなり明確にわかりやすく表現されている。矛盾するけれどそのどちらもが真実である、ということ。
 ただまあ、メインキャラの両面を描き、どのキャラにも真摯に寄り添った分、得体の知れない曖昧模糊さは描かれないので、田舎映画としては物足りない。妙にわかりやすく出来すぎにも感じられる。よく出来た脚本だが、この良さこそがマイナスかも……。
 海外ドラマなど見ていると、10話500分で何シーズンもやりながら、キャラクターの心情の変化や裏の面を描く濃密さに驚くのだが、今作はそれを120分に凝縮した感もありですね。それほどの巧みさと完成度。

 で、ラストの放りっぱなし感が、ここから先もまだまだドラマは続くんだ、と匂わせるから、余計に世界観が広がった。まだ旅は始まってもいないのだ……。