”シュレーディンガーの細目男”『怒り』(ネタバレ)


「怒り」予告2

 吉田修一×李相日!

 八王子で起きた、夫婦惨殺事件。目撃情報も虚しく、現場に「怒」という文字を書き残した容疑者は一年に渡って姿をくらませたままだった。整形し、顔を変えたとも言われる男の行方は……? 千葉、東京、沖縄……それぞれの場所にふらりと住み着いた男たちの正体は……?

 市橋達也事件をモチーフにした吉田修一原作を映画化。「怒」という文字の残された殺人現場から事件はスタート。かなり思わせぶりで、それほどの怒りを示す何かを、これから登場する三人の男に対し自然と探してしまうのだが、あまり意味はござらなんだ。

 松ケン、綾乃ゴー、森山未來という色白で細目の男が次々と登場し、それぞれ訳ありの様子。殺人事件の容疑者は整形して逃亡しており、本来の顔と整形後の予想図が、この三人に似ているような似ていないような……。
 これだけかき集めたらバラバラになりそうな豪華キャストだが、何せ話は三本分あってお互いは出会わない。誰が犯人か?を気にして対比させているのは観客のみ、という構造。またそれぞれは全然違う話で、最後に一堂に会したりもまったくしない。これをクロスさせつつ成立させてしまう手際の良さはすごいですね。

 また個々の描写も細部まで見所が多いし、絵的な美しさと生活感をぎりぎりのところで両立させているのもナイス。もちろんそこには、宮崎あおいが大して太っていなかったり、ゲイパーティやハッテン場に痩せマッチョしかいなかったりする作為が潜んでもいるわけで、本当の意味でリアルではないのだろう。

 娘に新しい男が出来てヤキモキするケン・ワタナベを見てると、いかにもサイコパスっぽく表情のない東出君はさぞ苦労したのだろうなあ、と思わせられるさすがの演技力。やや太りの宮崎あおいはそれよりも眉毛を描いてない顔の方が衝撃的で、『NANA』のいい加減な女をさらに発展させたような役作りが良かったですね。一切脱がない日和っぷりは相変わらずだが、その裏で腐れ米兵にレイプされる広瀬すずちゃんの体当たり、尻を出すブッキーと綾野剛よ……。

 沖縄の不条理展開と、他のパートの性善説よりなウェットさのバランスが少々悪く感じられた。病気のお母さん! 施設育ち!の陳腐さにはびっくりしてしまったが、放っておけば美談、いい話にしかならないところが、「容疑者」の存在により疑心暗鬼が生まれる、という展開。それならば元の鞘に収まるよりも引っ張られて崩壊した方がより不条理感が増して良かったのではないかな。
 まあこれはシュレーディンガーの猫のようなもので(適当)、ガチの伏線張ったミステリではないんで、実は他の二人のどっちかが犯人だったバージョンをそれぞれ想像しながら観るのもいいかもしれない。映画のどこかで大筋が分岐し、松ケンがケン・ワタナベとあおいを監禁する展開、さらに綾野剛が豹変してブッキーのケツを掘りまくる展開へとつながり、最後には時空が歪んで「三人ともが怒っていた」バージョンが登場し、やがて「三人ともいい人だった」ハッピーエンドが示唆されて終わるわけだ。

 全体に泣かせがちょいと過剰すぎて、やっぱり邦画だな、と思ったところ。李相日と吉田修一坂本龍一の三乗の泣かせが強烈。役者も泣きすぎだから……。そりゃあこんだけめそめそ泣かれたら、「怒り」たい気持ちも湧いてくるような気がするね。
 一方で、犯人のキャラも不条理な存在としてサイコパスっぽい設定で、これはこれで単純なわけで、途中までは面白いのに思わせぶりなだけで終わってしまった感が強い。
 この作者の本は一冊も読んでいないが、話を聞く分にはどうも何の題材であろうが過剰にウェットに、美談にしてしまう傾向が透けて見え、さらに小道具の使い方も安直という印象。そこを映画化の際にやりすぎたのが『さよなら渓谷』、避けたのが『横道世之介』という感じがしますね。
 まあまあよく出来てると思うが、まったく趣味じゃない映画でありました。パスだな……。

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 沖縄の少年、佐久本宝君は実質主役なのに、全くビジュアルで取り上げられてないのが悲しい。おかげで登場した時、映画を断られて散るただの噛ませとしか思わなかったではないか……。沖縄パートは広瀬すず視点を省いて、彼の視点でまとめてもよかったぐらい。他のパートはケン・ワタナベ視点、ブッキー視点で統一されてるのにな。しかしこの彼の口の端が歪んだ感じが、『マッドマックス 怒りのデスロード』のマックス、トム・ハーディを思わせるな……。

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 そう考えると彼はマックスの若い頃の姿であり、今作は彼の「最初の殺人」を描いた前日談と言えるのかもしれない。この後に警官となった彼だが、やがて核戦争が起きる。引き金を引いたのが米軍ならば、これ以上の皮肉はないな……。生き残った彼はかつてのあの男と同じく「怒り」を抱えて彷徨っていたのが、フュリオサらとの出会いを経て彼女らのために戦うことになるわけだ……。マックスに呼びかける過去の亡霊が広瀬すずちゃんで余裕で再生されますよ!

怒り(上) (中公文庫)

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怒り(下) (中公文庫)

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横道世之介

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今日の買い物

スパルタンX』BD

スパルタンX エクストリーム・エディション [Blu-ray]

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 DVDから買い換え。これもエクストリーム・エディション。


『ヴィジット』BD

 公開時の感想。
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『こねこ』BD

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 地上最強の猫映画がまさかのBD化じゃあ。

”撃ち尽くすまで戦え”『ハードコア』


映画『ハードコア・ヘンリー』日本版予告編

 カナザワ映画祭2016でプレミアム上映!

 記憶を失いある研究室で目覚めたヘンリー。片腕と片脚は失われ、機械に交換されている最中。妻であるという科学者の支えを受け、声を取り戻す処置を受ける寸前、謎の男が研究室、そして彼と妻を襲う。脱出ポッドで地上に逃れた彼は、追跡を超人的な身体能力で逃れていくのだが……。

 全編一人称のFPSゲーム的視点で作られたバイオレンス・アクションが日本初上陸。監督のトークも予定されていたが、これは残念ながらなくなり、本編の爆音上映のみになりました。
 原題『Hardcore Henry』の通り、主人公はヘンリーと呼ばれる男。目が覚めたら記憶がなくなり、肉体は改造手術を受けてサイボーグと化していた。妻であるという科学者の女に残りの処置を受け、ようやく通常の生活が送れるようになったかと思ったのもつかの間、念力を操る謎の男の襲撃を受け、単身脱出することに……。
 主人公はヘンリー自身は手足や身体の一部しか画面に映らず、どんな顔してるのかも定かではない。そこから延々と追跡劇とアクションが続き、画面はどんどんスピードアップしていく。
 主人公の主体的行動はほぼ描かれず、アクションが終わればシャールト・コプリーが登場して次の行き先や行動を指定してくる、という構成。これはつまりゲームの「フラグ」であったりステージクリア後のインターミッションであったりするのだな。次のステージに移動し、また戦闘開始! その中で誰かを倒す、何かを手に入れるという小さなミッションを遂行していく。
 画面はチャカチャカと動きが激しいが、さすがに1時間以上見てると段々と慣れてくるし、シチュエーションを工夫もしているので飽きない。お気に入りは高い橋桁を登っていくところで、実にご機嫌ですね。
 本国では画面酔いのせいでヒットしなかったそうだが、確かに三人ぐらい途中で出て行っていた……。

 単純なりにサプライズやオチ、ゲスト出演ティム・ロスなどもあり、さらにシャルート・コプリーの何役もの大活躍も見所。『ロボコップ』オマージュも楽しい。

 メタ的に言うと、ゲームやってて下手なプレイして何回もやり直してると、時々「映画の主人公は、これを一回こっきりでクリアしてるんだな……」と考えたりするのだが、それをゲーム的映画として再現しているかのようなものでした。 二回見る必要はないし、同ジャンルの映画が流行れとも思わないが、体験として一回は見る価値ありですね。

”過ぎ去りし日々”『グッバイ、サマー』


ミシェル・ゴンドリー監督の青春ムービー!映画『グッバイ、サマー』予告編

 ミシェル・ゴンドリー監督作!

 14歳になっても思うように身長が伸びず、女の子のような容姿をからかわれているダニエル。パンクにハマる兄、過干渉な母、無関心な父……。ある日、転校してきたテオという少年と仲良くなったダニエルは、手先が器用でガラクタを修理する彼の特技を生かし、自分たちで車を作ることにする。永遠に思い出に残る夏が始まった……。

 『ウィ・アンド・アイ』『ムード・インディゴ』からちょっと間が空いて、久しぶりの新作です。今作は、監督自身の少年時代をモデルにしたパーソナルな映画。原題は『ミクロとガソリン』で、これは主人公二人のあだ名。本人らが名乗ってるわけではなく、学校でつけられたむしろ嫌な呼び名ですね。

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 監督の少年期をモデルにしたのがミクロことダニエル。絵が趣味だが、背が低いことや女の子に見えるルックス、性の目覚めなど様々な悩みを抱える。鬱病で宗教にはまる母、それに無関心な父、パンクバンドやってる兄と、まあ平凡と言えば平凡だが何かとノイズの多い家庭環境。
 その親友になるのが転校生のテオ。趣味は機械いじり、少々偏屈だが明るく前向き。貧乏な骨董品屋の父親と糖尿病の母親、軍隊に入った兄の間で、これまた家庭環境はよろしくない。仕事の手伝い含め、いつもバイクやその他機械をいじってるせいで、ガソリンの匂いがすることからそう呼ばれる。

 日常の閉塞感と、周囲になじめないはみ出し者二人の友情……というと非常にあっさりしているのだが、全編センスの塊のようなビジュアルでオシャレすぎ。
 最近では『シング・ストリート』を見た時も「ああ、オシャレだなあ」と思ったのだが、オシャレさ加減についてのみ言うと、もはや次元が違うとしか言いようがない。かといって嫌味なひけらかしは微塵も感じさせず、ファンタジーと現実が絶妙な折り合いをつけている。
 テオ君のサッカーや個展のシーンの芸達者ぶりが最高だし、毎度毎度女の子に間違えられるダニエルの屈折ぶりも良い。「髪切ったら間違われないだろ」と言われ「切ったら余計に負けだ!」みたいなことを言い出すあたり、いや……その気持ち……わかるよ……。日本人風俗嬢にバリカンでバッサリ行かれてしまい、なぜか落ち武者カットになるあたりも最高ですね。

 夏のバケーションなんて行くはずもない双方の親から離れ、自作の車でフランス行く下りは、実際の少年時代には実現できなかった夢だそうで、ここからはフィクション性が増してよりファンタジックな描写が増えてくる。家に偽装して警察をごまかすあたりの大らかさ、他の監督がやれば噴飯ものだろうが、前半のリアルな心情描写と絶妙に並列させるセンスが凄すぎる……。このセンスの海にいつまでも浸っていたい。終わってしまうのがもったいない……。
 後ろを向いて飛ぶ飛行機の描写は、現実に「巻き戻し」されるような感覚であると同時に、旅に後ろ髪引かれる終わってほしくない気持ちの現れでもあり……いやあ……寂しいねえ。

 大冒険こそしなかったものの、自分も小中学校の頃の友人を思い出させられたし、遠く離れたフランスの物語でありながら、普遍的な味わいも兼ね備えている。
 オドレィ・トトゥ演じるアメリお母さんが完全なる「ババア、ノックしろよ!」案件であるのにも爆笑。あのエロ絵の話は本当につらい! さらに映画そのものが「疎遠になった友達」案件でもあるので、ライムスター宇多丸のムービーウォッチメンでも取り上げてほしかったな。
 ラスト、視点を揺さぶって女の子で終わるあたりは、ダニエルの変化や成長を感じさせてこれまた好もしいところ。やっぱり女の子の方が身体も精神も早熟なんだけど、男子もある時ひょいと追いついて、別の方向に行ってしまう。でも女子はそれがわからない。何でしょうね、この言い寄られてた時はすげなくしてたけど、いざ自分から興味が失われると寂しくなる感覚、これもまた、失うと惜しくなる症候群か……。

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”僕はここにいていいんだ”『スーサイド・スクワッド』


映画『スーサイド・スクワッド』日本版最終予告編

 DCユニバース最新作!

 スーパーマン登場以後、政府はデミヒューマンへの危険視を強め、同じくデミヒューマンや犯罪者たちで構成された特殊部隊スーサイド・スクワッドを結成する。捨て駒としての犯罪者たちのみで構成された最悪の部隊は、世界の危機である魔女の暴走に対し投入されるのだが……。

 バットマン他に登場するヴィランが集結し、悪の部隊を結成という話をデヴィッド・エアー監督が映画化。
 各ヴィランは最初から逮捕されて刑務所に入っており、大変悪いお顔をしたヴィオラ・デイヴィスが、今後もスーパーマンみたいな怪物が荒れ狂っても対策を打てるように、悪党で超人部隊を作ろうと提案。彼らのプロフィールを解説する。
 のっけからダラダラと説明的なのだが、マーゴット・ロビーハーレイ・クインとウィル・スミスのデッドショットだけ長くて、その後に出てくるメンバーはどんどん短くなっていくから笑った。映画としては推しが露骨だということだが、ヴィオラ・デイヴィスのキャラは何を思ってこんな(以下略)みたいな説明をしたんだろうね。

 その後も各キャラの行動を交えて紹介が続くのだが、脇キャラのバックボーンがばっさり切られているので、ハーレイとウィル・スミスのバディムービーでもいいんじゃないか、という気がしてくる。しかしそもそもハーレイはバット持ってるだけの女だし、ウィル・スミスは射撃がうまいだけの男なので、超人部隊という体裁を整えるには火を出す奴とかワニ男が必要なのだな。でも別にブーメラン男とか、「ホリョダ!」のアダム・ビーチとかいらんよね。

 さらに、本来なら超人部隊と同じ手駒の一つだった魔女が裏切って逃げ出したせいで、用意しかけていた部隊がたまたま必要になりました……という、なんだこのマッチポンプ感は……すごい内輪めいた話で、まったく緊張感がない。でもまあ、魔女は世界を滅ぼすだけの力を持っているのだから、なんとかしないといけないんだ!
 ページをめくると大ゴマで、悪役が世界を滅ぼそうとしていて、周りの人が「WOW!」「BOMB!」とか言ってる……というのがアメコミに対する浅薄なイメージなんだが、その通りに展開するのでなんだかなあ、という感じ。

 相当、編集で切ったらしく、権力者と手打ちしたはずのウィル・スミスが次に牢を出る場面でまた看守に抵抗してたり、どうにも辻褄が合わないつなぎが多くなっているのも盛り上がりを削ぎ、ずーっと面白くないまま続く。非常にわかりづらい、入り込みにくい話になっているが、 「アメコミの素養が必要」「ユニバース構想はやっぱりマーベルが」とか大げさな話じゃなく、単純にメンバーが集まってスーサイド・スクワッドを結成するまでをパート1で描き、続編を魔女との戦いにして、90分ずつにすれば普通に面白くなったんじゃないかな、という気もした。

 しかし後半に入って盛り上がるかというとそうでもなく、いつの間にかよくわからないことに廃墟になっている無人の街中で、無個性な量産型の脇役と延々撃ち合うシーンが続くと、もう起きているのも辛い。この時点では主役メンバーもまったくやる気がないし。
 が、『フューリー』のブラピ神主催のお食事シーンもひどかったが、やる気出すはずの今作の酒場のシーンもやたらとじめじめして、何を言ってるのかわからない。

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 そして魔女との戦い……。技が決まった→解説→次はあの手だ! という、アメコミ的なもっさりしたコマ割りをそのまま映像にしちゃうと、こんなにもダサくカッコ悪いのか、と衝撃を受ける。しかもそれがクライマックスだからな……。
 スモークの中で大勢が何をするでもなく、突っ立つかウロウロする間抜けな絵面にも驚いた。そして決めは……スローモーション! これがそれなりに金かかってる超大作なのか……?
 魔女二刀流からのチャンバラ、殴り合いの末、武器を引っ込めた魔女が「もう飽きた」と全員の武器を奪っちゃう展開にもビックリ。さっきまでのチャンバラは何だったんだ?

 全編まんべんなく面白くなくて、終盤で全てぶち壊しにした『ファンタスティック・フォー』とまた違う肌触りのつまらなさだった。やっぱり前振りなしで「有名」キャラ集合!というのは無理がある。確かにジョーカーは知っているが、このジャレッド・レトジョーカーが今までに何をした人なのかに関しては、よくわからないんだよな。ジャック・ニコルソンジョーカーとかヒース・レジャージョーカーがやったことは参考にならんし。アメコミ読んでなんとなくイメージ作ってきてください、ということであろうか。まあジャレッド・レトはそれなりに熱演したそうで、これもカットの弊害なのかもしれない。あまり活躍しない白塗りの人、ぐらいの印象だしな。
 逆に綺麗なジョーカーが出てくる夢は、TVエヴァの最終回のようで爆笑した。

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 時々出てくるベンアフバットマン、初めて観たけど、ケツアゴ以前に露出してる顎が無精髭だらけで超汚いな……。でもベン・アフレック自体の演技は、こいつら成敗してやるぜという意思を常に感じさせて、いつもみたいにぼんやりしてなくてなかなかいいと思う。

 話の都合で刑務所に最初から集まって、続編の都合でまた刑務所に戻されるあたりも含め、何もかもが様々な事情によって縛られている印象を強く受けましたね。これでは面白くなるはずもないし、監督も腕を振るえないわな。これが最後のDC映画観賞になってしまうかな……。

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 ジャッキー・チェンコレクション。整形前のではこれが面白いんじゃないか。


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 これもジャッキー・コレクション。


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 『ラッシュ・アワー』に続くハリウッドでの代表的シリーズ。

”バナナの皮”『イレブン・ミニッツ』


『イレブン・ミニッツ』予告

 スコリモフスキ監督作!

 午後5時……。映画監督との面接にホテルにやってきた女優。嫉妬深いその夫。ホテルの前でホットドッグの屋台を開く刑務所を出たばかりの男。バイクでホテル前に向かうその息子。様々な人間模様がわずか11分の間に絡み合う……。

 監督作は初見。もう78歳なのな。『アベンジャーズ』の、スカヨハを捕まえていたロシアのスパイ役でカメオ出演していた人。

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 わずか11分の間に起きたことを視点と時間軸をクロスさせて描く群像劇。

 あるホテルとその周辺で起きた数々の出来事を、すれ違わせながら同じ時間軸、近い空間にあることを強調しながら描いていく。個々のエピソードが非常に生活感にあふれていて、言っちゃあ超地味なのな。お決まりの情事や、家族あるいは夫婦間の不和、人生への行き詰まりの気配がそこここに感じられ、出口の見えない日常がこの先にも待っていることが感じ取れる。
 登場人物同士はお互いに関係なく、作中ではすれ違いを繰り返すのみ。そこかしこで重なる彼らの関係が、どう収束していくのか? 群像劇の見所は、やはりその収束具合だと思うのだが、往々にして風呂敷をたたまないこともあるわけで、今回はそのパターンだったな。
 途中、この世界を映し出すモニターの存在が示唆され、作中の犬の視点と対照的に、より高次の視点があることが匂わされる。この映画を見る観客の視点であると同時に、より俯瞰した目線で全てを見る「神」的な視点か……。

 いや、オチはある意味最高で、こんだけ引っ張って、よくこんなオチをつけられるものだ、と感心してしまうよ。描写はリアルかつ地味に積み上げていたのに、泡ですべったというだけでそれが全部吹っ飛ぶ。別な意味でカタルシスがあるというか……。
 やっぱりこの監督のように歳をとると、世の中の人の営為すべてが、いつ消し飛ぶかわからない儚いものだと思うようになるのだろうか。わずか11分の間にあれだけのことが起きている、そんな世界の奥行きを感じさせつつ、でもそれはモニターの一つのドットにすら満たない小さな出来事でもあるという逆説ですね。

 想像していたよりもはるかにトンパチな映画で、まあ短くてよかった。二時間見てこのオチだったら切れてるわなあ。

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