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”Tダイヤモンドは砕けない”『ヴィジット』(ネタバレ)


 シャマラン監督の新作!


 長らく母と音信不通だった祖父母の家に泊まるため、ペンシルバニア州にやってきたベッカとタイラーの姉弟。母は恋人とクルーズに出かけ、二人は一週間滞在することに。親切な祖父と料理上手な祖母は、一見、平凡な老夫婦に見えた。だが、深夜、階下から不気味な物音が響き……。


「今度の新作の脚本には、ラップを取り入れてみた」


 とM・ナイト・シャマラン監督が言い出した時、かつての30分の1になった予算の今作に関わる監督馴染みのスタッフたちは、あのラッパーの顔を思い浮かべ愕然となったに違いない。親子共演の親バカ映画の監督としてこき使われ、「雇われ仕事」と散々叩かれた前作(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130704/1372940746)は、シャマランのフィルモグラフィにもう一つ「BOMB!」を付け加えた。悪しき思い出だ……普通に考えれば。
 だが、一流のクリエイターは、不本意であったり低評価であったりした仕事からも、何かしらのお土産をもぎ取ってくるのである。


 映画は監督初のPOV、大流行りも一段落ついて、まあ普通に定着したかな、というジャンル。さて、本邦の予告編では「三つの約束」とか言って、なんだかオカルトな味わいがあるかのように強調してるんだけれど、映画には皆目そんな要素がないのだな。
 主人公はともにカメラをぶら下げた姉弟、PCとスマホを使いこなすまさに現代のガキ。幽霊やらなんやらを信じてる風は一切なし。シャマランの映画だから、幽霊、超人、宇宙人、怪物、さらにそう見せかけて実は……みたいなことも含め、何でもござれ、何が起きてもおかしくないような気がするので色々と深読みしてしまうわけだが、映画の中身は爺ちゃん婆ちゃんの奇行に尽きる、実にシンプルなものなのである。


 ガキどもはカメラに映った物しか信じないので、「もしかして何かが取り憑いてる?」「まさかUFOが……?」などとわざとらしいミスディレクションには絶対に走らない。なんというリアリストぶりか。姉ベッカは映画監督志望、そして弟タイラーは芸名「Tダイヤモンド」としてラッパー志望……。えっ、なぜラップ……。
 序盤の祖父母の家に向かう電車のシーン。まだ平和と分かりきってるところで、このシーンののどかさが後々の恐怖とのいいギャップになるのだ!というのが常道だが、それにしてもこの気の抜けたラップは一体……? 仕事さぼってリズム取ってる車掌の適当さ、それに合わせてラップを決めるガキ……。たぶんこれは『アフターアース』の撮影中に嫌という程日常的に繰り広げられた光景なのではなかろうか。合間合間にラップを刻むジェイデン&ウィルのスミス親子。きっとうんざりしただろうと思いきや、シャマランはきっちり影響を受けていたのだ。今作の現場であのガキにシャマランがラップ指導してる姿がありありと目に浮かぶ。シュール過ぎる……。


 ストーリーと仕掛けは、『シックスセンス』並に手堅くシンプルな一発ネタ。POVで編集済みという体裁なので、やや強引に端折った部分も気にならず。
 さらにそれを下支えするのが、『アンブレイカブル』と同じく、誰にでもある同情心からなるミスディレクションであるからたまりませんな。『アンブレイカブル』は、障害を持つアメコミ好きの男は当然「不死身のヒーロー」に憧れる善良な人間のはず、という先入観を持たせておいて実は……というお話であった。今作は主人公たちの母親の、かつて両親と喧嘩別れしたことへの後悔と罪悪感が前提としてあり、老齢になるまで両親を放置してしまったという負い目がある。両親が老いてボケたり病気を抱えてしまっていることに責任を感じてしまう視点は、自然と真実を覆い隠す方向へと作用する。多少大人で母親の気持ちを理解している姉の方が、「年なんだからしょうがないよ」と言うのと対照的に、弟は「絶対におかしい」と直感的に判断するあたりも面白い。
 クライマックスは『サイン』のバットの下りがよりブラッシュアップされたものになっていて、「愛の力で未来予知? へけけけけけ」と笑いたくなったかの映画とは違い、トラウマ設定と連動したシンプルなものに。宇宙人をバットで殴るというシュールさを、弟君のキャラクターでカバーしてる感じですね。
 『ヴィレッジ』では「愛は愛でもこういう基地外は危ないよ〜」という役回りを負わされたキャラクターが不憫であったが、今作の老夫婦は病気や狂気以外の部分でどうしようもない邪悪さや狡猾さ、独善が透けて見えるあたりも進化していますね。夜7時半を過ぎると狂気が顔を出すあたりはもちろん恐ろしいのだけれど、オチがわかって振り返ると娘の話をされた時のとぼけっぷりやPCのカメラを壊すくだりなど、まったく同情の余地なし。
 そしてここに『アフター・アース』のラップが加わって、本作は完成を見るのである……。
 すいません『レディ・イン・ザ・ウォーター』『ハプニング』『エアベンダー』に言及してないのは観てないからなんで、共通する部分があるなら誰かよろしく。


 「タックルできずに潔癖性」と「鏡をまともに見られない」のあたりは、少々印象づけが中途半端で、オチにカタルシスをつけるために盛った感があって、ほんとならイマイチだったところ。が、オムツの下りが最高だし(サラ・マクラクラン!)、良しとしましょう。


 しかしPOVになって妙に客観的な視点を得たせいか、シャマランが過去作を含めてやたらと自己言及しているように見える。


「やっぱりさ、愛とか神とか、台詞で御託だけ並べたってダメだよね。展開で伝えていかないと」


「宇宙人とか信じてる奴は、普通は基地外に決まってるよね。怖いよね」


 ……などと、真顔で言うシャマランに何かイラつきを覚える……。しかしヒッチコックごっこのカメオ出演ももうやめてしまい、バカそのものの話をクソ真面目に撮ってた彼はもういないのだな……。ラストで手堅く感動話を収束させ、またラップで落とす手際の良さに、少し寂しいものを……覚えないよ! オレはシャマラニストじゃないからな!

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