”あの日撃った花の名前を僕たちは"『ムード・インディゴ』


 ミシェル・ゴンドリー監督作。


 資産家のコランは、付き合う相手を見つけた友人を羨ましがり、誘われて出たパーティでクロエという女性と出会う。恋に落ち、結婚する二人。祝福を受け、彼らの人生は美しく彩られて見えた……その日までは。しかし、クロエが肺に睡蓮が咲く奇病に取りつかれたことで、コランの資産は急速に目減りしていく……。


 今年は『ウィ・アンド・アイ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130501/1367329856)がなかなかのヒットだったのだが、今回はがらっと趣を変えてきました、ゴンドリー。
 人間の顔したネズミがいて、テレビの中に料理人がいて、眉毛を切ったらまぶたごと切り落とされて……と、これだけ書いたら何が何だかわからんが、美しいけれどちょいグロい、見たこともないようなガジェットが延々と続くのである。そんな中、恋をし、幸福をつかむ主人公……。『オズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130314/1363271035)とかもこの調子でやってたら、面白いかどうかはともかくとして、何だか物凄い映画になってたんじゃなかろうか、というぐらいで、むしろついていけない。前半は結構眠かった……。


 しかし、予告編でも見せられていたとおり、妻になったアメリが初夜に花に寄生され、あっという間にその幸福が暗転していくのである。前半は延々とハッピー描写が続き、オタクである友人との良い関係や、オマール・シー演ずるコックのナイスガイぶり、彼らもそれぞれカップルになっていて、三組の幸福感がこれでもかこれでもかと描かれる。不可思議なギミック満載の家や、ガラス張りのスポーツカー、エキセントリックな作家、そして彼らに優しく寄り添うネズミ……。
 が、後半になって、それらが徹底的に破壊されていくのである。それら幸せを支えていたのは「金」であり、治療費によって底を尽きそうになったせいで、まさに金の切れ目は縁の切れ目状態に。美しかった家は埃まみれになり、働いたことのなかった主人公は慣れない労働でヨレヨレに。彼の金に依存してきた本オタクの友人も、その本が買えなくなってきたことで発狂寸前。そして『最強のふたり』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120903/1346668306)であれだけ人を幸せにしたオマール・シーの笑顔も、このどん底では何の役にも立たないのである。狙ってるなあ、これは。
 ぼつぼつ反転攻勢があるかな、なんとか持ち直すのかな、と思いきや、不幸の連続はまったく足を止めず、やがて画面上には凄惨な光景が……。ちょっとグロいなと思っていたガジェットが、まるでクローネンバーグの映画みたいな表情を見せてくる。


 正直、わかったかと言われるとさっぱりわからんのだけれど、後半の異様な迫力は大いに楽しんだ。幸福の象徴みたいに映してたものを、執拗に、徹底的にぶち壊していくあたり、なんとも偏執的、と言うよりこれこそを文学的というのかな……。悲しいというよりもただただ暗い結末も嫌いじゃない。予告じゃあ難病に立ち向かう美しいファンタジーみたいになってたが、全然違うよ!

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