“世界に必要な人”『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(ネタバレ)


『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』本予告

 シリーズ第六作!

 プルトニウム強奪事件を追って動き出したIMF。シンジケート壊滅後も世界で謎の工作員が蠢く混乱状態が続いていた……。監視についたCIAの工作員ウォーカーと共にパリへ向かうイーサン。待っていたのはイルサとの再会と、未曾有の陰謀だった……。

 前作『ローグ・ネイション』から、監督も続投で六作目。今までは一作ごとに監督が変わってたが、シリーズ初の続投。それはいいんだが、悪役も続投してたから驚いた。ソロモン・レーン役のショーン・ハリスさんが、獄中にいたということでメガネはなし、ヒゲモジャになって再登場。あまりにヒゲモジャになりすぎて、『ゲーム・オブ・スローンズ』の野人の人みたいになってるが……。同じ顔なんだが、記号としてのメガネとヒゲのあるなしの判別に慣れすぎていて、なかなか前作のあの人だと認識できなかったわ。
 シンジケート壊滅後の世界で、その残党との戦いということで、事実上の二部作の後編のような形になっている。監督変わってないからテイストはまるごと引き継いで、さらにレベッカ・ファーガソンのイルサも再登場。ジェレミー・レナーは降板し、ヘンリー・カヴィルがCIA役で登場。

chateaudif.hatenadiary.com
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 前作に引き続き、「イーサン自作自演問題」が疑われ、さすがに出がらし感は否めない。ただ、製作してお話考えて「今度はこんな事件を起こしてこんなアクションをやろう!」と言ってるのはもちろんトム・クルーズ本人なんで、メタ的に見るとそれが正しいわけだが……。

 前作でイルサが「わたしと消える?」と問いかけるところは、「この子、かわいいけどガード固いし、俺に気ないよな」と思ってた女が急にセクシャルなことを言い出すのでドキッとする、というシーンでもあるのだが、それよりもその言葉の裏で意味を結ぶ、

「あなたはスターであるトム・クルーズをやめて一般人に戻れますか? あなたがいなくても代わりのスターはまた生まれますよ」

 という問いかけがなかなかショッキングであった。
 それに加え、イーサン・ハントは元妻ミシェル・モナハンとイルサとどっちが好きなの問題も勃発し、この二つの問いかけにいかなるアンサーが提示されるのか、というところにも注目。

 さすがにトムちんも顔がどんどんおっちゃんになってきたなあ、ヴィング・レイムスはもっとだが……。五十代も半ばに突入し、アクションを頑張ることによって加齢と戦い、「イーサン・ハント」以上に「トム・クルーズ」というキャラクターを守ろうとしている感あり。目玉はヘリの操縦だが、それ以外にも大怪我したバルクールやらエレベーター吊り下げやら、大変なことをたくさんやってますよ。
 ただ、全て「前作でやらなかったこと」が前提なので、それに伴う窮屈さはちょっと感じたし、ストーリーの方も逆にひねりがなくなった感あり。まあ当然のごとく新キャストのヘンリー・カヴィルが裏切るわけで……予告編でもめっちゃトムを撃ってるのですぐわかることなのだが……陳腐化してしまったなあ。

 イルサに「足を洗えよ」と言って「人のこと言えんの?」と言い返されたりしているが、今作でも実はイーサンは裏切り者!という観客誰も共有しない疑惑が突きつけられる。理不尽な疑惑を持たれてトム可哀想!なのだが、悪役ソロモン・レーンは前回ラストでイーサンに仕返しされたことを根に持ち、仕返しの仕返しをしようと企んでいるので、今度はイーサンがいるせいで未曾有の危機が訪れることになる。しかもその現場にミシェル・モナハン元妻が呼び寄せられ、まとめて始末されようとしている!
 さすがのイーサンも「おまえは、お前自身によって愛する者全てを失うのだ」と言われて動揺を隠せない。ところでヴィング・レイムスおじさんが「イーサンが真剣に愛した女性は、俺の見る限り二人……」とレベッカ・ファーガソンに言い出したところで、まあそりゃ当然ミシェル・モナハン演ずる元妻とイルサのことだとわかるんだけど、いやいやタンディ・ニュートンはどうなったんだ!と思ったのは俺だけだろうか……?

 前作からネタ振りされていた、「イーサンが全ての元凶」「イーサンが無茶するせいで周りも大変なことになる」という疑惑がふくらみ、犠牲が増える前にもうシリーズは幕を閉じてイーサン・ハントも引退すべきなんじゃないの?という究極の選択が突きつけられる。そう、工作員イーサン・ハントが存在するため、映画スターであるトム・クルーズがここにいるために、あるいは多くの犠牲が払われてきたのではなかろうか?

……違います! イーサン・ハントは一人の女性よりも世界に必要な人間で、彼がいるから世界は守られ、世界は救われるんだ! 結婚してるよりも大事なことがあるんだ! というようなことを割としっかり言っちゃうから驚く。元妻ミシェル・モナハンも別れてるけど、あなたのおかげでいい影響を受けて良い人生を歩めているんだ!と語る。
 いやあ、何と臆面もなくイーサン・ハント=トム・クルーズを褒め称えられるものか、と感心してしまう。みんなのために、これからも続編を作り続けねばならない! イーサン・ハントも続けるし、「スター」トム・クルーズであり続けますよ、という堂々たる宣言。もちろん、別れた妻ことニコール・キッドマンケイティ・ホームズもそう望んでいるんですよ……ってほんとかよ、それ!

 ここ数年はかのサイエントロジーとより密接になったとも聞くが、それによって信じる大きな物が自分自身になっちゃったんじゃないの……もう誇大妄想スレスレで、こんな話を作るのはトムちんと彼を敬愛するスタッフしかありえないな……。

 ところでこないだ「今は自由に女を口説けない」みたいなことを発言して炎上したヘンリー・カヴィルは、全然貫禄のない中身空っぽの傀儡みたいな悪役をやってるのだが、レベッカ・ファーガソンショーン・ハリスと殴り合ってる一方で、トムの相手役としてラスボスを務めることに。最後はボロボロにされてせっかくのイケメンが半分焼けただれるのだが、これは『バニラ・スカイ』のオマージュか? おまえも人生の真実に目覚めろ!という、トムからのありがたい教えかもしれないな……。

バニラ・スカイ (字幕版)

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  • Cameron Crowe
  • ドラマ
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