"高所にご注意！　道具の手入れは欠かさずに！"『ミッション・インポッシブル／ゴースト・プロトコル』

　ついにシリーズも四作目！

　ロシアの刑務所に収監されていたイーサン・ハントを救出したIMFのチーム。次なるミッションはクレムリンへの潜入。だが、潜入したその先で罠にかけられたチームは、爆破事件の犯人と言う汚名を着せられ、組織もアメリカ政府から切り捨てられてしまう。長官の計らいでチームを再結成したイーサンは、事件の首謀者を追ってドバイへ向かう。

　かつて観た『3』がビックリするぐらいつまらなかったんだよなあ。中盤までの複数のミッションの畳みかけで構成したあたりは面白かったものの、序盤の思わせぶりな前振りとショッキングシーンに絡むどんでん返しが壮絶にすべったのには驚いた。余計な事しなかったら主人公の完全敗北で終わってたし……。そしてその後に待っていたのは、食堂の裏で殴り合うシリーズ最小スケールのクライマックス！　最初は威勢良かったものの、へなへなと終盤に腰砕けに……。

　そんなこんなで、全然期待してなかった今作。チームには自殺未遂で入院したジョナサン・リース・マイヤーズと、殺し屋に転向したマギーQが脱退し、代わりに地雷処理から転職して来たジェレミー・レナーと、ポーラ・パットンが加入。サイモン・ペッグも出てるよ！
　それより悪役が、オリジナルの『ミレニアム　ドラゴン・タトゥーの女』（http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100210/1265815121）でミカエル役をやってたミカエル・ニクヴィストだったのにはビックリ。ノオミ・ラパスに続き、密かにハリウッド進出を果たしていたとは！　この人が『ミレニアム』でやった役をフィンチャー版ではダニエル・クレイグが引き継ぐのだが、ダニエル・クレイグと言えば『007』や『ミュンヘン』でスパイ役の経験があり、言うなれば今回でお互いの当たり役の交換がなされたような格好になっているのだねえ。しかし、あのマスク脱ぐシーンの大見得の意味のなさには笑ったなあ。

　今作も冒頭から細かいミッションの釣瓶撃ちで構成。チームで役割を分担し、『スパイ大作戦』的な細かいガジェットを駆使して予定の行動を一つずつ消化して行く。最初は脱獄ミッションで、徐々にスケールアップしていく。ミッション進行内容の説明→実際はその通りにいかない、の繰り返しなので、やや説明的かつランタイムが長くなっているが、間の取り方がうまいので、それほど長くは感じない。実際はかなりスピード感のないちまちまとした話なんだが、ここでチームによる会話劇としての面白さを発揮し、キャラクターの役割分担も噛み合ってるので、テンポを落とさない。そしてミッションの終盤、満を持してトム＝イーサン・ハントが走り出す！　それまでのちまちまで密かに溜まっていた鬱憤を、一気にアクションシーンで解消する。

　予告では散々見ていたタワーのシーンも、改めて見るとその高さに辟易したな〜。ケツがむずがゆくなるあの感覚を映画で味わうとは思わなかった。個人的には、その後の砂嵐のシーンのスペクタクルがお気に入り。最後の立体駐車場のシーンも、お互い怪我してモタモタやってるように見えるが、そのモタモタこそが「あと何秒！？」という世界の危機を逆に煽るんだから上手い。

　ほぼ最初から敵が誰かわかってて、そちらもごく少数なんだよね。で、やってることも似てて、スパイVSスパイの対決になっている。個人でテロ行為を企む者を、巨大組織のバックアップで潰しに行く、という非対称性をどうにかするための、今回の「ゴースト・プロトコル」という展開だが、うまく条件が対等になり、知恵比べ的な要素が引き立つように。一進一退の攻防が続き、そのままクライマックスに突入する。
　世界の危機をわずか数人が左右してて、内容も大時代的な「核戦争」で一切政治色なし、小道具共々クラシック。作中の時代設定は現代なんだけど、まったく現代劇じゃないところがポイントで、変に色気を出さず、真っ当にクールで粋なスパイ映画に仕立てたところが良い。衝撃のどんでん返しとか、妙な人間ドラマとかいらないんだよなあ。『3』で詰め切れてなかったところを整理したら、こんなに完成度が上がるのか。

　で、まあそんなどうしようもなかった『3』の顔も最後に立てるあたり、そつのなさも全開なんである。四作目にしてやっと完成を見たシリーズだが、トム野郎も来年で50だし、そろそろ打ち止めかな。ラストショットといい、これはいい終わり方だったのではないか。