"わたしと逃げる?"『ミッション・インポッシブル ローグ・ネイション』


 シリーズ5作目!


 各国で死亡、失踪したはずのスパイたちが集まって構成された無国籍スパイ組織シンジケート。イーサン・ハントもまた罠にはめられ囚われの身になり、彼が姿をくらましたことで不信を買ったIMFはブラントの弁護も虚しく解体され、CIAに吸収されることになる。謎の女の手を借りて脱出したイーサンは、ベンジーの助けも借りて反撃に出ようとするが……。


 『ゴースト・プロトコル』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111223/1324609612)から割合短いスパンで作られた今作。チームのメンバーはヴィング・レイムス、ジェレミー・レナー、サイモン・ペグでほぼ同じ。女子はいません!
 が、テイスト自体はおもちゃ箱的だった『ゴースト・プロトコル』よりも、かなり渋め。オープニングこそサイモン・ペグのギャグの見せ場になっているのだが、その後はどうもおふざけはお呼びでない感じ。新たな敵の計略にハマってしまったトムが敵の手に落ちるのだが、どうせ脱出するとわかっていても『ゴースト・プロトコル』冒頭のなんちゃって収容とは一味違う緊迫感が……。


 謎の女スパイを演じるレベッカファーガソンさんの助けを借りて脱出するトムちん。頼みのIMFの組織的バックアップは断たれ、CIA長官アレック・ボールドウィンにも追われることに……。そんな彼を影ながら助けようとするサイモン・ペグ、CIA内部からバックアップするジェレミー・レナーなど、イチャイチャ感は抑えめで離れていてもカバーしようとする大人の関係アピール。


 バックアップが手薄な中、相変わらずスタンドプレーで無茶な作戦を飛ばすトムだが、一方の主役とも言えるレベッカファーガソンさんにいちいち助けられて、なかなか上手くいかない感じがもどかしい。また敵側の正体の見えなさ、悪役のショーン・ハリスの不気味さも手伝って、実際はそんなに登場人物も多くないんだけれど、幻想が高まるような作りになっている。


 相変わらず脱いでるトムなのだが、レベッカさんが職業意識高くてクールなので、全然惚れた腫れたな雰囲気にならない。が、溺れて半裸状態で助けられるシーンに微妙に隠微なテイストが漂い……。
 だからなんだ、ということは全然明言されないのだが、目と目が合ったりちょっとしたカットで距離が縮まる感じを見せたりムードを出したり……これはもうセンスとしか言いようがないな。もちろん、計算に基づいている。古き良き時代のスパイものの、ちょっと粋な男女の関係というか。


 終盤になっても打開策は見えず、トムちんは段々と追い詰められていくのだよね。で、レベッカさんに、貴方はいつものド派手なスタンドプレーやって自爆するしかない、と指摘されてしまう。まあ今回はいいとして、良くも悪くもド派手に突っ込んでしまう「イーサン・ハント」の「弱点」と「限界」を匂わせるのは、完結への前振りなのであろうか……?


 さらに選択肢として、


「何もかも捨てて、わたしと逃げるか」


と言われて、「うっ……!」となってしまうトムちん! なんか、妙にドキッとするシーンだったのだよね。いやいや、妻がいるから……ということではない。今回は忘れ去られたように登場しないし、もう死んだことになってても別に驚かないぐらいに話に関係ないから。
 そういうことではなく、まだまだシリーズも続けたいし、スターでいたいし、そんな逃げ隠れしたらもう目立てなくなるし……という、俳優トム・クルーズの日頃の自己顕示欲をぶった切るような選択が突きつけられたようで面白いのだ。もう「イーサン・ハント」は「ジェームズ・ボンド」ばりのアイコンとして顔も名前も売れているが、それを捨てろ、シリーズも終われ、と暗に言われているような……。
 レベッカファーガソンさん、美人だけど個性が強烈かというとそんなことはなく、ある意味諜報員らしく、ひっそりと目立たずに溶け込んでしまえるようにも見える。そんな女ならば身を隠してしまえるだろうが、もっともっと目立ちたいんだ〜!という彼には無理! トムとイーサン双方の病理をズバリと指摘しているような鮮やかさ。


 最終的に仲間も誰も死なず、「IMF」も新長官を迎えて温存されるのだが、予定調和的ラストであるにも関わらず、かつてない危うさを感じたあたりが見事でありました。格闘シーンの見せ場もレベッカさんに譲って、トムちんは序盤の意趣返し的な「絵」で締めたところも良かったですね。こうやって俺が俺が感もちょっとずつ抑えて、スタローン的に枯れていくのかな……。クライマックスもそんなべらぼうなスケールじゃなく、実はこぢんまりとしているのだが、そこを『3』のような尻すぼみの追いかけっこにしてしまわないあたりがセンス。


 お話自体はもうどっかで見たような代物なんだけど、様式としての「スパイごっこ」を大真面目にやり切っているあたりは、路線が違うだけで『ゴースト・プロトコル』と共通していましたね。なかなか楽しめました。