"ただトムればいい"『オール・ユー・ニード・イズ・キル』
桜坂洋原作小説を映画化。
「ギタイ」と呼ばれる異星生物の襲撃を受けた地球。制圧されたヨーロッパを奪還すべく、人類の一大反抗作戦が開始されようとしていた。軍の広報官であるウィリアム・ケイジ少佐は、プロモーションのために最前線への出向を命じられるが、臆病風に吹かれこれを拒否。脱走兵として強制的に戦地に送られる。慣れない戦闘スーツを来て出撃させられた彼は、案の定、戦死の憂き目に合うのだが……?
大阪道頓堀であった来日イベントに行ってきました。監督ダグ・リーマン、なっちこと戸田奈津子を帯同し、船で現れるトム。当初の予定では、船がイベント会場エリアに着いてから、トムが船内から登場するという段取りだったそうですが、まだ上流の遥か彼方にいる頃から、すでに甲板に出て観客に手を振り続けるファンサービス精神溢れるトム様でした。いやー、さすがだね、そのサービス精神とフリーダムさ、双方の意味で……。月並みですが、まさにスターですね。
そしてフォトセッションに移るも、なっちがカメラの方向に満遍なく向かせようと「レフト!」「ライト!」とか言ってるに全然聞いてなくて、やっぱり好きな方向に手を振り続けるトム! やっぱり戸田奈津子の字幕は信用ならねえな、という傍証として記憶しておきたいと思います。
トムはいつもカメラ目線!
原作を一応読んだのだが、まあ短編並みのプロットをやたらと引き伸ばした小説という印象で、とくに発端部分の一人称による描写がくどくどと続く割にはまったく面白くなく、息も絶え絶えで読み進めることになった。劇場に置いてある試し読み漫画を持っている人は、たったそれだけの話が100ページ分書いてあると想像してみて欲しい。後半になって話が転がり出して、やっとまあまあ読めるようになってほっとしたところ。
この前半の描写にもそれなりに狙いがあって、主人公一人が同じ時間軸を何度も繰り返しているために、何気なく受け取っていた日常の風景が段々と愛おしくかけがえのないものになっていく、という心理を描こうとしている……のだが、最初から思い入れたっぷりに書き過ぎで滑っているのだな。
さて、映画版ではがらりと設定が変わり、中年の広報係であるトム・クルーズが、新兵として戦地に送り込まれるという話。戦地に行くのが怖いから、命令を拒否して上司を脅すという、なかなかいい感じのチキン野郎なのだが、最近オレ様役ばかりだったトムちんの久々の演技でいいよいいよ〜。『トロピック・サンダー』以来の、ヒーロートム様じゃない役ですね。
もちろん、これがどんどんいつものトム化していって、最後はおなじみ100万ドルのトム様スマイルを炸裂させるところまでつなげますので、ファンの方はご安心ください。
お話上はキーパーソンとなるキャラのエミリー・ブラントだが、設定的にはすでにそのキーとなる役割をトムに移しているのだな。すぐにただのヒロインポジションになり、重要な部分の意思決定は常にトム! 軍の兵士も一応活躍の場面は与えられているのだが露骨に捨て駒だったり、とにかくサブキャラに活躍の場を与えないトムであった。『オブリビオン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130428/1367150398)は人類がろくに残ってないからまあしようがないとも言えたが、今作はより徹底している。原作がライトノベルということで、世界の全てはオレ(とヒロイン)で出来ていると言わんばかりの内容だから、それがトム様の求めるものと一致したのであろうか。
されど、原作は前述の愛おしくかけがえないものとの惜別を描いたのに対し、トム様は全てをがっちりつかんで離さないのである。血を浴びたら能力が移るという、何か妙にざっくりした設定が付け加えられてるな、と思ってたら、『トムリビオン』に続いてまたも豪快なオチが……!
テンポはいいけどストーリー的にはもう一つで、状況が時間的には閉鎖されているのに、空間的には閉鎖されていないので、割とあっさりヨーロッパ中に足を伸ばしちゃうあたりも非常にざっくりしている。それを「次のステージ」という風にゲームになぞらえてしまうあたりは上手いと思ったが、よし悪しというところですね。
All You Need Is Kill (集英社スーパーダッシュ文庫)
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