”いつも見守ってるよ”『さよなら、僕のマンハッタン』(ネタバレ)
マーク・ウェブ監督作!
大学を出て親元を離れたトーマスは、同じアパートに引っ越して来た謎の老人ジェラルドに声をかけられる。人生の目的を見出せないトーマスは、ある日、父親の不倫現場を目撃。愛人であるジョハンナに、父と会うことをやめさせようとするのだが……。
去年の『ギフテッド』はなかなか面白かったなあ、ということで、今作にも割合期待していた。NYを舞台に若者を主人公にして原点回帰を図った内容か?
主人公の名前は「トーマス・ウェブ」で、監督自身の名字に『500日のサマー』の主人公トムの名を合成したもので、まさにこれは俺自身だ!と言わんばかり。父親に反発し、報われぬ恋愛に執着し、創作にも行き詰まり……という冴えない青年。その同じアパートに、謎の老人が越してきて突然話しかけてくる。すぐに親しみを覚えるようになるウェブ青年……。
まあ何か裏があるんだろうな、というのはだいたい想像がつくわけだが、この老人役がジェフ・ブリッジスで、実は今作の製作にも名を連ねているのであった。そりゃあ美味しいところは持っていくわな。
主人公と折り合いの悪い出版社経営の父親がピアース・ブロスナンで、その不倫してる愛人がケイト・ベッキンセール。自身に創作の才能がなかったので出版社をやってるブロスナンが、息子の創作を否定して出版社を継がせようとしていて、認められない息子は当然反発し、ただまあ何も成し得ていないので、その反発は一人暮らしやら父親の愛人を寝取ることにエネルギーが注がれるのである。
ものすごいコンプレックスまみれの陰湿な話で、NYもどんどんくすんで見えてくる。実は有名作家だったジェフ・ブリッジスが主人公に「君は才能がある」と励ますのだが、後々で「I’m your father」が飛び出すのだな。子種がなかったブロスナンが妻と共通の友人だったジェフ・ブリッジスに種付けを頼み、その結果できたのが主人公であったことが明らかに。
どうせ頼むなら親友に、という話だったのだが、実は妻はジェフ・ブリッジスの方を愛していて鬱病になり、ブロスナンはそれに耐え切れず不倫に走り、作家の才能にもコンプレックスを抱いて、息子の才能を否定していた……なんじゃそら。
気持ち悪いにも程があると思うのだが、何とブロスナンの愛人と寝てた息子がこれを理解し共感し、それによって成長するあたりの無理やり感もすごい。だいたい、遺伝で自分の才能を信じるとか、意志薄弱すぎでしょ。目線がびっくりするぐらいこの親世代に同情的と言うか不気味なぐらいに思い入れていて、そこは製作ジェフ・ブリッジスのええかっこしいなのだろうが、こんな老人のセンチメンタルに若者が共感するのは虫が良すぎるだろう。
スサンネ・ビアあたりに撮らせたら、ど直球の老春ものに仕上げたんじゃなかろうかと思うが、ついこないだまでキモい若者の映画を撮っていたマーク・ウェブではな……。ことによると、そろそろ干されようとしているウディ・アレンの後釜でも狙っているのだろうか?
製作ジェフ・ブリッジスが怪しすぎて、戦犯がマーク・ウェブかと言うと断言し切れないが、彼が瑞々しさを失い、オッさん化した記念碑的作品になりそう。前からキモかったけど、キモいおっさんには全く価値がないぞ……。
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