“動物のお医者さん”『RAW』


映画『RAW〜少女のめざめ〜』日本版予告

 人肉映画!

 ベジタリアンの獣医一家の次女ジュスティーヌは、姉も進学した獣医学部に進む。新入生の通過儀礼で生の内臓を食べることを強要された彼女は、人生で初めて肉を食べ、強烈なアレルギー反応に見舞われるのだが……。

 獣医学部と言えば傑作コミック「動物のお医者さん」だが、今作の獣医学部は体育会系丸出しで、ベルギーも結構いやなところだな、と思いましたよ。
 ベジタリアンとして育てられた次女が、長女と同じ獣医学部に進学するも、そこで自らの隠されていた嗜癖に目覚める、というお話。雰囲気頼みの映画かと思いきや、設定や人物配置がオチに向かって練られているのが後からわかる。
 そもそもなんでベジタリアンだったのか、あまり出番のない両親の言動、密接に関わることになる姉の行動、全てが伏線で、終わってから振り返ると、なるほどそういう意味であったか、と……。

 獣医学部ということで、解剖や屠畜描写が続々と登場し、体育会系な学部のさまざまな儀式と合わせ、性行為未体験であり初めて故郷を離れた主人公に対して通過儀礼メタファーが過剰なぐらいにのしかかる。おぼこくてムダ毛も処理していない妹に対し、若干うざがりつつもやっぱり世話を焼く姉だが、脇毛は良かったが、パンティラインの処理で壮絶に失敗……。
 このシーンの遥か前に、寝そべってる妹ちゃんの脇毛が見えるカットがあって、印象付けも上手いし、伏線もきっちり拾っていく。

 もう少し個人的な話かと思いきや、思春期の少女の身体的、心理的葛藤を一般的なものとして捉え、それを「人肉食」という嗜癖にシンクロさせて、テクニカルな問題として描くので、思いのほか普遍的な話になっている。そこに加えて「血統」の問題をも持ち込み、吸血鬼か狼男か、というクラシックなホラーの要素も入れ込んで、なかなかミルフィーユ的に欲張ったな……。
 大人になるとは、愛とは、家族とは、という大上段に構えた大真面目なテーマを内包しつつ、ジャンルホラーとしてグロやら殺人もきっちり見せ、ついでにおっぱいに尻、陰毛も出すという、サービス精神も満点(別にやらしくはないのだが……)。ああ、生きるということはなんと生々しいのだろうね。