”いつもシャーク・ジョークを”『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
アカデミー主演男優賞受賞『マンチェスター・バイ・ザ・シー』予告編
ケイシー・アフレック主演作!
アパートの修繕人として働くリーの元に、離れていた故郷で兄が倒れたという知らせが届く。数年ぶりにマンチェスター・バイ・ザ・シーへ戻った彼だが、兄は息を引き取った直後だった。故郷には多くの思い出があったが、リーにはそこで暮らせない理由もあった。だが、兄は遺言で彼を息子の後見人に指名していて……。
ケイシーがアカデミー主演男優賞を受賞した映画。セクハラ訴訟問題などあって、授賞式でプレゼンターのブリー・ラーソンが冷たかったのが話題になりましたが、果たして映画の内容は……?
心臓が悪かった兄の死の連絡を受けた弟ケイシー、故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーへと戻ってくる。どうもこの街へ戻りたくない、嫌な思い出があるらしいケイシー。兄の死体がベン・アフレックだったら面白いな、と思ったがカイル・チャンドラーで、この後ちょいちょい生きてる時代のシーンも出てきます。
高校生になっている甥と数年ぶりに再会し、父親の死を告げる役をするケイシー。今回のキャラは無愛想で短気なのだが、生真面目なところもある人物像で、過去のトラウマでダメ人間になりかけながらも踏みとどまっている。
過去シーンは、「事件」の手前、ケイシーに今はいない妻子がいた頃や、甥が小さくて兄とも近所づきあいをしていた頃を幾度も回想する。弁護士との会話シーンの合間に回想するのだが、現在、過去、現在、過去と何度も往復する入れ替え方が独特。いや、実際に上の空で会話してる時ってこういうことよくあるなあ、と思うが、映画では珍しいような気がするね。
話を聞けよ! とも思うが、この人なりの事情で葛藤やショックがでかいこともわかるので、キャラの表現としていかにもらしくて面白い。
兄の遺言で甥っ子の後見人に指名されていて、弁護士に指名されて寝耳に水、「いや無理無理無理」とごねるのだが、確かに自分しかおらんような状況でもあり、でもこの街にはいたくないし、甥っ子自身はとどまりたがっているし、と色々と板挟みの状況に。
脚本の人物配置、状況の見せ方が上手くて、複雑なキャラクターなんだけれど状況を整理して伝えることでその複雑さに没入できるようになっている。酒のせいで大事故を出しているのだが、当時から飲酒運転しないぐらいの分別はあり、でも時々酔っ払って喧嘩したり、なかなか真っ当にはなりきれない感じ。そこがまた物の考え方や価値観は似てるんだけれど(シャーク・ジョークとは……)どっしり構えていた兄との違いで、後見人の立場へのプレッシャーにもなっている。
甥っ子ちゃんはよく会ってた小学生時分は懐いてたけど、今やガールフレンドを家に連れ込む高校生(しかもバンドやってる)になってて、父譲りの気の良さは持ちつつも若いせいか短気で、親しいようなよそよそしいような微妙な距離感に……。
ただまあ、ケイシー弟の自分は兄とは違うという、半ばコンプレックスとも呼べるものが、逆にいい感じに「父親づら」しないようにさせていて、この軽さこそが叔父甥のいい関係なんではないか、という気がしたね。
冬場は地面が固くて土葬できないので、兄の死体を冷凍して保存することになり、甥っ子はショックを受け、冷凍のチキンを見ただけで取り乱してしまうように。克服したという表現でアイスクリーム食ってたり、とぼけた味が時々出ていて面白い。
何かしら解決してのカタルシスというのはほとんどなく、上手くいかないながらもどうにかこうにか綱渡りしながら生きて、無理なことは無理だけどなんとか責任を果たそうとする姿勢を、見守るようなスタンス。家族は失われて元の形には決して戻らないが、再生ではなく新しい形を模索してそれぞれ受け入れ合うような……。
音楽が若干情緒的すぎる? が、単に車で走ってるシーンでも使ってて変にミスマッチ感があって面白いところも。感動的な演出しても良さそうなところをちょいとすかしたり、天丼的に同じようなシーンを繰り返すところも、シュールな味わいがあって面白い。
演技賞、脚本賞も納得の映画で、大変良かったですね。
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