”光と影と”『善悪の刃』
【映画 予告編】 善惡の刃(特集上映『反逆の韓国ノワール2017』)
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反逆の韓国ノワール!
度重なる敗訴で職にあぶれた弁護士のジョニュンは、話題性の獲得のために再審請求を起こそうとする。選んだのはタクシー運転手殺害で服役した、当時15歳の少年ヒョヌ。遺族への賠償に苦しむ彼に最初はすげなく扱われるジョニュンだが、徐々に彼の無実への確信を深めていく……。
これも中華映画祭りと並んで定番になるのかな? 抱き合わせで四本公開。今回は二本鑑賞。
原題は『再審』というそうで、実在にあった冤罪事件をモデルにした映画。すでに服役を終えた元容疑者に、金稼ぎ目当ての貧乏弁護士が接近する。弁護士役はチョン・ウ。大泉洋的なルックスで、イケメンではないが人好きする味わい深い風貌ですね。住民訴訟で敗訴し、妻子にも見放されて全然金がない中、友人も勤める大手事務所に潜り込むべく、金になりそうな訴訟のネタを探す、というのが最初の動機。
全く善意とは言い難かった弁護士が、カン・ハヌル演じるやさぐれてしまった青年の再審請求に当たる内に、あまりに酷い韓国警察のやり口と司法の杜撰さに怒りを感じるようになり、自身の依頼人の利益を確保することで自身の儲けを得ようとする主義も揺らいで行くようになる。
当たり前だが、司法の倫理を問うことによって、自身のそれをも問い直さなければならない。事務所勤めしていた友人の弁護士が文句を言いつつ主人公を引き立てようとしてくれるのだが、皮肉にも主人公が弁護士としての正義と信念に目覚めるのに反比例して、「あんたの言ってたことだろう?」と言わんばかりに、独立して金を求める弁護士に変容していくのである。かつて酒を飲んで管を巻いたテーゼを、そっくりそのまま目の前で実践され、自分の過去そのものと対峙せねばならない。まさに弁護士の光と影……!
得を追求する実利主義に対し、弁護士として法と依頼人を守る理想主義は過酷な荊の道である……という話にも取れるが、冤罪に苦しむ依頼人を前にして、自分の中に湧き上がる何がしかの良心を握りつぶすことは、それほど楽な生き方なのか?とも思える。それだけチョン・ウさんの演技が良いですね。
また韓国映画らしく、青年のお母さんやら田舎の人々もいい味を出しており、悪徳警官の憎々しさもベタで最高です。
『トガニ』などに引き続き、韓国の司法の腐敗と来たらなかなかに半端ないわけだが、こうして映画になって批判されるだけマシなのかもしれないね。本邦にも最近、詩織さん事件の揉み消しなどがあったわけだが、さてこうした事件に切り込む向きがあるかというと……?
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”ホテル内では厳禁です”『ジョン・ウィック チャプター2』
キアヌ・リーブス主演作!
あの死闘から五日……。愛車を取り戻したジョン・ウィックに、新たな依頼者が訪れる。かつて組織の掟に乗っ取り誓印を交わしたマフィア、サンティーノによる姉殺し……。引退を決意していたジョンは一度は断るものの、サンティーノはジョンの自宅を破壊し組織を通じて圧力をかける。渋々仕事を実行したジョンだったが……。
「ブギーマン」「バーバヤーガ」と呼ばれるキアヌさん。前作は「ガン・フー」とかぶち上げたものの、正直華麗なるアクションとは言い難かった。もう年齢の問題もあるし、そもそもこの人は身体が固いんじゃないかな……性格も固そうだし。キレがないのは「ブランク明けだから!」という解釈もあったが、それなら後半にはメリハリがついてくるとかそういう演出もあり得たわけでちょっと苦しかったかな……。
さて、今作はバーバヤーガの復帰第2作ということで、もうブランク明けという言い訳は通用しないぞ、と思っていたところ。果たしてキアヌさんのアクションは華麗さを取り戻したのか……? 結論から言うと全く華麗ではなく開き直ったようにヨタヨタと歩き回り、近接時の銃さばきだけがスピーディ。わけのわからない気迫と不死身ぶりで、ダメージを負っていても構わず前進するゾンビかクリーチャーのようなスタイルに……。うむ、この方がブギーマンぽくていいんじゃないの。強さを感じるかというと感じないが、負傷させても効いてるのか効いてないのかわからないこのスタイル、相手から見たらさぞ嫌だろうな……。今回は多数の殺し屋が相手なので、より「バーバヤーガの伝説」が引き立つような格好に。
さて、犬が殺されたせいで不本意なビッグ・カムバックを果たした前回のキアヌさん。今作では今度こそ本当に引退したい……のだけれど、現役時代に交わした約定のせいで、もう一つ殺しを請け負わなければならなくなる。ゴネるんだけれど嫌々受けて、散々な目に遭いつつミッションを達成。が、今度は口封じのために依頼者から狙われることに……。
今回「誓印」という設定が出てきたり、殺し屋組織の息のかかったホテル内での殺しが厳禁の中立地帯であることにスポットが当たったり、前作では「オシャレな小道具」だった殺し屋組織のがメイン級にフィーチャーされている。一応、組織も組合的に動いて連絡網を敷いていたりするのだが、殺し屋個人は完全に使い捨てで、全然保護されていないのな。それなりに名の通っているジョン・ウィックも同じ扱いで、「誓印」だけ守らされて苦労するのに、守ったら守ったでその後裏切られても何のフォローもなし、ホテル内の殺しだけは頑なに止められる……。
うーん、もうこんなホテル、めちゃくちゃやってぶっ潰しちゃえばいいんじゃないの。しかし冒頭で車を取り返すのにめちゃくちゃやるキアヌさん、どうもこの組織に対しては遠慮深いのである。いや、そりゃあ力関係を考えたら、あまり敵に回したくはないのだけれど、どう考えてもこのせいで引退もできないし、余計なトラブルを背負い込んでる。
今作では、まずこのやたらと思わせぶりな世界観が先に立ち、キアヌさんがそれに追いかけ回され、振り回される格好になる。もうずばりアウトサイダーになって反抗するか、あくまでインサイダーであるならばルールを逆手に取るなり何なりして地位を確保するかしないといかんのだが、最後の最後でやっとこさホテル内殺しをやるまで、どうも煮え切らない態度が続く。いや、このどっちつかずの茫洋としたいい人感、というのはいかにもキアヌさんらしいと言えばらしいのだが、どうにもフラストレーションの溜まる話だね。こういうローカルルールに過ぎないことで争うより、やっぱり犬が殺されて怒った方が、面白かったんじゃないかな……。
これからあるだろう続編ではさらに殺し屋を敵に回すわけで、さすがにもう少し切り込まざるを得ないのではないか、と思うところだが、また共通の敵、もっと強力な殺し屋とかが出てきて手打ちするという展開になるのかな……って、それは『マトリックス レボリューション』か……。
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”箱を開けた先”『ディストピア パンドラの少女』(ネタバレ)
ゾンビ映画!?
奇病が爆発的に蔓延した近未来。残った数少ない人間は、ハングリーズと呼ばれる感染者を避け、壁に囲まれた基地内で暮らしていた。イギリスの田舎町にある基地で暮らす少女メラニーは常に拘束され、仲間とともに教育と実験を受けていた。感染者が基地内に侵入した日、メラニーは自分と世界の秘密を知る……。
これは予告編だけ見て楽しみにしていた映画。最初の特報でもぼんやりとゾンビものなのかな?と思っていたが、やっぱりそうだった。主人公は拘束された少女で、何かに感染していて、大人との接触を禁じられている。同じように捕まっている小年少女の教師役にジェマ・アータートン。今回はエロさ完全封印でセーターなんか着てますよ(いや、もちろんそれこそがエロいんだ、と思う向きは別に否定しないけど……)。しかし顔ちっちゃいな! グレン・クローズがめちゃ顔でかく見える!
植物由来で胞子によって感染する、という今作オリジナルの設定に則って話が進む。感染した妊婦の胎児がゾンビ化して成長し、母体を食い破ったというのが主人公ほか、感染したが理性を保っている者たちの設定。これは……『ブレイド』だな……。ある種のハイブリッド的存在として設定されている。
ストーリー展開がすべてこの設定とシンクロしていて、どこを取っても不可分で遊びがない。ゾンビも単に腐るのではなく、症状が進行するとどんどん植物が発達して身体が覆い尽くされてしまう。で、さらに進むとどうなるか……?というのが肝。
それと並行して、主人公の少女を、感染していない人類との中間の存在として対置する。……が、こちらは相互理解のための架け橋としての存在ではなく、やはりすでに人間とは異質の存在である、ということがじわじわと表現されていくのである。「猫」のシーンが象徴的ですね。
ものすごくわかりやすく「パンドラの箱」の逸話が紹介され、主人公のメラニーこそが「パンドラ」に当たり、最後は当然「箱」が開けられる展開になる。そこに入っていたのは希望なのか、希望だとすれば、それは誰にとって何にとっての希望なのか?
ハングリーズというネーミングが『クレイジーズ』っぽくて、ゾンビ共々ロメロさんオマージュなのかな。ほぼゾンビの第1世代と主人公ら第2世代のギャップが大きすぎて別物感があるし、おなじみ噛まれて感染と胞子吸って感染が直感的に結びつかない座りの悪さなど、今作ならではの設定と『ゾンビ』の食い合わせ感の問題も少々。さらにこのオチは『アイ・アム・レジェンド』の原作か……? ということで、色々詰め込んでいるわね。
そんなこんなで、設定的には新鮮味はないはずなんだが、主人公のキャラクターなどでフレッシュさを出していて、まずまず面白かったところ。
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”砕く。砕く”『ライフ』
ジェイク・ギレンホール主演作!
6人の宇宙飛行士が集まった国際宇宙ステーションで、一つの実験が開始されようとしていた。火星の地表から休眠状態で採取された謎の生物。刺激を受け、酸素を吸って少しずつ目覚め成長して行くそれは、脳と筋肉のみで構成された強靭な生命体だった。かつて火星に君臨し、そして滅ぼした力が少しずつ牙を剥き始める……。
監督はダニエル・エスピノーサ……『デンジャラス・ラン』と『チャイルド44』か……なんかイマイチな映画ばっかりやん。
chateaudif.hatenadiary.com
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共演はライアン・レイノルズにレベッカ・ファーガソン、真田広之と豪華キャストですよ。そんな彼らを含めた6人のステーション勤務の宇宙飛行士たちが、火星から持ち帰られた謎の生物のサンプルを実験。ゾウリムシみたいな小さな生き物にあれやこれや刺激を加える。実験担当は両脚が麻痺していて、この生物の秘密を解き明かせば治療の道が開けるのでは、と期待を寄せる。生物はまさに考える筋肉と言える……って、これは『寄生獣』の設定に似てるな。
生八つ橋ぐらいのサイズに成長した生物は「カルビン」と命名される。二重に隔離された実験室内で少しずつ動き始め、手袋の上からまるでコミュニケーションを取ろうとするように巻きつく……。
じわじわと大きくなっていくカルビン君なのだが、まだ手のひらぐらいのサイズなのに物凄く力が強い。握手が強烈! 東宝のドゴラを思い起こさせるデザインで、結構器用に道具まで使い始める。仲間を助けるために実験室に入ってきたライアン・レイノルズをまず血祭りに!
このカルビン君のひらひらとした動きが秀逸で、無重力空間にいかにも適応してそうな軽さと優雅さ、広がっては抱擁するようなアクションがトレードマーク。序盤、人間がこのステーション内でどれぐらいの速さで動けるか、を見せてくれるのだが、それを徐々に上回っていく。『ゼロ・グラビティ』後の宇宙映画ということで、あのステーション内の表現もモンスターパニックにきっちり踏襲しちゃうあたりが心憎いですね。
カルビン君、最大でも中型犬ぐらいのサイズにしかならないのだが、この全然強そうじゃないサイズ感なのに、捕まったらもう終わりというタフさと得体の知れなさを出してきていて、実にいいですね。ただ、一人殺して食ってからは、身体が内側から血の色に幾分染まって、顔っぽいものができて、その得体の知れなさはちょっと薄れたかな……。この成長後のデザインはいけてない。ドゴラで通せば良かったのに。
ただ、最後にポッドに「同乗」するカットは、「顔」があるがゆえのシュールさがあって面白かった。
メインの登場人物は6人だが、一人一人、結構ねっちりといたぶり殺していく手順もいいし、最初に殺されるやや軽薄げな役回りを買って出たライアン・レイノルズの漢気も良し! 真田広之の活躍で中盤も締まり、地球に帰りたくないマンであるジェイク・ギレンホールが渾身の決め台詞をラストに食らわせてやっぱりいつものメンタル病みキャラであることを強調! キーパーソンであるはずのレベッカ・ファーガソンの何もしてなさもこれはこれでありか……。
アリヨン・バカーレさんの、隔離失敗の発端を作っちゃって以降のメンタル弱げ感も面白かったな。ちょっとした同一化願望みたいなものが、最後に効いてくる。
丁寧に作ってるが、やっぱりジャンル映画のパターン化にはまっている感は否めない。……が、それでいいんだ! B級SFホラー作りたいんだ!というマインドが感じられて、これはこれで良し。多くを期待しなければ大変面白かったですね。オチもまあだいたい読めるけど、だからこそ「キター!」という気持ちになれるわけでね……。
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”解けて、また蘇る”『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』(ネタバレ)
シリーズ第五作!
呪われた運命を背負った父、ウィル・ターナーを救うため、息子のヘンリーは呪いを解く方法を探し求めていた。海の死神サラザールに捕まった彼は、サラザールも呪いを解く方法を追い、ジャック・スパロウの持つ「北を指さないコンパス」を探し求めていることを知る。投獄されたジャックと出会うヘンリーだったが……。
どうにも仕事もプライベートもいい話がないデップさんが、久しぶりに看板シリーズに復帰しました。仕切り直しのはずだった四作目はほぼなかったことになり(すいません、ほぼ記憶にもありません)、冒頭からオーランド・ブルームが復活。しかし、まあ呪われちゃったけど意気揚々としてたはずの三作目ラストから打って変わって、顔がフジツボだらけの暗いムードに……。いや、愛のために呪いを背負って七夕みたいなキャラになったという話だったと思うが、この呪いって解ける、解かないといけないような話だったのか。じゃあ三作目でオチがついたみたいになってたのはなんだったんだ……。
冒頭のウィルの息子の、父親に会うための活躍がなかなか良くて、こんなジュブナイルっぽい話なのかと思ってたら、あっという間に九年経って青年になってしまった。これは二作ぐらいにわけてもいいネタかと思ったが、まあそこを詰め込まないとちょっとシリーズの寿命がもたないのかな。
子分に見放されてうらぶれているジャックとウィルの息子、そして天文学者志望の女が手を組んで、海のあらゆる呪いを解けるというポセイドンの槍を探す、というお話。基本、ジャックにはいまいちモチベーションがないのだが、かつて海に葬った軍人ハビエル・バルデムが幽霊として蘇って狙って来るので、しょうがなく行動に出ることに。
ちょろっとだけ若い頃のジャック・スパロウが出て来るのだが、この頃はまだギラギラして野心的に見えて、その狂気性にお堅い軍人様はあえなく葬られたのがよくわかる。対して今のデップさんは実績的にはほぼ「上がり」の感が強いし、このジャックのキャラも成り行き任せで主体性をいまいち感じないのだな。そこはベタだけど、「しょうがないからウィルのアホを助けてやるか」とちょっとでもやる気を出してみればよかったのではなかろうか。
あとはジャックと対照的にブイブイ言わせて稼いでいるバルボッサが、生き別れになっていた娘と再会するという話が……いやはや、これも強烈な後付けだな。さすがはジェフリー・ラッシュ、こんな適当な設定でもそれなりに泣かせてくるわけだが、どうも定番の親子ネタをぶち込んで盛り上げよう、という安直な発想がちらついて見える。
呪いかかりました→解けました→死にました→生きてました、という流れを繰り返しているシリーズなので、脱落しても人気orテコ入れなどの都合でいつでも復活するだろうし、新鮮味は全然ない。まあやっぱり元がディズニーのアトラクションなわけで、並び直したらもう一回同じ演目やるのと似たようなことかもね……。
オーランド・ブルームが成長した息子に「立派になったな……!」というシーン、いや、おまえこそやっと童顔が抜けて立派になったよな……とちょっと思っちゃったね。そして最後だけだけど出てくるキーラさん、これは出演なしかなと思いきや、めっちゃ遅れて走って来るところとか最高ですね。
で、やっぱりこの二人のキューピッドはジャックなんですよ、という一作目のお約束も踏襲しているわけです。
ただまあ、これをもって本作が普通に面白く観られた一作目に原点回帰したか、と言われるとそれは怪しい。海賊である理由はどんどん希薄になっているし、呪いの描写や解き方の大味さもなんだかなあ、という感じで……。
また、この感動的なラストも、これだと三作目のオチをハッピーエンドめいた演出にしたのは何だったんだということにならないか……? さらにあの人まで復活したら、ますます無意味化しないか……?
いい加減苦しくなっているのがありありのシリーズだが、もうこれ以上キャストのテコ入れも難しかろうし、今作で少々強引なフィナーレとするのがいいんではないかな。
どうしても作りたければ、若い頃のジャック役の人はなかなか良かったし、プリクエル的に昔の話を三部作にでもしたらいいんじゃないかな。デップさんは時々出るぐらいにして……。
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パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト (字幕版)
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”あの子をお願い”『20センチュリー・ウーマン』
マイク・ミルズ監督作。
1979年、サンタバーバラ。15歳の息子ジェイミーを育てるシングルマザーのドロシアは、思春期真っ只中の息子の教育に頭を悩ませていた。下宿人である写真家のアビーと、ジェイミーの幼馴染のジュリーに彼を導いてやって欲しいと頼むドロシアだったが……。
一昔前なら「20世紀女」とか邦題つけられそうだった映画。表題の主人公はアネット・ベニングが演じ、舞台は1979年。後に後日談的に2000年までが語られる格好で、主人公がまさに20世紀を生きた女性であることがわかる。
下宿の管理人でありシングルマザーであるアネット・ベニングと、その長男。グレタ・ガーウィグ演ずる売れてなさそうな写真家、ヒッピーの大工ビリー・クラダップが同居し、時折長男の幼馴染であるエル・ファニングが訪ねて来る……というのが主要登場人物。
全員世代がバラバラで、血縁があるのは主人公親子の二人だけ。擬似家族と言うには内部で恋愛が絡みすぎて複雑化する一方、皆どことなく人に対して繊細であったり臆病であったりドライであったりと、一筋縄では語れない距離感がある。そこが何ともリアルであり、決して閉鎖的にはなりはすまいとお互いに思いながらすれ違いを繰り返す原因なのかな。
15歳を迎えた長男と、最近話が合わなくなってきたお母さんベニングが、グレタ&エルちゃんに彼を導いてやって欲しい、と頼むところが面白くて(話がつまらないと言われてる大工さんは除外)、えっなんで私らが……?と困惑気味なところを押し切ってしまう。息子を導くのは父親!みたいな価値観とは真逆の道を行くわけだが、さてこの人選は正解なのか否か? とりあえず二人が自分のことを頼まれた、と聞いた息子ちゃんは結構イラっと来てしまうのであった。この年頃の少年の自意識よ……。
何かしたいんだけど過干渉もしたくない、そんなおかん。自分が自由人であるだけに束縛されるのはいやだけど、息子に対して放任主義にもなれないという……。大変面倒くさいのであるが、頼んだ二人も息子ちゃんも全然制御できず、明後日の方向へ突っ走っていくのであった。
近所に住んでて夜だけ息子ちゃんの部屋に泊まりにくるエル・ファニングちゃん、ただしセックスはなし。若いうちは人の気持ちも考えず、こう都合のいいことをしたがるもので、息子ちゃんの悶々っぷりが悲しくも可笑しいですね。
おおむね落ち着いた登場人物たちなんだが、解決できない問題が人生には多々あり、常に悲喜こもごもがある。それもまた人生であり、20世紀を生き抜いた母の一生なのであった。なかなか丁寧な映画で、大変良かったですね。
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ドルフコレクション。リマスター版ですが、BDじゃないのは残念ね……と思ったら特典でBDが入っているパターン!