"明日なき自家中毒"『デンジャラス・ラン』


 デンゼル・ワシントン主演作!


 南アフリカケープタウン。十年前、CIAを裏切った伝説の凄腕工作員トビン・フロストが、謎の男たちとの追撃戦の果てに米国総領事館に逃げ込んで来る。彼の身柄を確保したCIAは、ケープタウンに用意された隠れ家に護送し、拷問を行う。だが、そこにもまた謎の男たちが……。襲撃を受けながらも生き残った隠れ家の管理をする新米職員マットは、フロストを連れ出し、逃れようとするのだが……。


 秘宝の紹介記事では面白そうだったのだが、うまく煽りに乗せられてしまったなあ。なんだこのつまらなさは……。


 最近では『ボーン・レガシー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120813/1344829990)でも感じたことであるが、CIAを題材にした現代のスパイ映画は、ネオナチKGB、アラブのテロリスト……もう戦う相手を失ってしまって、お約束の裏切りと内輪もめばかり描いている。それはそれでいいとしても、メインのストーリーがあってこその裏切りなわけで、プロットがスカスカ。閑職と化した「客室係」に象徴されているが、もうこんなことはやめてアメリカに引き上げたら?と突っ込みたくなってしまう。話のスケール感が大きいように見えて「警察内部の汚職」と同じレベル。ニューヨーク市警の潜入捜査で充分な話。もう描く事がなくなって、それでも何となく便利なガジェットだから使い続けられている。すっかり自家中毒を起こしているよね。
 せめて『ワールド・オブ・ライズ』ぐらいに現地の空気感を切り取るか、あるいは『ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111223/1324609612)のようにオモシロ小道具で世界滅亡の危機に立ち向かうような荒唐無稽な話にしてしまうか、もう少し突き詰めなければスパイ映画の明日はないのではないか。


 全編「やりすぎないトニスコ」のような演出で、おいおいそこは早回ししろ! ポーズかけて時間表示出せ!と何度か突っ込んでしまった。いや、やったらやったで怒っただろうけど(笑)。『アンストッパブル』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110111/1294725473)に続き、デンゼル・ワシントンが若手を厳しく指導する話。ワルと見せかけて実はそうでもない、というのも定番パターンだが、そんなもん個人でいくら悪かろうが組織的暴力の方が何倍もおぞましいに決まっている。
 その若手ライアン・レイノルズが外勤の職員で諜報員志望、ということだが『ゲット・スマート』もこんな感じの話だったっけ? 実にぼーっとした顔をしてて、デンゼル先輩との対決の中で色々と教訓的なことが飛び出すものの、わかってるのかわかってないのかよくわからん。いや、話の構造上は後輩キャラなんだが、一応相手は逮捕された裏切り者なんだから、そんなほいほい話聞いててもダメだよね。人の心につけこんで操る、とか言ってるし。どっかでブレイクスルーとして、「裏切り者」が「頼れる先輩」になる価値観の転換が欲しかったところ。その転換一つで、今まで惑わされるまいとしていたことが突然教訓に変わるような……。が、無駄に裏切りネタを仕込んだ司令室と交互に映るからなんとなく展開が流れて行ってしまう。


 デンゼルがヒゲアフロからイケメンに変身するあたりで、ファンならまあそこそこ満足できるかな? と思ってたら最後もあれだしなあ。最後の台詞はライアン・レイノルズに対する暗示なんだろうが、無理だって! 続編の噂とかあったが、狂気の沙汰だろ……。『グリーン・ランタン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110710/1310224080)に続いてそそくさとお蔵入りにした方がいいと思います。

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