”荊の城に来た者は”『お嬢さん』


『お嬢さん』劇場特別予告編


 パク・チャヌク監督作。

 1939年、日本統治下の朝鮮半島。膨大な蔵書と強権的な叔父に囲まれて豪邸で暮らす秀子のもとに、新しいメイドがやってくる。珠子、本名はスッキ……。彼女は、秀子と財産を狙う伯爵という詐欺師の仲間だった。秀子と親しくなり、彼女の安心を買おうとするスッキだったが……。

 これは今年の期待作の一本でありました。『イノセント・ガーデン』以来のパク・チャヌク映画で、ハリウッドから韓国に舞い戻ったものの原作はヨーロッパのミステリ、それを大日本帝国統治下の朝鮮に翻案という、大胆そのものな企画ですよ。サラ・ウォーターズ『荊の城』ということで、これは耽美色も強いし、監督の資質的にもぴったりなんじゃないか、と思っていたところ。

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 映画は三章で構成されていて、もう第一章だけでも普通のサスペンス映画一本として成立しちゃうぐらいの完成度。主演の「お嬢さん」はキム・ミニ。『火車』の韓国版で見たな……日本版では佐々木希がやってた役を「台詞あり」で演じていましたね。そして「お嬢さん」と呼びかける側である侍女役をキム・テリ。この子は完全に新人で、オーディションで選ばれたという新星。侍女として潜り込んではいるが、実は詐欺の片棒を担いでいるというキャラ。純真そうでいて実際は小狡い面もあり、したたかさとうぶさが同居している存在感。これは確かに役者としてのカラーがまだないからできる役。

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 詐欺の仕掛け人はハ・ジョンウで、この人はまあいつもの役と言うか、悪賢く、マッチョで、でもちょっと可愛げのある偽貴族を演じている。
 第一章では仕掛けの全ては伺えず、随所に違和感を覚えさせつつも、まずは最初のどんでん返しへ……。二章、三章と進むにつれてキャラクターの裏の目的や心情が次々と明らかになって行く。

 167分という長尺だが、洋館と日本家屋の組み合わさった舞台(劇じゃないがこういう表現をしたくなる)の絢爛さと、そこに渦巻く奇怪な情念が重層的に積み重なって、非常に密度の濃い物語性を獲得している。
 閉ざされた家庭環境からの脱出、という『イノセント・ガーデン』感も踏まえつつ、悪の成長譚ではなくガール・ミーツ・ガール的な爽やかさが、ドロドロの物語から立ち上ってくるというギャップにやられますね。ウォシャウスキーがまだ兄弟だったころの『バウンド』であり『テルマ&ルイーズ』であり『マッドマックス 怒りのデスロード』であり『少女革命ウテナ』であり……。

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 それに対し、最後までチンコにこだわる男の矜持の悲しさ! またこのキャラがハ・ジョンウにぴったりで、男は幾つになっても男子中学生のようなマインドを持ち続けてしまうのだ、という情けなさを体現しつつ、激ヤセして変態を演じるチョ・ジヌンと共に「崩壊」を迎える展開の異様なカタルシスよ。

 オチは原作と変わってるので、サラ・ウォーターズも最初は「え〜っ、じゃあ原作じゃなくて原案にしといてね」と渋ってたのが、完成したら喜んでしまって三回見た、というのもまたすごい話だ……。
 第一部の正体の見えない息苦しさが、第二部において重層な建築物そのままの密度で正体を現し、それが第三部において見事に打ち壊される鮮やかさ。ネタや展開がまったく読めないかというとそうではないが、それ以上にそこで物語られることの痛快さにやられますね。期待はしてたけど、軽く飛び越えて来た面白さでありました。

”故郷を目指して”『LION』


『LION/ライオン ~25年目のただいま~』予告編

 グーグルアースで故郷を探せ!

 オーストラリアで暮らす青年、サルーの過去。それは5歳の時に生まれたインドで迷子となって家族と離れ離れになり、生き別れのまま養子に出されたことだった。二十数年を経て、母と兄を探すため、サルーはわずかな記憶を頼りに故郷を探し始める……。

 実話ベースのお話ですが、いきなり「これは真実の物語」としちゃう戸田奈津子字幕。まあ全てが本当というわけではなく、映画化ならではの脚色もされています。

 前情報ではこのグーグルアース話にスポットが当たっていて、大人になってから過去回想を交えつつ進める構成かな、と想像していたのだが、割合直球に子供時代から始まる。兄ちゃんの仕事について行くが、駅ではぐれ、電車に乗ってしまい数日閉じ込められたまま揺られて遥か彼方に……ついた先は言葉も通じない!

 いやあ、インドは広いね……。そして、お供え物を食べて食いつなぐ少年に迫る、子供さらいの魔の手……。浮浪児を直接さらってくような暴力的なのから、世話しながら言葉巧みに騙して売り飛ばすような陰湿なものまで様々。主人公サルー君は危機察知能力が高く、これを回避し続け、やっとこさまともな人に拾ってもらえることに。しかし施設に入ったら入ったでそこもきな臭く、夜中に連れ出される男の子を目撃……。まあ大人が見りゃもろに虐待だ、とわかるわけだが、子供目線だと何だかわからないけれどとにかく危険なことが起きている、ぐらいの感じか?

 そしてついに運命の出会いが訪れ、タスマニアから来た夫婦に里子として引き取られることに……。この母親役が二コール・キッドマン。近年では初めて若作りせずに役を演じた、ということ。登場時の30歳前後とサルー少年の成長後の50代を大差なくやっているため、やっぱり時空が歪んでる感じはしたんだが……。
 少年と里親夫婦の対面時、サルー君はタスマニアと書いたTシャツを着せられてて、アピールが激しいなインド人! 自重してくれ!と思ったが、これも実話なのな。

 そして25年、何不自由なく成長したサルーだが、同じ境遇で後から里子として迎え入れられた義弟のマントッシュ君は、家を出て立派なヤク中になってしまっていた……。インドで虐待を受け、自傷癖を持って育ってしまったマントッシュ君の不幸さを見るにつけ、サルーは自分とのギャップを感じ、逆に幸せである自分に罪悪感を抱く……。
 インド料理パーティで、かつて故郷で兄にねだった焼き菓子を発見し、望郷の思いは募る。記憶の中の兄映像がやたらとフラッシュバックするトラウマ映像表現が少々くどい感じで、実際はもうちょっと落ち着いた感じだったのでは、と想像。ただまあ、ほとんど忘れてたけど興味本位で始めたら引っ込みがつかなくなった、ぐらいの動機だったとしても、それでは映画にならんからこういう描き方になるかな。

 ガールフレンド役にはルーニー・マーラ。登場時の無駄な可愛さ、ベッドシーン、喧嘩したり一緒に感動してくれたり……こりゃ一体なんなんだ? という感じだが、感情移入させるための装置であろうか……。ルーニーも自分の役に大して意味がないことがわかっているのか、開き直ってひたすら可愛くやっているような。

 時系列通りに丁寧にお話を追っているので、グーグルアースで故郷を探す部分のテクニカルさはさしたる分量もなく、ちょっとあっさりしている。が、終盤になって序盤の丁寧な描写がようやく効いて来て、サルーの少年時代を追体験したことで、彼が記憶を辿る過程にうまくシンクロできるようになってくる。そして、訪れる感動のラスト……!

 例によって、エンドロールの実際の映像や写真の方が感動するのだが、まあそれも含めて実話ベース映画ということで。サルーはいいとして、マントッシュ君は立ち直れたのであろうか、と心配になってしまうのだが……。

”お前はそんな奴じゃない”『ムーンライト』


ブラッド・ピット製作総指揮!映画『ムーンライト』予告編

 アカデミー作品賞受賞作!

 リトルと仇名され、いじめられている内気な少年のシャロンは、ある日、フアンという男に助けられる。生きる道を教えてくれたフアンを慕うシャロンだが、彼は麻薬のディーラーでもあり、母は彼からクスリを買っていた……。時が流れ、高校に行くようになったシャロンだが……。

 『ラ・ラ・ランド』と受賞を争い、式におけるあのお騒がせな手違いが有名になりましたが、日本でも拡大公開となりました。昨年が「白人ばかり」と批判されたエクスキューズとしての受賞、という面も否定できないかもだが、シンプルな構成で面白い。

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 冒頭のマシンガン撮影には、えっ、と思わされたが幼年期、少年期、青年期と三パートに分けられた中盤以降はどんどん落ち着いてきて安心。あまりトリッキーなカメラワークが続くと疲れるからな。
 漠然とした不安感の強い幼年期、主人公のシャロン少年は、メンター的存在になってくれるフアンと出会う。父親不在で母と暮らす彼のロールモデルになり得る、たくましく強い男。パートナーにも愛され尊敬されていて、子供にも優しい。その優しさは強さと賢さに裏打ちされていて、シャロンを肯定し、すでに自覚が芽生え始めていたゲイであるということも受け入れてくれるのである。
 ……とまあ、悪いことなしなのかと思いきや、職業だけがヤクの売人で、しかもシャロンの母親が常連客というドツボ! 三部構成を振り返ると、シャロン少年には何度か転機があり、それによっては青年期の状況もまた違ってきたのではと思わせるのだが、様々なことがネックになってうまくいかない。さらにこのフアンさん、二部以降は出て来ず、ああ……やっぱり長生きはできんのね、こういう生き方は……と思わせる。

 少年期はイジメが苛烈になり、沈み込む一方のシャロン君に対し、相変わらず明るく接するものの調子よく世渡り上手に楽しんでいる幼馴染のケヴィン君。幼年期からいい奴だったが、今やそのコミュニケーションスキルを活かし、女の子にもモテモテ。さらに月光の射す海辺でシャロンともいい雰囲気に……。
 なんかこの辺り、そのコミュニケーションスキルの高さとバイセクシャルであることが都合よく同じもののように扱われている気がしないでもない。コミュ障のバイも普通にいるだろうという気がするが……?
 そしてケヴィン君、いじめっ子にも調子を合わせていたことが災いし、大勢の目の前でシャロンを殴らされることに。幼馴染を取るか、空気を読み続けるのか問われる展開だが、苦渋の表情でシャロンを殴り飛ばすケヴィン! ひどい!
 学校でカウンセリングを受けるシャロンだが、カウンセラーは「大の男が殴られて……」みたいなことを言って、まったくわかってない感が半端ない。こんな奴は信用できない、ということで、独力で復讐に手を染めるシャロンであった……。

 青年期では「えっ!?」となるぐらいにガチムチのマッチョになっているシャロン。かつての面影はないが、演技と演出で寄せてるのがさすがだな……。その後、少年院に行ってヤクの売人になってのしあがった、というフアンと同じコースをたどっている。マッチョだし、これはさぞモテるようになっているだろう、それはそれで良かったな……と思ってたら、どうも裏社会で強く見せるにはゲイはご法度なのか、相変わらず周囲には秘密だったよう。ムキムキで歯も金ピカで、もはや見た目だけでいじめられるようなことはなくなっているとはいえ、悲しみが止まらないな……。

 そんな折、あのケヴィン君から電話。あの時はすまなかった……また会いたいと語る彼。許せない、忘れたいと思っていたけど、正直言うと、再びコンタクトを取ってしまえばきっと許してしまうと気づいていた……。
 彼の働くダイナーにそっと行ってみることにしたシャロン、店の近くに車を止めて、いそいそと髪と服装を直す。完全に初恋の人に会いに行くモード。
 久々にあったケヴィン君の、白シャツが似合う地に足のついたカタギっぷりがカッコよく、また料理をするところも知的だ……。その彼の前で上からハメてるだけの金歯を外して、ちょっと恥ずかしそうなシャロン……トキメキすぎだろ!

 人種、貧困、性差の問題などきっちり練り込みながら、普遍的なラブストーリーの色合いを美しい映像で仕上げた秀作で、びっくりするようなインパクトはないが観やすいし完成度も高い。これはこれでアカデミー賞に相応しい映画だし、同じ恋愛ネタとして『ラ・ラ・ランド』と賞を争ったということで比べて観ても面白いですね。
 個人的には、ダイナーのシーンで、テーブルに落としてしまった豆を拾って食べたところに、一番共感しました。

”うつくしさとは”『ブラインド・マッサージ』


映画『ブラインド・マッサージ』予告編

 ロウ・イエ監督作。

 マッサージ店を経営するシャーの元に、同級生のワンが恋人を伴って訪ねてくる。商売に失敗したワンを助けるため、彼をマッサージ店に雇い入れるシャー。だが、若手マッサージ師のシャオマーが、ワンの恋人のコンの色香に惑い……。

 『二重生活』もなかなか強烈だったロウ・イエ監督の新作。

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 最近、自分の通っているマッサージ屋も目の不自由な人が施術してくれるのだが、その所作を思わせるシーンがあちこちに。いや、今作はこのディテールと撮影だけで、まあ細かい話はどうでもいいだろ、と思わせる迫真感でありました。
 役者は演技しているだけで実際は見える人、本当に見えない役者でさえない人が混在していて、まあルックスでだいたいの区別はついてしまうのだけれど、スクリーン映えする演技と存在感はどちらも満点。

 従業員同士の中でやたらモテる人が「見た」ところあまり可愛くなくて、客に人気のある人は確かに美人だが自分では別に自覚がないあたり、日頃気にしてる美醜の認識がどれほど視覚に依存してるかに気付かされますね。
 彼らの日常描写の中の細かいディテールを徹底的に積み重ねて来るのだが、無論、性的なこともそこには含まれる。何ら変わりないことがある反面、認識がここまで違うのかと思わされることも。また、生まれた時から全盲の人と、後天的に視力を失った者の差異、さらに「視力を取り戻す」という展開もあって、それら全てを巧みなカメラワークで追体験させて来る。

 見ていて、目から鱗の連発で、日頃、自分が何気なく享受している視覚の恩恵を意識させられるし、また、それがない人の世界の、ある意味変わらぬ豊潤さも見えて来る。
 結婚願望強すぎでしょっちゅうお見合いしている院長のギラギラした感じや、その院長に頼ってくる元同級生の金のなさ、その間で全然ぶれない副院長の姿も、まさに人生の深さだなあ、という気がするのであります。

 原作小説があるのだが、小説なら悪く言えば字で書けばいいだけのこういう設定を、ここまで完璧に再現してみせるのがまずすげえとしか言いようがないし、軽くやったらトンチキな展開になりそうなところに、説得力を持たせてしまうビジュアルの数々もすごいですね。一見の価値はある一本でありました。

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ブラインド・マッサージ (エクス・リブリス)

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”実は上海の恋”『シチリアの恋』(ネタバレ)


【Kstyle】イ・ジュンギ主演映画「シチリアの恋」予告

 チョウ・ドンユイ主演作!

 結婚を約束したジュンホとシャオヨウ。だが、突如ジュンホが別れを告げ、オペラの勉強のために故郷のイタリアに帰ると告げる。その後、連絡を絶って3ヶ月。孤独な日々に沈んでいたシャオヨウの元に、ジュンホの死の知らせが……。

 さて『七月と安生』ではちょっと度肝を抜かれたので、今作もちょっと気になっていたところ。韓流スターと台湾のイケメン俳優に囲まれ、三角関係映画か?と想像していたところ。
 まあしかし、正直出来には期待していなかったが……すごかったな……悪い意味で。

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 主演はイ・ジュンギ。二十代前半ぐらいの役だが、この人、結構昔から見るよな……。『王の男』ではほんとに若かったが、今や三十過ぎてるよ! 『御法度』に出てた松田龍平の今現在という感じね。今作でスクリーン復帰ということだが、去年に『バイオハザード ザ:ファイナル』で走らされてた方が記憶に新しいんですが……。

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 お話は建築事務所で共に働く二人が別れるところから始まり、一人、故郷のシチリアに帰ったイ・ジュンギが火山に落ちて死んだとの訃報が届く……。
 まず邦題から突っ込んでおくと、話の舞台は主に上海で、シチリアはスポット的に登場しますけどそこで恋愛はしませんからね。フラれてやさぐれていたチョウ・ドンユイ、訃報にますます荒れ狂い、葬式にも出ずにどんどんダメな人になっていく。建築事務所も、全然仕事できないのに彼氏の採用条件として無理やり採ってもらってたことが明らかになり、次の仕事をぶち壊しにして休養を申し渡される。
 「何で死んだのよ!」と家で荒れ狂い、窓から物を投げ捨て、湯を沸かしっぱなし、風呂を出しっぱなしで眠りこみ、下の階に引っ越して来たピアニスト、イーサン・ルアンのピアノを水浸しにして、自らもガスでおっ死ぬ寸前に……。
 職場でも同僚に憎まれ口を叩き続け、「あんた、私の彼のこと好きだったんでしょ!」と自らの執着心が怖い発言を……。さらに、彼が手がけていたバーの内装の仕事を無理やり引き継ぎ、溶接工も追い返して一人で作業。

 もうダメだ! この女、もうダメだよ! メンヘラすぎ! いやあ、すごい演技力なのは間違いないが、これは期待していなかったよ。共感度ゼロなのに、なぜか事務所の所長やイーサン・ルアンは厳しいこと言いつつこの女に甘いのだ……。が、まだ映画は半分弱で、この後、実は生きていたジュンギ再登場で、メンヘラが二乗になっていくのである。

 父親の再婚で涙目になっていたドンユイに一目惚れ……という恋愛の始まりからしてすでにしんどいのだが、ここから二人の大学時代が始まる。正直、このパートがまだ一番観られたんだけど、韓国語喋るイ・ジュンギと中国語のドンユイが、お互い両方理解できるから、という理由でそれぞれの言語を通し、全然ギャップ感がないのもすごいな。
 フラッシュモブでドンユイのハートをつかもうとするジュンギだが、あれだ、韓流スターにはダンスシーンを絶対入れなければならないという縛りでもあるのか……?

 なんだかんだで付き合い始めた二人(性的な匂いはゼロです)、しかし実はジュンギは父の遺伝で脳に腫瘍ができていたのであった……。やっと最初に別れたシーンにつながり、全ては狂言だったことが明らかに。葬式も生前葬で、すべてはドンユイに自分のことを忘れさせるためだったのだ……。まあそういうことなら、二度と会わずに大人しく死を迎えればいいと思うのだが、やっぱりまた上海に戻り、二人で暮らした部屋の上の階の部屋を借りてストーカーモード発動。きっちりイーサン・ルアンには見られてバレバレだったりする。

 別れずに死を看取ってもらうか、別れて本気で姿を消そうとするけど見つけ出されてしまうか、どっちかならいいと思うんだが、別れて姿を消したけど死ぬまでまだ時間があったので未練がましく周囲をちょろちょろし続けるこの展開、やばいな! で、このしわ寄せを全てを背負うのが建築事務所の所長……気の毒すぎだろ!
 全然溶接の進まないドンユイを助けるため、夜中に作業を進めるジュンギ、駆り出される所長……。ついに昏倒し鼻血を吹くジュンギを車に乗せて病院に搬送。ここで鼻血がカピカピの塊になって鼻にくっついてるメイクが、ものすごいリアリティだった! 客席で、むしりたくて思わず手が動いたからな。メイクさんの渾身の仕事じゃない? 展開には一ミリもリアリティないんだが!
 手術終わって縫い跡のある後頭部(ダブルの人)を見せた後、ニット帽をかぶる『恋空』方式で通すジュンギ。もみあげ見えてるぞ……。
 このあたり、韓流スターパワーが悪い意味で牙を剥きすぎという感じで、アイドル映画にせよもうちょいなんとかならんかったんか……。

 突っ込みどころを上げてるともうきりがない。韓流スターもそうだが、チョウ・ドンユイの『七月と安生』に続くふてぶてしいキャラもハマりすぎてて、逆に反感しか買わなくてすごいよ。脚本の時点ですでに正気の沙汰とは思えないのだが、キャスティングだけは妙に噛み合ってしまって逆効果。演技力を発揮すればするほど痛くなっていく……。関わり合いになりたくはないけど、これはこれで一つの人物だな、と認めざるを得ないレベルに到達……。
 ラストカットの涙で韓流スター力もねじ伏せて持っていくあたりはさすがだったが、もうちょい出る映画は選んでほしいものである。料理の仕方によって、トリックスターになるのか、わがままなモンスターになるのかで違ってくるのな……。チャン・ツィイーの『ソフィーの復讐』はもうちょい面白かったからな。
 今年のベスト級とワースト級をこれで見てしまったことになる。新作は金城武と共演らしいが、果たして日本上陸はあるかな……?

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”永遠のトリックスター”『七月と安生』(ネタバレ)


『七月と安生 / SOUL MATE / 七月與安生』 予告編 Trailer

 大阪アジアン映画祭2017、九本目!

 上海で暮らす李安生の元に、映画会社からの連絡が届く。彼女が登場するweb小説『七月と安生』の作者、林七月を紹介してほしいというのだ。安生と七月は幼馴染で、親友だった。小説には、二人の出会いから現在に至るまでが克明に描かれ……。

 今年もいよいよラスト一本となりました。全然予備知識なしで観たのだが、web小説というトレンド要素を、十数年に渡る女子の友情と絡めた現代劇。七月=チーユエ、安生=アンシェンという人名です。
 同タイトルのweb小説が話題となり、作者である七月を探すための取材が安生の元にやってくるところから始まる。安生役はチョウ・ドンユイ。まあしかし最初から度肝を抜かれるのだが、この子の演技と存在感が半端ねえ。いったい何者なんだ?と思ったら、チャン・イーモウが『サンザシの樹の下で』で見つけてきた子か……。同じくイーモウ監督の『初恋の来た道』でデビューしたチャン・ツィイーに匹敵する才能ではないか。昔、ポスターを見た時に、「今度は地味な顔の子だな……」と思ってスルーしたのであった。

 平凡だが幸せな家庭に育ち、波乱のない人生を歩もうとする七月と、父親不在の家庭で自由を求める安生の対比で物語は進む。間に立つ男が出てきて、子供の頃から仲良かった二人は三角関係になっていくのだが、安生は恋愛関係からは一歩引いて、大人になる前に街を出て行ってしまう。
 まあこの安生のキャラがフリーダム過ぎてびっくりするのだが、奔放なようでどこかしら自傷的でもあり、あえて七月と離れていくような行為には切なさが漂う。互いに手紙をやり取りする展開があるのだが、安生が送った手紙は届いても、七月が返事を書こうとした際にはもう安生は元の場所にはおらず、鉄道や船で違う場所に行っていて届かない。すれ違いは徐々に深まっていく。

 これらが全て、web小説の連載という形で少しずつ語られていく。作者である七月の心の内を読む安生は何を思うのか……? と、映画は二人の心理を克明に追っていっているかに思えるのだが、成長した七月はなかなか登場しない。
 物語が核心に迫るかと思った瞬間にひらりとかわされ、人を食った笑みを見せる安生……。彼女が自由を得た代償として、七月は平凡な人生を歩まねばならなかったのか? この小説は、そういった安生に向けた恨みつらみなのか? 今、七月はどこで何をしているのか?

 トリッキーな構成で、ミステリ的に謎が謎を呼んでいくのだが、いわゆる「信頼できない語り手」による過去回想は、目の前に展開された映像が作中で起きた真実とは限らない。事実として語られた少女時代から、大人になろうとする後半にかけて物語はドライブしていく。次第に虚実の境界は曖昧になる。

 子供の頃からいたずら好きで、本心をなかなか見せないキャラクターとして描かれる安生は、どこか自身の人生を冷めた目で見ており、規定のレールを嫌う。時に反感を買ってでもそれを飛び越えようとするし、またそれをメタ的に解釈してもみせる。主人公であるのにトリックスター的な存在であり、物語をかき回してくる。
 そんな彼女もまた、長じるに連れて人生の平凡さの中に落とし込まれていくのかな……と、夫と娘を持った安生の姿を見て観客は感じるのだが、いみじくも娘が告げる。「七月は、お母さんのペンネーム」……!

 落ち着いた平凡な大人になったかのように見せながら、トリックスターはやはり永遠にトリックスターであるという結末が、実にこのキャラクター、演じているチョウ・ドンユイに似つかわしく、唸ってしまったね。
 その構成ゆえに二人の関係性は、リアルさよりもフィクショナルさの方が際立ち、物語としての面白さが先だったように思える。ただ、このお話自体がすべて安生の語ったものであり、実は七月視点のシーンは一瞬たりともないことは踏まえておきたい。人は自身の目をもってしか人生を、世界を見ることはできないし、安生は安生の価値観でしか物事を測れない。二人の関係は、結局はどこかしら一方通行のままで終わりを迎え、残された安生は、自らの中に残った七月の足跡をたどり、彼女を弔い続ける。どこまでもトリックスターとしてだ……。

 今回のABC賞を取ってテレビ放送が決定したわけだが、それも納得で、エンタメ性では今年見た中ではトップだったんじゃないかな。同日に上映された『姉妹関係』と同じく、二人の少女の関係性を描いているようでいて、社会的しがらみからアプローチした前者に対し、逃れようのない人間の「さが」を描いているようでもある。

 今年のアジアン映画祭もこれにて終了。後半に来て一気に盛り返したなあ。今年も堪能しましたね。

今日の買い物

ニューヨーク1997』BD

 カーペンター監督作。『エスケープ・フロム・LA』はitunes版で持っている。


巌窟王』BD

巌窟王 Blu-ray BOX

巌窟王 Blu-ray BOX

 DVDから買い替え。画質もめちゃ綺麗でいい買い物したわ。


戦国BASARA The Last Party』BD

 4枚組につき、当時買い渋ったものが、今や投げ売りになっていたので購入。ブームの終わりって悲しいな!
 公開時の感想。
http://chateaudif.hatenadiary.com/entry/20110605/1307266487