読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

"まだ満足できないの?"『二重生活』


 ロウ・イエ監督作。


 娘と夫ヨンチャオの三人で暮らすルージエ。夫と共同経営する会社は子育てのために距離を置いているが、生活には不自由していなかった。しかしある日、遊園地で娘と同じ組になった男の子の母親から、ある相談が持ちかけられる。自分の夫が浮気していると……。だが、指し示された先で、ホテルから若い女と共に出てきたのは、ヨンチャオだった。目の前の女は何者? そして夫は何をしているのか?


 サスペンスもののような出だしで始まるオープニング。自動車事故によって撥ねられ死ぬ若い女……。撥ねられる以前から怪我をしていた様子だったが、事件の真相は……?


 会社を共同経営する裕福な夫婦の日常が描かれる。妻は娘を幼稚園に預け、年下のママ友とおしゃべりする、何気ない日常。しかし、ママ友に夫の浮気を相談され、今も愛人と密会しているとホテルの前の店に連れて行かれる。女連れでホテルから出て来たママ友の夫は……自分の夫だあああああああああ!
 夫が自分たちと別の家庭を持ち、なおかつさらに別の愛人をこさえている、というわけのわからなさすぎる状況が一挙に明かされ、半ばパニック。どうなってんのこれ!


 ママ友の方は自分が二番目の妻だと知っていることが明らかになり、三番目の愛人が登場したことで一番目も巻き込んで別れさせようとした……という、まあ昼ドラのようなドロドロしたストーリーが展開される。『愛のタリオ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150216/1424086289)に続いてあまりにゲスい男が登場。全てをばらした二番目の妻を犯しながら「売女! 売女!」。いや、もう何言ってるのか意味がわからない。


 最初の妻と二番目の妻は、お互い反目するようになりつつも、どこか親近感も抱かずにはいられない、という不思議な関係に。最初の妻が一番美人で巨乳なのだが、二人目の妻、三人目の愛人と、どんどん地味になっていくあたりが何かリアルでイヤすぎ! 二人が幼稚園で他のお母さんを見て「あの人、身体ぶよぶよ! 私たちもいつかああなるのかしら……」と話すシーンが示唆的だ。若さか、結局は若さなのか!
 さらにその三番目の愛人こそが冒頭の交通事故の被害者である……いったい、四人の間に、この四角関係のもつれの中で何が起こったのか? 事故として処理された事件に、一人の刑事が迫る……。


 ロウ・イエ監督、久しぶりに中国本土で映画を撮ったということだが、ここ数年でとてつもない車社会になった現代中国をそのものずばり描くような自動車爆走&事故シーンから幕開け。延々と伸びるハイウェイ、排気ガスの靄に覆われた街々……。その常に鬱屈したような曇天の中では、男女の関係も常にもつれている……! 最近の『薄氷の殺人』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150122/1421898990)も大陸の空気感を見事に切り取った映画だったが、今作もまさに今の中国の日常に切り込んでいる。
 「母が男の孫を欲しがった」という言葉に象徴される、中国の一人っ子政策も裏テーマになっていて、女同士の意地の張り合いの向こうに、社会に抑圧された者の姿が透けて見えるのである。その向こうで好き勝手する男……。


 話はベタベタなんだけど、さすがにカットごとの格好良さがすごいので、なんだか高尚な映画のようである。まあ事故シーンの真相が明かされるところの力の入り方が異常で、すさまじい身体性だね。あのシーンがあるおかげで、そこまでダブルヒロインだったのが、彼女もまた三人目のヒロインであったのだとさえ思わせる。そこからつながるラストは思わずぎょっとさせられつつ、不穏さと解放感が溢れ出る見事なカット。
 結末はぼかされ、観客の解釈に委ねられているが、やはりああして「死者」が解放された以上、手を下した三人には明るい未来は待っていようがないのではないかな……。まるで黒沢清の映画みたいなことを言ってますが!

パリ、ただよう花 [DVD]

パリ、ただよう花 [DVD]

天安門、恋人たち [DVD]

天安門、恋人たち [DVD]

パープル・バタフライ [DVD]

パープル・バタフライ [DVD]